『 天空の蝶 』
ン 『 天空の蝶 』 私は骨董好きである。 出張先の骨董市には必ず顔を出す。 ある町の骨董市に足を運んだ。 一通り見て回り目ぼしいものがないのと 5月というのにこの暑さ うんざりした気分で 骨董市を後にしようとした時 遥か外れの店に目がいった。 17・18歳位の少女が何にもない茣蓙の上にポツンと座っている。 傍に行ってみると何もなくはなかった 1反の反物が置かれていた。 紙に書いた値札をみると 『 10万円 』 高い ! 私は透き通るように美しい少女が気になりはしたが 10万円とは しかも反物 反物には興味がなかった。 骨董市を後にして 町の珈琲店に入った。 静かな心地よい音楽である。 好きな曲 「 ジュピター 」 か 心なしかコーヒーも格別に美味い。 行きかう車を窓辺にみながら ふと 少女の事を思った。 あの子 飲み物何も持っていなかったなぁ・・・。 1度気になったらとことん気になるたちである。 珈琲店を出ると 自販機で スポーツドリンクとお茶を買った。 その足で 骨董市に向かった。 少女はさっきと同じ姿で茣蓙の上に座っていた。 「 はい どうぞ 」 少女は顔を上げると 小さく 「 あっ 」 と叫んだ。 「 飲んで 」 私は スポーツドリンクを差し出した。 少女は頭を左右にふった。 「 遠慮しなくいいよ 」 少女は白い人差し指を お茶に指さした。 私は思わず吹いた。wwww そっちかぃwww。 少女は一気に半分くらいゴクゴク飲み干すと 「 ありがとう 」 と言った。 相当喉が渇いていたのだろう。 スポーツドリンクも渡した。 「 ありがとう 」 今度は素直に受け取った。 美味しそうに飲む少女に尋ねた。 「 この反物どうしたの? 」 少女は一息つくと静かに話し始めた。 この反物は 祖父の作品。 本来 作品は売りに出さないが病気になり 色々な支払いの為に売りに出すことにしたこと 何処にもっていいのか分からなかったので お店の並んでいたここに座っていたこと 私は 「 支払いって 病院とか薬とか? 」 と尋ねた。 少女は こくりとうなずいた。 「 それでは10万では足りないでしょ 」 少女は 30万だと言った。 私は 30万円を渡すとビニール袋に入れてくれた 反物を受け取った。 少女は何度もお礼を言った。 私は心の中で これはボランティア 良いことをしたと思えばいい。 それから暫く反物の事は忘れていた。 反物はそのままビニール袋に入ったまま押し入れの隅に眠っていた。 そんなある日 友人が着物の人気作家のPTがあるから行ってみないか 鑑定士も来るから その反物見てもらうといいよ。 との声かけがあった 私は 30万出したが、 10万の値札をつけるのはそれなりの物では と友人に話していたのだが 期待はしていなかった。 会場に着くと 和服姿の女性が所狭しと会話を楽しんでいる。 友人は 鑑定士の所に行き 私を紹介すると反物を出した。 見て見ますと会場の端に3人で移動すると 鑑定士は反物を取り出した。 取り出すや否や鑑定士は人気作家の傍に走り寄った。 人気作家が 反物を見た。 みるみる目から涙が溢れ出た。 「 創慶先生・・・・・ 」 話を聞いてみると 『 創慶 』 という人は人気作家の師匠で 20年前に行き成り姿をくらました人だとか。 反物を 30万で買い取ると言い その町に行きたいとまくしたてた。 私は少女にもう1度会えるという ワクワクした気持ちを抑えながら 友人と一緒に同行した。 家は直ぐに見つかった 良く手入れがされた 古民家である。 私は 少女にピッタリの古民家だと嬉しくなった。 「 すみません~~ごめん下さい 」 静かである。 インターホンなどない。 私と友人は少女が扉を開けてくれるのを期待した。 前もって友人にそのことを話してあったので友人も同行したのであるw。 静かである。 扉をそっと開けると開いた。 10cmくらい扉を開けるともう1度 今度はさっきよりか大きな声で 「 どなたかいらっしゃいませんか ? 」 中から渋い声がした 「 少々お待ちを 」 中から出てきたのは白髪の老人である。 入院していて1週間前に帰ったばかりだという。 黒光りのする長い廊下を1番奥の部屋に通された。 そろそろ手伝いに来てくれる人が来るので お茶はそれからにと言った。 涙ながらに話す弟子に 師匠は 「 ぅんぅん 」とうなずくばかり。 私は 「 お孫さんは 」 と尋ねた。 師匠は キョトンとした顔をして尚も弟子との話に夢中である。 私はもう1度尋ねた。 「 17・18歳くらいのお孫さんいらっしゃいますよね 」 師匠は 「 私は独身だから孫はいませんよ 」 と答えた。 私はとっさに あ~お手伝いに来てくれる人なのかと思った。 弟子は 「 あの ! あの先生の傑作 蝶のお着物は 」 病院から帰って出してあると 隣の部屋の襖を開けた。 私は 息を飲んだ。 裾から右肩に向かって飛び立つ何百匹の蝶 その羽ばたきが聞こえてきそうな力強さ そこには蝶の儚さなど微塵もなかった。 まるで 天空を目指す集団の美しい蝶の姿があった。 その集団のなかに一際目立つ 白い蝶が目に入った。 気になったらとことんの私は尋ねた。 「 この白い蝶は格別美しいですね 」 老人は目を丸くして驚き そして静かに話し始めた。 17歳の初恋の人。 彼女のお葬式の時 花に埋もれた彼女の指に白い蝶が止まっていた。 蝶は ひらひらと老人の肩に止まり そして空に消えた。 老人はそれからずっと独身で 『 蝶の着物 』 を作りたいとそればかりを考えて修行した。 満足の着物を完成出来たので第一線から退いたのだという事らしい。 すると その着物から 『 白い蝶 』が飛び出してきた。 「 あっ ! 」 私は思わず後退りした。 蝶を目で追うと 蝶はひらひらと驚いて手を上げたままの私の指に止まった。 そして静かに老人の肩に止まると 庭に咲く花々を1周して空に消えて行った。 「 何してんの? 」 友人がいぶかし気に声をかけてきた。 「 いないね 少女 」 「 いたでしょ 今 」 私は目を細めて空を見た。 「 皆様 お茶をどうぞ 」 気のよさそうな50位の婦人がお茶とお菓子を持ってきた。 師匠は弟子に言った。 「 君だったのか 病院の支払い30万 ありがとう 」 またねぇ~~