【中古】DVD アジアンタムブルー
「アジアンタムブルー」という映画がある。「イケメン+不治の病+南仏」3点セットの典型的な若い女の子向けメロドラマだが、この作品中にヴィルフランシュのホテル・ウェルカムとサンピエール礼拝堂、それに海辺の遊歩道が出てくる。
山崎隆二(阿部寛)が最初に仕事で南仏を訪れたときに、ホテルのベランダで物思いに沈むシーンがあるのだが、そこがホテル・ウェルカムのベランダ。
そして、ヒロインの続木葉子(松下奈緒)が山崎と南仏を訪れ、サンピエール礼拝堂のコクトーの壁画を見たあと、海辺の道を歩くシーンもヴィルフランシュだ。そこで葉子が、ジャン・コクトーとラディゲ、それにジャン・マレー(名前は挙げずに、「美女と野獣」に出ていた人、と言ってるが)の話をする。
ホテル・ウェルカムのベランダからの港の景色は、臨場感に溢れている。ニースのプロムナードデサングレよりずっと、海の響きを間近に感じることができる。
時間によって変化するのもいい。とりわけ黄昏のころが素晴らしい。山は光の首飾りをまとい、港にも煌きがともる。
夜もロマンチックだ。ヴィルフランシュは治安がいいのか、真夜中近くになっても、海の見えるホテルのバーで人々がくつろぎ、遊歩道をそぞろ歩いていた。小さな村なので、都会のようないかがわしさもない。
海を背に路地を入るとすぐに坂になっている、ここがヴィルフランシュの旧市街。中世の面影が残り、明るく開けた海の情景とは対照的な暗く狭い空間の連鎖となる。そのコントラストがいい。
「オルフェの遺言」のロケにも使われた旧市街のオブスキュール通り(Rue Obscure)。ここには昼もなく、夜もない。
この路は、日本で言えば、黄泉の国へ向かう「黄泉比良坂(よもつひらさか)」だ。
生と死が隣り合っているように、光と影が切り離せないように、オブスキュール通りは、きらきらした海のすぐ近く、人々の生活が行き交う旧市街の一角に、ひそやかに、だが確固として存在している。
港で思索にふける銅像のジャン・コクトー。活発さと陰鬱さが隣り合う、ヴィルフランシュは確かに、詩人を魅了するに足るポエティックかつフォトジェニックな町。
山と落ち着いたパステルカラーの町並みは、どこかイタリア的な明るさがある。チンクテ・テッレもこんな町だったっけ。
街灯の配置が、リズミカルに調和する瞬間。
朝の風景。
逆光の中に浮かび上がった3艘の舟は、海に浮かんだオブジェ。
泳げそうな海岸も少し。波のくだける音は、むしろ思索を誘うのだが。
ヴィルフランシュは鉄道駅のホームからも、潮騒のざわめきに心を浸すことができる。