バロックの街、レッチェは、イタリア半島のカカトの底近くにある。バーリからなら日帰りも可能。
駅から旧市街までは徒歩だと少し距離があり、途中で信号待ちのクルマの窓ガラスを拭いて小銭を稼ぐ貧しい少年を見た。新市街も全体的にうらぶれた様子で、イタリアの南北問題、つまり南部の貧困は、やはりまだまだ解決していないのだということを実感させられる。
だが、旧市街に残るバロック建築群は、世界屈指と言っていいと思う。
その最高峰がサンタ・クローチェ聖堂。白亜の素材そのもののもつ壮麗な質感といい、繊細で複雑な装飾といい、この聖堂のファサードを凌ぐものは、そうはないだろう。Mizumizuがこれまでに見たバロック聖堂のファサードの中でも、最高に洗練され、最高に美しいと断言できる。気が遠くなるほど壮大でありながら、同時に考えられないくらい緻密。この一大芸術作品を作り上げた人々の忍耐力と美意識には、打ちのめされるような感動を覚える。
こうした建築を見ると、やはりイタリアはとてつもない文化国家だと思い知らされる。
ひんやりとした聖堂内の装飾もまた見事。あまり余計な色がないところが、またいい。
壁全体に装飾を施すのではなく、優美なディテールはレース飾りのように、ある空間を縁取っている。こうした取捨選択のセンスも、他のヨーロッパ諸国ではなかなか見られない。
だが、このサンタ・クローチェ、たしかお昼から午後4時まで「お休み」で中に入れなくなる。夜は何時に閉まるのか忘れてしまったが、午後6時とか、そんなものだと思う。内部も必見なので、何を置いても午前中に行こう。
旧市街を歩いて目立ったのは、石を加工する職人の店。ここで取れる石灰岩は、柔らかく加工しやすいのだという。アラバスターの街
ヴォルテッラにも似た雰囲気があったが、職人のいる街には何ともいえない深みが加わるように思う。
職人というのは世界共通で、どこかに置き忘れた魂を捜しているような、浮世離れした顔つきをしている。そうした魂の流浪人が、「加工しやすい石」という素材で、この土地につながれているというのがおもしろい。
小さいけれど個性的な店をのぞいて歩くのも楽しい。重さを考えなければ買って帰りたいような装飾品がたくさんあった。
バロック建築は、かたまって一箇所にあるのではなく、旧市街に散らばっている。角を曲がるとふいに視界に飛び込んでくる壮大なファサード。
空気を吸うように、最高のバロック建築の息吹に触れることのできる街。こんな街は、世界広しと言えどめったにないし、もう永久に作られることはない。
一生に一度は訪れるべき土地。ことに、何かを作っている人、表現している人なら、絶対に行くべきだ。