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フィギュアのグランプリ・シリーズ第3戦、中国大会での、女子ショートプログラムをテレビで見た。解説は伊藤みどり。
またも安藤選手とキム選手の対決となった。安藤選手は前回のショートでの失敗(3+3の回転不足、トリプルフリップの減点、ステップでの転倒)をどれくらい克服できるかという視点で見た。まだISUがプロトコル(詳細な判定ののった成績表)を公表していないので、ハッキリしたことは言えないが、最初の3+3は素晴らしい出来だったと思う。フリップは残念だった。これで2回続けて減点ジャンプになってしまった。本人は満足していないようだったが、後半のステップも無難にこなし、全体的によくまとまってきた。今回は転倒もなかった。だが、やはりちょっとしたミスは多少目につく。それでも去年のエッジ矯正にともなう絶不調からは立ち直っているから、今後に期待ができる演技だったと思う。加油! トリプルアクセルからの3回転のできる女子選手がいない現状では、安藤選手の3Lz+3Loは女子では最高難度の連続ジャンプだ。安藤選手の場合は高さと回転速度、ジャンプの流れ、すべてが非常に美しい。なぜか飛距離のあるキム選手やコストナー選手のような連続ジャンプにばかり大盤振る舞いの加点がされるが、安藤選手の最高難度の連続ジャンプはもっと評価されていいのではないか。 セカンドジャンプがループジャンプだから、もともと飛距離は出ない。キム選手がループジャンプを非常に苦手としているのは、彼女がどちらかというと「幅」で回る選手だからだ。高くジャンプして早く回転しなければならないループジャンプを、それも3回転でセカンドにもってくるのだから、安藤選手のジャンプの技術がいかに高いかわかろうというものだ。だが、伊藤みどりが解説で言った、「これでもジャッジは厳しく取るんでしょうか」という言葉。あれがすべてを表している。ループジャンプはもともと若干回転不足気味になりやすいジャンプ。前大会では、安藤選手の3+3はループが回転不足判定でダウングレードされた。今回は点数から見れば3+3と認定されたのではないかと思うが、とにかくプロトコルを見るまでは、ほとんど「誰もわからない」状態なのだ。 「誰もわからない」といえば、今回キム選手のトリプルフリップがついにwrong edge判定された。これは誰も予想していなかったハズだ。伊藤みどりもキム選手の連続ジャンプを解説でベタ褒めしていた。アナウンサーともども、キム選手の演技が終わったときは、前大会の点を超える、70点台が出ることを予想したはずだ。ところが結果は63.64。もちろん高い得点だが、「異様なほどの高得点」に慣れたキム選手もコーチのオーサーも、キス&クライで驚きの表情を隠せなかった。演技直後の笑顔が、得点が出ると消え、次第に顔がかたくなり、最後は首をひねっていた。これは前大会の安藤選手とモロゾフコーチの表情の変わり方にそっくりだった。 ダブルアクセルでお手つきをした前回より、伊藤みどりも「出来はいいんじゃないんですか」と言っていた。スパイラルのつなぎで若干ミスはあったが、Mizumizuも前回よりいい出来だと思った。キム選手も得点が出るまではそのつもりだったはずだ。前回のキム選手の連続ジャンプはセカンドジャンプが若干回転不足のまま降りてきたように見えた。スローでは明らかに着氷してから回っている様子が映し出された。だが、ダウングレードもなく逆に加点された。また、最初に跳ぶトリプルフリップも正面からスローで映ったが、エッジが規定どおりインサイドにのっていないのは明らかだった。 キム選手のフリップが若干アヤシイことは、すでに前大会の記事で書いた。Mizumizuは去年からずっと指摘している。だが、他のトップ選手が軒並みエッジの間違いで容赦なく減点されるなか、キム選手だけは、一度もwrong edgeを取られたことがなかった。去年までは、キム選手のフリップだけは、なぜかカメラの位置が常に真横からで、どちらにのって踏み切っているのかハッキリわからなかったのだ。