プーリアには、郷土色豊かな小さな街がたくさんある。中でもオストゥーニは少し異色だろう。
オリーブの老木の向こうの丘に建つ白い建物群。丘全体が1つの街になっている。
ここはまるでギリシア。エーゲ海のどこかの島に迷い込んだよう。
壁も床も、ただただ白く塗られた家々に、鮮やかなブルーの扉の色がまぶしい。今にも扉をあけて、誰かが出てきそう。買い物に行こうとする主婦かもしれない。エスプレッソを飲みにバールに出かける旦那かもしれない。学校から帰ってきて、遊びに飛び出す少年かもしれない。
途中で、玄関先の床を白く塗りなおしている中年女性の姿を見かけた。こんなふうに部分的に塗りなおすせいか、白の塗装は均一とは言いがたくなり、妙に新しい真っ白なところと、黄ばんだり汚れたりしているところの差が目立つ。
それにしても、なぜこんなふうに憑かれたように街全体を白くしたのか。最初は衛生のためだとか、何か理由があったのだろうが、今に至るまで住民全員の総意で続けている、続けていられるのはなぜなのか。
アラブ系のような顔つきの住民も多い。そして、明らかに経済的に豊かでない。昼間から時間をもてあましているような働き盛りの男性の姿も見かけた。
複雑に上に伸びた住宅群の縁を、鉢植えの花で飾っている。お世辞にも洗練されているとはいえない、田舎じみた感覚だが、生活感が漂ってくるのが、メジャーな観光地にはない魅力。
あまり有名になってしまうと、街全体がテーマパークのようになって、生活感が消えてしまう。生活感のない街は死んだも同然。ただの野外博物館だ。
アルベロベッロで、それを感じた。
青い空に映える、「白」が取り得の街オストゥーニは、まだそれほど多くの観光客を集めるにはいたらず、だからそこ、街のあちらこちらから人々の生活の匂いが漂ってくる。