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カテゴリ:Movie (アンドレ・ユヌベル)
この映画の売りであるフェンシングでの格闘シーンは、律儀なことに、ほぼ25分に一度は行われる。「体育会系ジャン・マレー」の魅力が炸裂する場面。コクトーやヴィスコンティ作品では重きをなしていなかったが、ジャン・マレーという人がもっている溌剌とした陽性の魅力を、飛んだり跳ねたり走ったりといったアクションシーンで引き出したのは、ユヌベルのような純粋な大衆向け娯楽作品を得意とする監督だろうと思う。 マレー自身も自伝の中で、初期の『カルメン』(1945年)のクリスチャン・ジャック監督は、マレーの中に冒険を好む気質があるのを見抜き、それを利用した、と書いている。クリスチャン・ジャックとマレーは、ずっと後の1966年にも1本映画を撮っている。 さて、騎士が恋する姫のために、悪者と戦っているというのに、巻き込まれたくない詩人のほうは…… 言ってることはハムレットだが、要するに馬の足に細工して走れなくし、戦闘が終わったあとに登場しようという魂胆。 リボンの騎士のほうも、自分を救うべく闘ってくれた騎士にお礼も言わずに行ってしまったうえ、今度は城に幽閉されてしまう。 逃げられても追いかけるド・カペスタン。幽閉された彼女の救出に(頼まれもしないのに)やってくる。 城に着いた騎士とその友・詩人(自称)。 時間は、 …って言ってますが…… どっからどう見ても晴天の真昼間ですが? このあと湖を泳いでわたり、この城壁をよじのぼってリボンの騎士を救出するド・カペスタン。 どうもジャン・マレーという人は、もともと「高いところによじ登る」のが大好きだったらしい。戦争中、非常に高い鐘楼の上での見張り役をやっていたマレーに、ジャン・コクトーは手紙で、「なにがあろうと、鐘楼の十字架によじ登るような無意味な勇ましさを見せようとしないで。ぼくが君だけに生きていることを忘れないでほしい。お願いだから、ぼくの苦悩を君の生来の好奇心やむこうみずで倍加しないで」と書き送っているのだが、コクトーの懇願は、このシーンを見る限り…… 無視されたと思う。 キャロル・ヴェズヴェレールも「マレーが俳優連合の余興で、酔っ払い に扮して街灯によじのぼって、てっぺんで体を揺すってみせたとき、コクトーは真っ青になって今にも倒れそうな様子で見守っていた」と言っている。最愛の人に「やめて」と泣きつかれても、サッパリやめないジャン・マレー、あんたはエライ! コクトーがいみじくも言い当てたように「生来」なんでしょう、この人のswashbuckling(むこうみず)は。 映像の合成技術が発達した今なら、こうしたシーンで役者が実際に城壁に張り付く必要もないだろうが、この当時の映像を見ると、合成された画面(たとえば走る車の中と流れていく外の景色)などは、とてもチープ。やはり、ジャン・マレーが実際に城壁に張り付いて、ロッククライミングよろしく、ある程度実際に登っているのは間違いない。 このあと、高い窓からロープでぶら下って左右に振られたりしてる。イマドキの映画と違って、ワンカットが長く、マルチカメラでアングルを変えて撮ったカットをつないだりもしない(カメラはせいぜい上に1つ、下に1つ)ので、観客はまったりと「危険なシーンを体当たりで撮ってる役者」の姿を追うことになる。このクラシカルでシンプルな映像には、逆に、「これは相当アブナイ撮影だったでしょ」と思わせる、現実的な臨場感がある。 さて、そんな危険をおかして忍び込んだ城内。リボンの騎士を捜してると、向こうから悪者たちの足音が……! で、こんなふうに身を隠すド・カペスタン。 40代半ばで赤いタイツとは、おフランスの伊達男はやることが違う。 頭上にこんな目立つ色のタイツを履いた脚があるというのに…… 何も気づかずに通り過ぎる悪者たち。 無事リボンの騎士を救出し、隠れ家に連れてくるド・カペスタン。 ヨーロッパ中の美女をお姫様抱っこしてきたジャン・マレー。当然、エルザ・マルティネリも…… マルティネリのカワイイこと、カワイイこと。 ド・カペスタンの腕の中でつぶらな瞳をパチパチ。 このころのマルティネリのコケティッシュな美しさは最高。思わず巻き戻してじっくり観賞……(笑)。 で、このあとは、もちろん…… こうなるワケで(なんて、わかりやすいベタな展開だろう、時代劇はこれでなくっちゃね)。 2人は結ばれました、メデタシメデタシにはちょっと時間が早かった。 それを観客に予感させるのが、このあとのシーン。隠れ家が映し出され、太陽の位置が変わっていくのを早回しで写して、時間の経過を暗示してる。 これは明らかに、ジャン・マレーの出世作『悲恋(永劫回帰)』で、マレー演じるパトリスと駆け落ちしたヒロインのナタリーが、2人が暮らしていた小屋から姿を消してしまうシーンで使われたショット(『悲恋(永劫回帰)』のこの場面については、4月16日のエントリーを参照) 明らかに過去のジャン・マレー作品へのオマージュなのだが、案の定、隠れ家にド・カペスタンが戻ってくると…… 置き手紙を残して、またもリボンの騎士は消えるのであった。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.09.20 23:59:53
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