マルティナ・フランカのことは、よく憶えていない。
ただ、その街もバロックで、白い建物に挟まれた迷路のような路地があり・・・
そして、半円形の回廊をもつ広場がこのうえなく優美だったこと。
回廊のアーチ天井から吊るされた街灯の装飾が、あまりにリズミカルで可憐だったこと。
回廊の中にあるタバッキの店主のおじさんと、絵葉書を買うついでに何か会話したこと。
回廊の石畳を歩く人の足音が、やけに響いたこと。
マルティナ・フランカのことは、よく憶えていない。
だがどうしても、襟元をレースで飾った、この小さな広場だけは忘れられない。
プーリア州の中では富裕層が住む街として知られているというマルティナ・フランカ。
なるほど。
ローマや、もっと北のミラノの邸宅ほどではないにせよ、オストゥーニで感じた、街全体に漂う貧しさは、確かになかった。
貴族的なバロック風の装飾を施したバルコニーが、白い路地に華を添えていた。
街から出ると、そこにはプーリアの田園風景がどこまでも広がっている。貯蔵庫として使っているのだろうか、トゥルッリもちらほら見えた。