だが、きちんとインにのってないことだけはわかっていた。といって、アウトに入ってしまっているかどうかもよくわからない。フラットな踏み切りに見えた(これも去年のエントリーで書いている)。 前大会では、先日のエントリーでも書いたように、キム選手のフリップは内側にのった軌道で滑ってきて、踏み切る直前にエッジが戻ってしまい、外側にのりかける直前ぐらいに踏み切っていた。これは前大会のスロー再生がキム選手の正面から撮られたものだったから明確にわかったことだ。今回の中国大会のスロー再生は、キム選手の斜め前から撮ったものだった。これで見ると確かにアウトに入ってしまってから踏み切っているように見える。wrong edge判定されても仕方ないだろう。 だが! それならば、なぜ去年は一度も、ただの一度も、誰もwrong edge判定しなかったのだろう? 踏み切りというのはクセだから、キム選手が今年の中国大会に限って間違ったなんて話ではないと思うのだ。もちろん、「急に」エッジが変わってしまうことはある。男子でも本田武史選手が、たまにやっていた。だが、キム選手の場合は、ジュニア時代からずっとあの跳び方だ。 ちょうど浅田選手のルッツと逆になる。浅田選手はルッツでwrong edge判定されたが――それも、去年はすべての試合で、踏み切りの足元がスロー再生でよく見えないときでさえも、お決まりのように「すべて」引かれたのだ――彼女の場合は、エッジの外側にのった軌道で滑ってきて、踏み切る瞬間グッとエッジが内側に入ってしまう。キム選手は浅田選手のルッツほどは明白ではないが、これまでだって「あれ? フリップなのに最後にエッジが外側に入って踏み切っている?」と思われるジャンプはいくらもあったのだ。 テレビの解説者も、浅田選手のルッツについては、途中からさかんに、「ちょっとエッジがインサイドだったですかね~」と言い出したクセに、キム選手のアヤシイフリップについては誰も一言も触れなかった。逆に騒ぎ出したのは一般の素人のネットユーザー。「キム・ヨナのwrong edge」と称するビデオがさかんにネット上にアップされ、ほとんど「おまつり」状態にされている。 去年までのキム選手のフリップと今回のキム選手のフリップで何が違うかというと、それは「スロー再生されたカメラの位置」だけだ。去年の大会はスロー再生が出ても、ほとんど真横から撮ったもの。あれでは正確には見えない。今回はたまたま斜め前から撮ったものだったから、アウトにのったように「見えた」のかもしれないし、あるいはアウトにのったのが「わかった」と言うべきなのかもしれない。 これで、いかに判定というものが、ジャッジによってまちまちかということが、また露呈された。プロの解説者のジャンプ評価がまったくアテにならない。伊藤みどりは、キム選手の3+3もルッツも大きな問題があるとは思っていなかった。ルッツは、若干降りてから回っていたようだが、新聞報道によれば回転不足判定されたのだという。ダウングレードなのか、GOEだけの減点なのか、まだプロトコルが発表されていないのでわからないのだが、着氷がいつものようにピタッと決まっていなかったのは確かだ。3+3でのwrong edge判定、ルッツの回転不足判定。この2つで、お手つきした前回より6点も点が下がった(とはいっても、この2つの減点がありながら、60点台というのは点数の出方としては、非常に高いのだが)。 言いたいのは、いかに「判定」で点が違ってくるかということだ。判定に信頼が置けるならいい。だが、その判定は、解説をしてるプロのスケーターですら予測ができず、まさに「そのときのジャッジがどうするか」で180度かわってしまう。判定に使われるカメラの位置によっても、かなり違って見えるようだ。さらに去年より回転不足判定は厳しくなっているようで、点数がでるまでやたらと時間がかかる。氷上で待たされる選手は、秒単位で集中をはかってくるから、判定までの時間がバラバラだというのは精神的に非常に負担になる。 プロトコルを見るまで、誰も判定を予想できないような採点。昨シーズンより今シーズンのほうがさらにわかりにくくなった。