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本田真凜選手のスター性については、Mizumizuは早くから注目していた。五輪前にはスポンサーもどっさりついて、お膳立てもバッチリ。あとは本人の「成長」を待つばかりだったのが、五輪シーズンに失速し、代表に選ばれなかったのは周知のとおり。 飛躍を期して渡米したが、今シーズンも今のところ鳴かず飛ばすの状態だ。ところが、ネット上に出てくる記事には、それなりの活躍をしている坂本選手や三原選手を無視して、「本田真凜 復活へ…見えた変化『嫌い』なスピンで最高評価」だとか「紀平梨花に本田真凜は追いつくことができるのか」などといった提灯持ちライターの的外れな持ち上げが目につく。 スピンに関しては、宮原選手だって、三原選手だって、坂本選手だって、最高評価のレベル4をずらりと並べている。取りこぼしはわずかだ。わざわざ記事にするほど突出したことではない。 対・紀平選手に関しては、上記の記事を執筆した折山淑美氏によれば、今の本田選手は新しい環境に慣れていないだけで、練習環境に慣れ、嫌いな練習に我慢して取り組めば、紀平選手と十分競うことができるという結論だが、成績がのびない理由の筆頭に挙げられるジャンプの回転不足は、特に体の成長と体形変化が絡んでくる時期の女子は、環境の慣れや練習だけでは克服できない場合が多いのだ。そもそも、これほど成績がぱっとしない本田選手を引き合いに出すのなら、宮原選手だって、三原選手だって、坂本選手だって、十分に紀平選手に追いつける可能性はあるし、今はそちらの可能性のが高いだろう。 今はライターの記事に一般人のコメントがつけられるものも多いから、それにも着目しているが、本田真凜選手に関しては、ライターの的外れぶりを指摘するきついコメントが多い。それだけならともかく、本田選手のすべてを頭から否定するような感情的な「悪口」も。明らかに、ライターの持ち上げが本田真凜の「アンチ」を増やしている。 今季の本田真凜選手の演技をいくつか見たが、やはりスター性は十分な逸材だと思う。お金をかけた華やかな衣装が実に似合う。演技の入るときの自信にあふれた顔つきは、「演じることが好き」「見てもらうことが好き」な彼女の性格をよく示しており、演技中の楽しそうな表情は、見るものを幸せな気分にさせる。スケーティングにも天性の音楽性が溢れている。 フィギュアスケートの観客は、テレビ中継で客席を見ると分かるが、年齢層の高い女性が主だ。チケット代が高いということもあるだろうが、もう少し若い人たちの観戦を増やしたい。本田真凜のアイドル性は、若い男性にファン層を広げてくれるのではないかと期待したい。 だが、成績が伴わなければ、いくら華があっても高いチケット代を出してまで見たいというファンは増えない。本田選手の今の問題は、なんといってもジャンプにある。女子選手の多くを苦しめる回転不足問題だ。 プロトコルを見ると、本田選手の回転不足の多さがいやでも目につく。特に、3回転+3回転に関しては絶望的だ。いや、それどころか3回転+2回転の連続ジャンプさえあやうい。今のところなんとか光明を見て取れるのは2A+3Tだけで、もっと言ってしまうと、単独の3回転にさえ不安がある。 アメリカ大会はアクシデントがあったようだが、それにしても… ショート 3Lo+3T< 3F< フリー 3Lz+3T<< 3F< (!) 3S< 1A+3T< 3F<+2T+2T<(!) フランス大会 ショート 3Lo<+3T< フリー(3ルッツ/3フリップ+3回転は回避) 3Lo< 2F+2T<+2Lo< このとき回転不足やエッジ違反などの減点がなかった連続ジャンプは 3F+2T 2A+3T 言葉を失ってしまうほど深刻な状態だ。 ジュニアのころには跳べたけれど、シニアになって体が成長したら跳べなくなる典型のパターンで、これをこれからまた体形が変化する時期に立て直していくのは本当に難しい。 特にバカげているのは、ショートで3ループに3回転をつけているところ。3ルッツ/3フリップからの3回転連続が跳べなくなっているからだろう、というのは容易に想像できるが、ループというのは、これまでのジャッジの傾向から見ても、回転不足が取られやすく非常に危険なジャンプだ。 