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カテゴリ:フィギュアスケート(2017-2018)
五輪直前になってくるとやたらとシビアに欠点を突かれ、点数が伸びなくなるパターンのフィギュアスケート女子シングル。
今回もそのパターンに陥ってきたように見える。いくらシーズン初めのイベント試合(ジャパンオープン)で高得点を出しても、いざシーズンが始まるとわずかな回転不足を厳密に取られてファイナルに進めなかった三原選手。B級国際試合では全米女王も寄せ付けない点数をいきなり叩き出し、人寄せパンダのように持ち上げられても、いざ本格的なシーズンが始まり、よりグレードの高い試合になると、回転不足判定が増え思ったような点数が出ない本田選手。 そんななか、グランプリシリーズでコンスタントな成績を出し、五輪候補の一番手と見られていた樋口選手への期待は高かった。しかし、ファイナルが終わってみると、樋口選手につきまとうマイナスのイメージ「ここ一番の大事な試合で、凡ミスをする」が、またも裏付けられる結果になってしまった。 樋口選手の強みは、なんといってもトリプルルッツ+トリプルトゥループをフリーで二度決められるジャンプ能力。セカンドジャンプのトゥループはやや回転に難があることもあるが、総じて質は高く、決まればジャッジは1点以上の加点をつけてくる(つけない意固地なジャッジもいるが)。そして、今回ファイナルのフリーを見て知ったのだが、連続ジャンプのリカバリー能力も非常に高い。ルッツに3Tをつけられなかったら、ダブルアクセルにつけてきて回り切った。着氷乱れでGOEはマイナスだったが、回り切っていたから基礎点は入る。 このジャンプ能力は大きなアドバンテージなのだが、今回は3サルコウがダブルになってしまった。その失敗そのものよりも、ミスったときに起こる心理的問題の処理がうまくいっていない気が、見ていて、する。 3サルコウがダブルになってしまったとき、明らかに樋口選手は自分自身に落胆し、それが演技にはっきり出てしまった。そして次の「勝負ジャンプ」での連鎖的な失敗。悪いときの樋口選手のパターンで、しかも、それが大事な試合で起こる。この「縁起の悪さ」というものは、案外ずっとつきまとうものなのだ。 名選手なのにオリンピックになると必ず失敗する人がいる。逆に4年に1度しかないオリンピックになると、これまでにないようなパフォーマンスを見せる選手もいる。体を使ってやるスポーツでは、そういう体調の波とのめぐり合わせも多い。 樋口選手はこの悪いパターンから脱出しなければいけない。インタビューを聞くと、自分自身が自覚しているようで、今のところ「気にしている」ことが良い方向に行かず、悪い方向に行っているようだ。ファイナルの結果が良ければ、五輪切符をほぼ手にできていただけに、こうなるとファイナルに出た「疲労」と結果が思わしくなかった「精神的ショック」が、すぐにやってくる全日本に悪影響を及ぼすパターンに半ばはまってしまっている。 だが、冷静に考えてみよう。プロトコルを見ても回転不足判定はない。スピン、ステップともにレベルは取れている。素晴らしいではないか。あとはジャンプ。1つ変えたほうがよいと思う部分があるとすれば、それはフリップだ。 樋口選手はショートにフリップを入れているが、ここにイチャモンの「!」がつくことが多い。毎回「!」がつくわけではないが、かなり高確率でアテンションを取られる。ならば、宮原選手のようにショートはフリップではなく、ループに変えてはどうだろう。 樋口選手はループが苦手ではない。跳べば失敗も少なく加点もつく。この強みを生かさない手はないと思うのだが。 ルッツを2つとも3トゥループにするのも、今回の失敗を見ると負担が大きいようにも思う。2つのルッツのうち1つは、3トゥループではなく2回転の連続をつける。そして、連続ジャンプにつける3トゥループはダブルアクセルにつけることにする。連続ジャンプは単純な足し算だから、3トゥループをルッツの後につけようがダブルアクセルのあとにつけようが、最終的には同じこと。 今回リカバリーでダブルアクセルのあとに3トゥループをつけて回り切っている能力を見ると、3ルッツ+3トゥループ2つよりも、1つは2A+3トゥループにしたほうが確実ではないかという気がするのだが、どうか。 今回のフリーの点数が伸び悩んだ原因の1つは3連続にしたフリップにも「!」がついてしまい、加点がつかなかったこと。3ルッツがダブルになってしまったので、こういうリカバリーしかなかったが、そもそも3ルッツ+3トゥループを2回という「離れ業」の心理的負担が、3ルッツの失敗を誘発しているようにも思うのだ。 次の全日本まで時間がなく、樋口選手には不利な状況になってしまったが、もともとジャンプの能力は高い。自分の強みを信じて頑張ってほしい。 逆に三原選手、本田選手にはチャンスが広がった。 樋口、三原、本田の3選手を中国大会に出場させたのは、この3人が同じ試合でどういう評価を受けるか見たかったためだろうと思う。その際のポイントはショートプログラムの演技構成点だ。 これを見ると、樋口(32.85)、三原(32.24)、本田(31.89)で大差ない。特に樋口選手と三原選手はほぼ同評価。これがフリーになると演技構成点は、樋口(67.89)、三原(64.72)、本田 (64.58)。樋口選手がちょっとだけ抜けて、三原・本田選手はほぼ「横並び」の手抜き採点。 これが女子採点のパターンだ。つまりショートで選手は「仕分け」される。メダル候補から落ちると、同国にメダル圏内の1番手の選手がいた場合、2番手選手のフリーの演技構成点は伸びない。今回のファイナルでメダルを獲得したソツコワ選手はフリーの技術点で稼いだのであって、演技構成点は68.69で、この点数だけ見ると5位だ。 中国大会の採点を見ると、「樋口を出しても、三原を出しても、どっちでも同じ」。あとはジャンプの出来次第といったところだ。今回のファイナルを見ると、「樋口よりも三原のほうが確実かもしれない」という印象を、連盟の幹部はもったかもしれない。 本田選手は後れを取っているといえばそうだが、シニア1年目で過去の実績がないから、むしろ「1年目にしては良い評価をもらっている」というところではないだろうか。ロシアの、バレエの素養をばっちり身につけ、まだ体が軽くジャンプも跳べる、手足の長い美少女たちと比べてもあまり意味はないだろう。 三原選手はイベント試合とはいえ、今シーズンフリーで147.83という点を、まがりなりにも出しているし、昨季の四大陸女王だ。本田選手は華もあり、タレント性は折り紙つき。 演技構成点を安定して高くもらっている宮原選手の五輪出場は、かなり決定的。全日本で回転不足を連発するようなことにならなければ、平昌の日本の女子エースは宮原、というのは揺るがないだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2017.12.10 22:13:13
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