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今年のフィギュアスケートのフリーは見ごたえ十分だった。優勝候補の選手たちは皆素晴らしいパフォーマンスをやってのけ、最後まで誰が勝つのか分からなかった。
キチガイみたいに厳しい回転不足の判定もなく、点数の出方も分かりやすい。演技構成点は紀平選手のSS(スケートの技術)をもう少し出しておいたほうがよかったように思うが、 宮原75.09、坂本73.25、紀平72.06 という上位3人に対する採点は、宮原選手の細部まで行き届いた成熟した表現力を最も高く評価し、坂本選手の勢いとしなやかさの向上を認め、紀平選手はややジャンプにばかり意識がいっていたところを辛く見られたと解釈できる、個人的には点差も含めて妥当で良い採点だったと思う。 総合4位の三原選手69.77点、5位の樋口選手66.22点と、メダル圏内の3人と露骨に70点ラインで線引きがあるのはいただけないが、このごろの演技構成点は技術点の出方によって露骨に上がったり下がったりするので、三原選手や樋口選手が上位3人と明確に実力差ができたという話ではないと思う。また、来季の頑張りで評価は変わってくるだろう。 紀平選手はショートでトリプルアクセル失敗と、3+3が3+2になってしまったという2つのジャンプの大失敗が尾を引いてしまった。トリプルアクセル自体はコケたとはいえ、認定してもらっているので基礎点は入っている。問題は次のジャンプ。これを3+3にできなかったのが、なんといっても痛かった。 坂本選手は、すべてのジャンプを高次元の質でまとめてみせた。3+3の大きさやスピード、流れの素晴らしさは、テレビでも何度もリピートされているので繰り返さないが、あまり取り上げられていないが凄い、と思うジャンプが単独のループだ。 あの難しい入り方でジャンプに入り、しかも跳ぶ直前の構えが非常に短い。滑りながらの回転動作がそのまま空中での回転に移動するようなマジカルなジャンプで、ジャンプそのものに飛距離も高さもある。ループは、たいていの選手は、跳ぶ前に一瞬流れが止まるし、構えてしまって姿勢が前傾になる人が多い。坂本選手のループは、あまりにスムーズで美しい。 GOEで「5」もあるが、当然だと思う。この加点の付くジャンプを後半に入れて、ショートでは5.39点の基礎点に対し7.35点、フリーでは7.14点という点を叩き出している。単独ループとしては破格の得点と言っていいだろう。ショートに基礎点の高いルッツを入れずに高得点を出すのは、連続ジャンプの素晴らしさと同時に、ループの凄さもあるというのは強調しておきたい。 逆に世界女王を睨んだ時、不安になるのがルッツのエッジ。坂本選手はフリーに1回しかルッツを入れないが、エッジ違反判定はほぼお決まり状態。問題は「!」でとどまってくれるか、「E」になってしまうか。 今回の全日本フリーのルッツはアテンション「!」判定で、スロー再生がなかったが、録画を何度かリピートしてみると、どうもインに入ってしまっている――つまりE判定になってしまっても文句は言えない踏み切りだった。 過去の坂本選手のルッツに対する判定を見ると 平昌五輪 E判定 GOEは-2~0で、-1が多い。得点は基礎点4.62に対し4.02 スケートアメリカ !判定 GOEは-2~0で、0が多い。得点は基礎点5.9に対し5.65 ヘルシンキ E判定 GOEは-2~0で、-1が多い。得点は基礎点4.43に対し3.99 ファイナル 認定 GOEは1~4で3が多い。得点は基礎点5.9に対し7.59 全日本 !判定 GOEは-2~2で0が多い。得点は5.9に対し6.07 と一貫しないが、ファイナルで認定されたのは、まぁ、判定するカメラの位置のせい――もっと率直に言えば見逃しだろうと思う。認定されれば加点が多く付く質のジャンプだが、逆にE判定をくらうと、相当に減点がきつい。!判定なら全日本のように無理やり加点ジャンプにすることもできるが、それは好意的な採点で、通常は減点ジャンプになってしまうと考えるべきだろう。 Eか!かによって、得られる得点は、4点から6点ぐらいの幅がある。それでも、エッジを気にしてしまって失敗すると元も子もない――全日本フリーでの宮原選手のフリップ失敗は、「!」判定にならないよう気にしてしまったことが背景にあるように思う――から、これまでのように思い切って跳ぶしかない。E判定でも、失敗さえしなければ4点ぐらいは入る。!判定なら5.5点ぐらい(全日本の6.07はオマケしすぎ)。 ルッツのエッジが不安でも、坂本選手には凄い加点の付くループがある。今回の優勝は、多分に紀平選手のショートの2つの大きな失敗に助けられたという側面はあるが、試合では、何が起こるか分からないのだ。 ロシアの国内選手権でも、ショートで完璧な演技を見せたザギトワ選手がフリーで大崩れした。聞けば飛行機で移動する予定が、悪天候のため寝台車での移動を余儀なくされたという。 今回の優勝を自信に、坂本選手にはワールドでも素晴らしいパフォーマンスをしてほしいと願う。幸い次のワールドの舞台は日本。だいたいオリンピックの翌年は、世界大会でもジャッジは日本人選手に好意的だ(そこで期待をもたせ、衆目を集めたあと、あーら不思議、五輪前になるとなぜか点が出なくなる)。 だが、そんな「大人の事情」には関係なく、一度でもワールドで金メダルを取れば、その後の人生が変わる。紀平選手だけではなく坂本選手にとっても、そしてもちろん、宮原選手にもチャンスはある。頑張って欲しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.12.24 18:03:42
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