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カテゴリ:Travel(フランス)
18世紀創業の老舗パティスリー「ストレール」。
もちろん有名なのはスイーツだが、Mizumizuはここでもっぱら惣菜を買っている。 ストレールへの行き方は簡単。地下鉄サンティエ(Santier)駅で降りて、一番東側にある出口から出る。いったん大通りに出て、すぐ右にあるPetits Carreaux通りに入る。右側にスタバ、左側にメゾン・カイザーがある通りだ。 ここを進むと通りの名前はいつの間にか、モントルグイユ通りに。ストレールまでは地下鉄駅から5分ほど。 モントルグイユ通りをMizumizuは「うまいもの通り」と呼んでいる。マルシェもあるし、パン屋、総菜屋、八百屋も質の高い店が揃っている。 ここはストレールの向かいの果物屋さん。フルーツも新鮮でおいしいが、ナッツもイケる。以前来たときに、へーゼルナッツを買ったらおいしかったので、今回もへーゼルナッツ目当てで行ってみた。が、残念ながらシーズンオフなのかおいていなかった。かわりにフランス産のクルミと「ブラジルのナッツ」というのを買ってみた。 「ブラジルのナッツ」と書いてあるだけで具体的に何というナッツなのかわからないのだが(写真右)、初めて食べる味でなかなかだった。齧るとまず、まるで木の幹の皮を食べているようなワイルドな風味が口に広がる。慣れるとおいしい素朴な木の実の味だ。 ストレールでは以前、ニンジンを細く刻んだサラダがめちゃウマだったので、同じものを買ってみた。早めに食べたいので、カフェを探す。 ストレールに一番近いカフェは、以前入ってはずれたので、別の店へ。 カフェに入って座ると、トルコ系のやや濃い顔をしたにーちゃんが注文を取りに来た。キャロットサラダを見せて、食べていいかと聞くと、「当たり前だよ~」と言う顔で、 「どうぞ」 と答えてきた。 ごそごそビニールからタッパーを出し、一口食べて、 あれっ?? 以前とは全然味が違う。別物だ。そういえば、値段も安かったかもしれない。こりゃ、完全にレシピが変わったな。 これだから、「うまいもの情報」は困る。以前食べて感激したものでも、次に食べると美味しくなかったりする。同じ店のものでも味が違ってしまっていることもあるし、自分の好みが変わってしまっていることもある。体調もあるだろう。 けっこうたくさん買ってしまったので、「失敗した~」と思いながら仕方なく食べてると、向こうの席に座ってる東洋人の女性と眼が合った。 50過ぎぐらいの茶髪のオバさんで、スナックのママ風。眼が合うとにっこりしてきたので、こちらも微笑んだ。 すると…! オバさん、立ち上がり、こっちにやってくる。なんとこのクソ寒い2月のパリで、いい年をして、膝丈ぐらいの革の短いスカートと革のロングブーツを履いている。 「1人?」 日本語だ。昼間っから化粧も濃いなぁ。 「ええ、はい」 「座っていい?」 そう言われてしまうと、ダメとは言えないよねぇ、普通。 「いいえ! 私は1人でニンジン食べたいの!」 なんてね。 後から考えると、そのぐらいブッ壊れたこと言って同席を断わればよかったんだけど。 クルクル巻いた長髪は、茶髪というよりほとんど赤毛で、爪の赤いマニキュアははがれかけている。なんか、髪形といいネイルカラーといい、えらく古いなぁ。変に若作りのカッコにしても、20年ぐらい時間が止まってる感じ。それに、どう見ても筋金入りの水商売オバさんですね。 「ストレールで買ったんだ。おいしい?」 「いや、それがあんまり… 食べてみます?」 食べるというので、タッパーのフタに少しわけて差し出してみた。ストレールではフォークを2つ入れてくれたので、ちょうどよかった。 「あら、おいしいじゃない」 ホンマかいな? お世辞か本当に気に入ったのかよくわからないが、こちらはあまり食べたくなかったので(苦笑)、タッパーごとわたして食べてもらうことに。 そのあと、30分ぐらい会話するハメになったのだが、地獄のような時間になった。 短くまとめると、彼女は在パリ25年(!)。年齢は聞かなかったのだが、たぶん50代半ばかと。自分でお店をもって長くやっていたのだが、この不景気でついに閉めたのだという。プライベートでは10年以上一緒に暮らした男性がいたのだが、その彼とも数年前に別れている。で、もはやにっちもさっちも行かない状態になり、近々日本へ帰国するつもりなのだという。 