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松本に行く途中のラジオで、「キム・ヨナ選手が練習を妨害したとの報道に対し、日本スケート連盟が抗議」というニュースを聞いた。
今回はさすがに、あの事なかれ主義の連盟でも看過できなかったんだな――と思っていたのだが、ネット上の、「当初(日本スケート連盟)は報道をやり過ごす方針だったが、ファンから『なぜ抗議しないのか』などの電話やメールが相次ぎ、対処することを決めた」というスポニチの報道を見て(見たのは松本のホテルのフロント・笑)、複雑な気持ちになった。 キム・ヨナ発言に関しては、情報の早い読者のかたから「キム・ヨナが日本選手に練習を妨害されたと言ってますが、どう思いますか?」というメールを複数いただいていたのだが、実際にMizumizuが見たインタビューでは、キム選手は、「日本選手が妨害」とは言っていなかった。だが、韓国紙の報道では、「妨害したのは日本選手だとキム・ヨナが言った」とあり、どっちなのかウラが取れずにいた。 だが、日本の読売新聞が、「キム・ヨナの練習を日本選手が妨害したと韓国メディアが伝えた」という報道を読んだときには、すぐに日本スケート連盟に以下のようなメールを送り、抗議するべきではないかと意見している。以下がそのメールだ。 XXXX3月15日付け日本スケート連盟あてメールXXXXXX > 前略 > > 「キム・ヨナ選手の妨害を日本選手がしている」という記事が読売に出ました。 > You TUBEには以下のような > > http://www.youtube.com/watch?v=zfyAh0ekqCU > 明らかに恣意的に編集された「キム・ヨナ選手妨害現場」の動画がアップされ、 > 日本選手があたかも汚い妨害手段を使っているかのような > 印象を世界中に広めようとしています。 > 抗議するべきではないんですか? > XXXXXXXXXX ご覧のように、ごく簡単な切り口上の意見メール。Youtubeの悪質な映像もつけた。この動画は現在は削除されているが、「日本選手はスポーツマンシップにのっとった行動をせよ」などと字幕をつけて、キム選手に日本選手が接近して(ときにキム選手が、「キャー」といった顔をしている)いるように見える部分だけを切り取った、非常に手の込んだ作為的な映像だった(よくここまで悪質な動画作るよ、まったく)。 「スポーツマンシップ」という言葉だが、朝鮮日報は、「日本スケート連盟は19日、公式ホームページに『フィギュアスケートに関する一部報道について』という文で、『日本選手はスポーツマンシップにのっとって競技を行っており、意図的に妨害行為をした事実はない』と述べた」と報じた。これを見ても日本スケート連盟に、「日本選手はスポーツマンシップがない」とデッチアゲの告発した悪質なビデオの存在を知らせたことは意味があったのではないかと思っている。 また、日本スケート連盟に「なぜ抗議しないのか」「なぜ日本選手を守ろうとしないのか」という電話や抗議メールが殺到したという記事を読んで、心強い思いだった。ご存知のとおり、Mizumizu自身は、この問題に関してブログで抗議メール送付の呼びかけを行っていない。自分だけで抗議メールを送った。 今こうやって明かすのは、信じられないことだが、そうやって呼びかけたりすると、「ネットで扇動してる人がいる」とか「ファンが過剰反応してキム選手を叩いたりすれば、日本選手の迷惑になる」などと、トンチンカンなことをネットで主張する輩が出てきて、そのたびに心を痛めてメールをくださる読者の方がいるからだ。 「複雑な思い」というのは、連盟が当初この問題を「やりすごす」つもりだったという報道に落胆したこと。このような日本選手が大迷惑をこうむる問題は、日本スケート連盟が率先して抗議すべきなのだ。ところが、ファンからメールや電話が殺到したために重い腰を上げた、という感じだ。 逆に、事なかれ主義の日本スケート連盟を動かした名もない多くのファンの努力には、本当に感動した。 日本のファンが激怒したのは、過剰反応でもなんでもない。とんでもない言いがかりをつけられたら誰でも怒る、当たり前の話だ。キム選手が「日本選手」と名指ししたのかしないのかはハッキリしないが、そもそも「私の練習を他の選手が妨害した」などと選手が口に出して言うなど言語道断。これが日本選手なら、コーチから「リンクはみなで使うもの。お互いさまなのだから、そのようなことは口が裂けても言ってはいけない」と厳しく叱責されるだろう。 伊藤みどりを育てた山田満知子コーチは、「選手というのは成績がよくなると、日ごろの態度に傲慢さが出てくる。それを強く戒めるようにした」と言っている。そう、日本選手はスポーツマンシップと謙虚さを厳しくしつけられるのだ。 村主選手と安藤選手が接触したときも、どちらも「相手がぶつかってきた」などと言ってはいない。日常生活でも、ぶつかりそうなったとき、あるいはぶつかってしまったとき、人間はだいたい「相手のせい」だと思うものだ。だが、表面的には「すいません」と言ってやりすごす。どちらかが大怪我を負うような衝突でない限り、これは最低限のマナーだ。そして、そうしたマナーは、親なり教師なりが教える。 ところがキム選手をコントロールすべきオーサーときたら、率先して「言ってはならないライバルに対する悪口」を自分で炸裂させている。安藤選手の判定に対する文句はすでに紹介したが、「浅田選手が世界選手権で3Aで転倒しながら優勝なんておかしい。点が高すぎる」なんてことも、今シーズンになってからカナダメディアに言っているのだ。これが世界選手権直後ならすぐ反論できる。3Aは跳ぶ前にコケたから、マイナス点になった。