4年前のソチで、羽生選手が金メダルを取ったとき、タラソワは、「(今回の五輪男子シングルでは)率直に言って誰もチャンピオンにふわさしくない。あれほど転ぶ五輪王者は見たことがない」と感想を述べた。アメリカのメディアは、「男子選手が、右へ左へよろめいた夜、なんとか勝ち残ったのは羽生だった」と評した。
当時のタラソワが羽生選手の金メダルに否定的なコメントをしたといって、「ルールを知らないのか」などとトンチンカンな叩き方をした、自称・元フィギュアスケーターもいたが、笑止千万だ。タラソワは、あのプルシェンコとの壮絶な試合を制して金メダルをとったヤグディンのコーチだ。彼女には明確な五輪王者の「ビジョン」がある。自らの理念に率直な感想を述べただけ。
Mizumizuは、あのとき、「4年後に羽生選手が五輪王者にふわさしい(と彼女が認める)演技をすれば、必ず賞賛する」と思い、そう書いた。そして、4年後、そうなった。
https://www.nikkansports.com/olympic/pyeongchang2018/figureskate/news/201802170000732.html
国営ロシア通信は「日本の神。フィギュアスケーター羽生が金」と報道。かつて浅田真央さんを指導したタチアナ・タラソワ氏はロシアのテレビ生中継で解説し、羽生選手がジャンプの着地で転倒せずに持ちこたえるたびに「立て」と声を送り、演技を終えると「1位だ。美しい」と称賛した。
そのうえ、なんと「出まち」まで!
http://www.sankei.com/west/news/180217/wst1802170042-n1.html
羽生結弦連覇 ロシアの大御所・タラソワさんが祝福のハグ 真央元コーチ「彼の演技を見ることができて幸せ」
平昌冬季五輪フィギュアスケート男子で17日、大会2連覇を果たした羽生結弦(23)=ANA=を待っていたのは、ロシアの大御所タチアナ・タラソワさんだった。
ミックスゾーンでのテレビインタビューを終えた後、その場から立ち去ろうとする羽生をタラソワが“出待ち”。羽生はタラソワさんが立っているのを見つけると、笑顔で駆け寄って抱擁を交わした。
タラソワさんは羽生のほっぺにキスをして、金メダルを祝福。2人は数秒間見つめ合って、一言二言、言葉を交わした。タラソワさんは目に涙を浮かべているように見え、その光景は日本でもTV中継された。
タラソワさんは、昨年現役を引退したバンクーバー五輪銀メダルの浅田真央さんのコーチ。選手とコーチの関係が終わった後も、「私は真央のファン。真央と歩んだことは私の誇り」と公言して、浅田さんの活躍を応援してきた。
昨年4月に浅田さんが現役引退を表明した際も、産経新聞のインタビューに「真央は素晴らしい女性。これからの彼女の人生の成功を心から祈っています」と言葉を贈った。
タラソワさんは素晴らしい演技をする羽生のことを高く評価しており、羽生はタラソワさんから贈られた「ノッテ・ステラータ(星降る夜)」を滑り、優美なスピンなどを披露したこともある。
昨年10月のグランプリシリーズロシア杯の際に、タラソワさんは現地の中継番組の解説役を務め、羽生が今回の平昌大会でも披露したフリーの完璧な演技を見せると、「「ブラボー、ブラボー。彼の演技を目の前で見ることは幸せ」と解説。「この日本的な音楽のプログラムは羽生に新たな力を加えることを私は確信している」とも語っていた。
(引用、ここまで)
タラソワの心の広さは、さすが一流人だ。彼女は復活したプルシェンコが見事な演技を見せたときも、興奮した様子で、わざわざ「出まち」して祝福していた。かつてのヤグディン陣営とプルシェンコ陣営の「不仲」は有名で、ヤグディンが「ロシア国内大会で自分が勝てないのは、コーチのミーシンの(政治力の)せい」とまで発言していた。
かつて自分の教え子のライバル、しかもそのライバルが最も欲しかった金メダルの夢を阻んだのは自分とその教え子。にもかかわらず、素晴らしい演技をすれば自ら出向いて惜しみなく賞賛する。
タラソワのフィギュアへの情熱は、まだまだ「老いて」はいないようだ。選手としてではなく、優れた指導者、振付師、そしてビジョンを持った、ロシアの誇る偉大な存在。彼女からの手ばなしの賞賛もまた、羽生選手が自ら獲得したおおいなる名誉だ。