今季のルール改正で、回転不足の範囲が少しだけだが広がり、さらに厳しく取られる条件がそろっている。事実、男子でも、羽生選手やチェン選手など、これまで回転不足をあまり取られなかった選手のジャンプでも、少し足りないまま軸が傾いたまま降りてしまったジャンプにはアンダーローテーション(<)がついている。ザギトワ選手のループの3+3も同様、ロシア大会で回転不足を取られている。 本田選手の3Lo+3Tは、ショートでは認定ゼロ。単独のループさえアンダーローテーション判定されている。フリップからの連続ジャンプも3連続になると認定ゼロ。 3F<+2T+2T< 2F+2T<+2Lo< これでは、わざわざ3回跳んで、減点してくださいと言ってるようなものだ。最後の2回転ジャンプなどつけても大した点にはならない。世界トップを競い合う状態なら2回転ジャンプ1つの点でも重要になってくるが、「ファイナルに出られるかどうか」の線上にいる選手には、3連続を「跳んで見せる」ことより、まずは2連続ジャンプのセカンド2回転であっても確実に回り切ることが大事だろう。 今はショートから3回転+3回転を跳ばないと優勝争いには絡めない。だが、本田選手の今の状態は、とても3+3レベルではない。ならば、一見きれいに見えて、ほぼ確実に回転が足りていない3ループ+3トゥループなどやめて、ショートでは3フリップ+2トゥループにレベルを落とし、まずは確実に回り切るところをジャッジに見せなくてはダメだ。 このまま続けて、どこかの試合で甘い判定があったとしても、確率からしたら、「跳べていない」状態であることは明らか。 そして、フリーでは2A+3Tを「活用」する。3連続はあぶないので、とりあえずは確実に2連続のみに。全日本では、いったんそれで認定具合を見てはどうだろう。 Mizumizuがアルトゥニアンコーチを一貫して評価しないのは、彼の「回転不足判定軽視」の姿勢があまりにあからさまだから。 最も印象に残っているのは、リッポン選手がどこからどうみてもダウングレード判定の、4回転ルッツを「降りた」ときのアルトゥニアンコーチのはしゃぎぶりだ。 解説は当時、本田武史氏で、「完全に反対向きに降りてしまっている。ダウングレードでしょう」と残念そうに言っていたが、リッポンとアルトゥニアンはキス&クライで手に手を取り合って喜んでいた。 旧採点時代なら、コケずに高難度のジャンプを降りれば快挙だっただろうし、明らかにダウングレード判定されるほどの回転不足でもコケなかったのはある意味たいしたものだが、現行の回転不足を重く減点するルールになって、すでに長年たっていた。 それなのに、誰が見ても大幅な回転不足の4ルッツを「降りた」からといって、選手と一緒にはしゃいで見せるというのは一体どういうことなのか。 女子のワグナー選手に関しても、Mizumizuは、ルッツのエッジと3+3の回転不足判定のブレ――すなわち、アメリカの国内大会ではひどく甘く判定され、そのままワールドに来ると、突然判定が厳しくなること――への疑問を呈してきた。 ワグナー選手は素晴らしい選手だが、エッジと3+3には、どうにもスッキリしない部分があるのは、テレビで観戦していても感じていた。アルトゥニアンは、「ジャッジは時々(回転不足を)見る。時々見ない」といった発言をしていて、確かに現実はその通りなのだが、「時々見ない」ことを期待して高難度ジャンプを組み入れたら、どこかで破綻するのは明らかだ。 その点、ミーシンコーチは回転不足を非常に重く見て選手を指導している。トゥクタミシェワ選手が3ルッツ+3トゥループを跳べるにもかかわらず(しかも、決まればかなりの加点が期待できる)、ショートでは3トゥループ+3トゥループできているのはそういうことだ。ミーシン門下の選手は、ジャンプが非常にクリーンだ。 本田真凜選手に今必要なのは、いったんジャンプの難度を落とすことだろう。確実に跳べるジャンプ構成でクリーンに滑ってこそ、世界のトップに返り咲く道がひらける。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019.08.27 15:08:00
[Figure Skating(2018-2019)] カテゴリの最新記事
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