最後の3F+3Loのループもダウングレード判定で減点された。そこまで減点されても総合得点でトップになるくらい浅田選手は凄いのだ、と。ところが時間がたってしまうと、みなそういう細かい点は忘れてしまうから、「コケても優勝か。点を操作したのか?」という反応だって出てくるかもしれない。 キム選手が世界選手権直前になって、四大陸で妨害された、などというのもコーチの発言に似た部分がある。これが妨害された(とキム選手が思い込んだ)直後ならわかる。ところが、日本スケート連盟によれば、キム陣営から抗議されたことはないというではないか。 それを今になって邪魔されたなどと… 美川憲一の昔のCMに、「もっとはじっこ歩きなさいよ」というのがあったが、まさにそんな感じの傲慢きわまりない神経だ。「アタシが練習してるのよ。アタシの軌道に入ってくるなんて、ワザと? リンクではアタシが中心。アタシの邪魔にならないように、もっとはじっこで練習しなさいよ」。 こんな発言を「やりすごして」しまっては、精神的負担を強いられるのは、またも日本の選手のほうだ。そういわれてしまっては、やはり気になる。相手は「今度は妨害されても(ジャンプを)跳ぶ」などと言っているようだし、下手に当たってこられても大変だ。そうなると自分の練習に集中できなくなるかもしれない。 「何があっても集中しろ。できないのは自分の責任」――さんざん選手をコキ使い、金儲けのイベントに引っ張り出しているくせに、日本スケート連盟の態度ときたら、こんなふうだ。 まさに、「なぜ自国の選手を守るべく、全力であらゆる手段を尽くさないのか」と言いたい。こうした根拠のない「口」撃は許さない、そうした態度を組織がキッパリ示すだけでも、選手個人の精神的負担は軽くなる。 当初、韓国紙は次のように伝えたのだ。 XXX中央日報、3/16の記事からXXXXX ‘ライバル’の日本選手のけん制があまりにもひどかったからだ。キム・ヨナは14日、現地練習地のカナダ・トロントでSBSのインタビューに応じ、「国際スケート競技連盟(ISU)主催大会の公式練習で日本選手から集中的にけん制を受け、練習を妨害された」と明らかにした。 キム・ヨナは「特に今回の4大陸大会では少しひどいという印象を受けた。そこまでしなければいけないのか思うことが多かった。しかしそれに負けたくないし、それに負ければ競技にも少し支障が出るかもしれないので、対処方法を考えている」と語った。 キム・ヨナを指導するブライアン・オーサー・コーチは最近、ある日本選手がキム・ヨナのジャンプの進路ばかり徘徊している、と抗議したりもした。 ISU主催大会の公式練習映像にはキム・ヨナの悩みがはっきりと表われている。舞台衣装を着て行う最終練習で、中野友加里・安藤美姫・浅田真央ら日本選手はキム・ヨナの演技中にかなり接近し、練習の流れを遮っている。 何よりもヨム・ヨナが後方に滑走して後ろの状況が見えない時、日本の選手たちがキム・ヨナを見ながら前進している点が疑惑を増幅させている。 XXXXX 「ある日本選手がキム・ヨナのジャンプの進路ばかり徘徊している」なんて、被害妄想もいいところだ。日本からは3人も選手が出る。全員世界のトップ10に入る実力の持ち主。フィギュアは自分との戦いだから集中できなければいい演技ができない。当たり屋・ユベールのような3流選手じゃあるまいし、貴重な練習時間をキム選手の邪魔で浪費するようなヒマな選手など日本にはいない。もっといえば、日本は抗議はなかったと言っている。じゃ、オーサーは誰に抗議したのよ? そしてご丁寧に、作為的に編集された「証拠」動画をテレビで流すという暴挙。あの動画自体は、ちょっと詳しい人がみたら変だとわかるはずだ。 だが、記事の内容や動画の不自然さを指摘する冷静なファンや専門家は韓国にはあまりいないようだ。韓国のファンは見事に扇動され、日本バッシングが巻き起こった。「まるでカミカゼ」「韓国スケート連盟はなぜ抗議しないのか」などと激怒する韓国ファン。 この騒ぎで日本が黙っていたらどうなるか? 日本選手はキム選手の練習を妨害している――このトンデモ話が、韓国で既成事実になってしまうのだ。 今回日本のファンが騒ぎ、日本スケート連盟が正式に抗議(韓国では「報道について調査を依頼」となっている)したことで、韓国紙の報道もコロリと変わった。「キム・ヨナ選手はインタビューで特定の国名に言及していない」「キム・ヨナの発言が本人の意図の有無とは関係なく、韓日間の議論に巻き込まれた」(いずれも朝鮮日報 3/21付け記事)と火消しに躍起だ。 一方的に言いがかりをつけ、悪質なビデオまで作り、日本への反感を煽っておいて、いざ抗議されたら、「韓日間の議論に巻き込まれた」などと、よく言えたものだ。議論もへったくれもない。言いがかりと悪質な証拠デッチアゲではないか。テレビ局の動画の作成にキム選手やオーサーがかかわっていたかどうかはわからないが、そもそもキム選手がフィギュアスケーターにあるまじき発言をするからこういうことになった。 キム選手が日本と名指ししたかしなかったかなど、実のところたいした問題ではない。「妨害された」と言えば、暗に日本選手を指しているのは誰だって察するところだ。こうした基本的なマナー違反の発言はしてはいけない。してはいけないことをしたら、非難される。ときに自分の想像以上の事態を引き起こす。 トップ選手は、特に自分の発言には気をつけなければいけないのだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2009.03.22 11:43:36
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