キレた現役のトップ選手が、「審判は採点について説明をすべき」だと怒りをぶちまけている。まったくだ。こんなにバラバラで、「人によって大きく違う」判定のまま、来年のオリンピックに突入するつもりなのだろうか? 日本では今フィギュアブームだから、いっぱんの素人のファンも、採点があまりにわかりにくいと驚き、疑問を持ち始めている。このままオリンピックになったら、誰が判定をするにせよ、しこりが残らないわけがない。いつまでも「プロトコルが出るまで誰にもわからない」採点方法を続けるなら、ハッキリ言って、フィギュアというスポーツの危機だ。 去年wrong edge判定を厳しくするという通達があったとき、大半の女子のトップ選手は――安藤選手、つまり彼女をみていたモロゾフ以外は――それを甘く見ていた。実際「シーズンに入ってみないとどれくらいの減点になるのかわからない」と関係者は言っていた。ところが、浅田選手の初戦では、ルッツに対してGOEでマイナス3などという減点をしてきたジャッジがいた。これではトリプルを跳ぶ意味がなくなってしまう。浅田選手は自身のグランプリ・シリーズ第2戦では、シニアに入ったからのワースト点数記録を更新してしまい、思わず泣いていた。 浅田選手が泣いたからというわけでもないだろうが、なぜかその後ルッツのエッジ間違いへの減点は平均して1.3点ぐらいに落ち着いてきた。だが、「減点する」としながら、試合によって減点がバラバラになるのは一体なぜなのか、合理的な説明ができる人は誰もいない。もちろん、その場その場で、点数を後付け説明することはできる。「wrong edgeとはいっても、ちょっと反対側に入っただけだったから」「今回はだいぶ反対側に入ってしまっていたから」などなど。 キム選手の3+3のフリップのwrong edgeへの減点は0.8点だったという。これは明らかに減点が少ない。通常、wrong edgeの判定が出ればGOEで加点・減点を出すジャッジは、自分たちの裁量で加点はできないはずなのだ。韓国の一部新聞報道によれば、「教科書ジャンプ(であるはずの)キム・ヨナのジャンプに対して、誤ったwrong edge判定が行われたため減点しなかったジャッジがいた」とのことだ。韓国の新聞も日本の新聞と同様、フィギュアに関しては間違いが非常に多いので、この記事自体が本当がどうかわからない。だが、もし本当だとすると、それは「減点しなかったジャッジ」のほうが間違っている。判定するジャッジと加点・減点するジャッジは役割が違う。wrong edge判定が宣言されたところで減点するのが決まりのはずだ。それを無視してよいというなら、判定はさらに各ジャッジでバラバラになり、収拾がつかなくなる。繰り返すが、Mizumizuも判定は審判や試合によってバラバラで、実に信用置けないものだと思っている。だからといって、それを加点・減点するジャッジみずからが無視してよいというなら、審判による判定制度そのものを当のジャッジが否定したことになる。 wrong edge判定を厳しくする――といいながら、実際にはGOEでの「自由な」減点にまかせているから、こんな不公平と矛盾が起こるのだ。今シーズンからE判定と!判定(!判定はwrong edgeといっても、「ごく短い」場合に適応される)まで設けて、さらに厳密にしているようでいて、実際にはE判定と!判定で減点がどのくらいになるのかは、ジャッジ任せなのだ。E判定は全体から1.5点の減点、!判定は0.5点の減点、そのジャンプに関してはGOEでの加点・減点はそれ以上行わない、とすれば、合理的かつ公平だが、なぜかシンプルでわかりやすく、公平な採点システムにしようとはせず、E判定だ!判定だと複雑にしたあげく、ぐちゃぐちゃの曖昧なGOE加点・減点にはメスを入れない。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2008.11.08 17:53:24
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