「日本には住むところあるんですか? 実家とか」 「茨城に母がいるの。でも弟夫婦が一緒に住んでる」 はあ~~~。そんなところに戻っても、お荷物扱いだろうなぁ。 日本の状況をさかんに聞きたがるので、超優良企業がどんどん赤字に転落し、不動産関係の会社を中心にとんでもない負債をかかえての倒産が相次ぎ、派遣労働者がじゃんじゃん首切られて、ホームレスも増えている、と話した。 「仕事はあるかしら?」 日本に? 50過ぎの外国帰りの女性にできる仕事? 普通はないでしょう。水商売の世界のことは知らないが。 「いやあ、なかなか… フランスに25年もいたんなら、こっちで頑張ったほうがいいんじゃないんですか?」 「でもね、こっちも仕事はないのよ」 「お友達とか、いるでしょう?」 「それはまあそうだけど、何年住んだって結局… 選挙権ももらえないしね」 せんきょけん? そらま、どこだって外国人にはなかなかねぇ。しかし、どういう滞在許可をもらっていたんだろうか。あまり深く聞くとますます話が長くなりそうなので、突っ込まなかったが。 「やっぱりね、年をとると日本がいいかなって思うようになるのよ。若いころは考えなかったんだけれどね」 いや、年をとらなくたって、日本人にとって日本は世界中で一番いい国ですよ。 初対面でいきなり、ドヨヨ~ンとなるような身の上話をほぼ一方的に聞かされ、ホトホト疲れ果てるMizumizu。こちらの仕事や私生活やパリに来た目的なんかについても聞かれたが、とても気軽にオシャベリする気になれず、「はあ、まあ…」などと言ってごまかした。話はすぐにはずまなくなり、暗い顔をしてるMizumizuに嫌気が差してくれたのが、 「じゃ、今日はありがと。話を聞いてくれて」 と彼女が立ち上がったときは、心底ホッとした。 後姿だけは妙に若いオバさんの姿を見送って、ふと気がつくと、ウエイターのトルコ系にーちゃんがテーブルの前に立っていてビックリした。もうお金は払ってるはずだけど? 「話終わった?」 と英語で彼。 「彼女、アンハッピーなのよ。すぐに日本に帰るって…」 頷きながら答えると、肩をすくめて変な顔をする。明らかに何か言いたそう。 「何?」 「彼女、いつもこのあたりにいるけどね」 はあ? 「少なくとも、半年間」 口をへの字にして、大きな眼をクリクリさせるにーちゃん。 「半年!? いつもこの店に来てるの?」 うんうんと頷く彼。 「あるいは、あっちの店とかね。彼女、日本人の女性と話すのが好きなんだよ。いつも話してる」 つまり日本人と見るとテーブルに勝手に座り、おしゃべりする札付きの女性らしい。 ボーゼン… 「じゃ、彼女は嘘言ってる?」 「それは知らない」 「彼女、自分のお店を閉めたって。それで日本に帰るって言ってたんだけど?」 肩をすくめて、「どうだかねぇ」というような顔をするウエイターのにーちゃん。彼がわざわざデタラメ教えに来てくれてるとも思えない。 ということは、あの身の上話は全部、あるいは一部ファンタジーなのか? この「うまいもの通り」は、確かに日本人女性が非常に多い。パリの日本人の女の子は、なんとなく猫のようなところがあり、単独行動が多いのだ。たいていみんな、こざっぱりとオシャレでそれなりに余裕がありそうだ。 あのオバさん、明日もあさっても一週間後も、カフェで待ち構えて日本人女性と見ると話しかけて、「パリに住んで25年」「でも、もうすぐ日本に帰ろうと思うの」「今、日本ってどう?」などと聞いているのだろうか? さっ、さみしすぎる… 思いっきりつまらなそ~な顔していたから、しつこくされなかったが、あれで調子を合わせていたら、ど~いう展開が待っていたのだろう? 相手がエメラルドの瞳の若いフレンチ・ビューティならどこにでも一緒に行きますが(←オイオイ、それじゃ完璧変なレズだよ)、20年前に流行った髪形をした水商売風の若作りオバさんじゃ、全然楽しみじゃないな。 お店を出るとき、「ありがとう。さようなら」とウエイター君にフランス語で挨拶したら、「さようなら」とフランス語で返したあと、「気をつけて」と英語で声をかけてきた。 単独行動の猫派の日本人女性のみなさん、モントルグイユ通りでは、20年前に流行った髪形をした水商売風の若作りオバさんに気をつけましょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.14 23:41:49
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