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シルバーナの船室 (ペンギンの○○です!)

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2006.08.29
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カテゴリ:映画
ミュンヘン (公式サイト)
ミュンヘン スペシャル・エディション
DVDミュンヘンスペシャルエディション
発売日 2006年8月18日 4,179円 DWBF-10060
発売・販売元 角川エンタテインメント

製作年度 2005年 アメリカ
上映時間 164分
監督 スティーヴン・スピルバーグ
原作 ジョージ・ジョナス
脚本 トニー・クシュナー 、エリック・ロス
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演(声の出演)
アヴナー/エリック・バナ:森川智之
スティーヴ/ダニエル・クレイグ:土田大
カール/キアラン・ハインズ:水野龍司
ロバート/マチュー・カソヴィッツ:村治学
ハンス/ハンス・ジシュラー:坂口芳貞
エフライム/ジェフリー・ラッシュ:佐々木梅治
ダフナ/アイェレット・ゾラー:岡寛恵
ルイ/マチュー・アマルリック:藤原啓治

概要
スティーヴン・スピルバーグ監督作品。
原作はジョージ・ジョナス、暗殺部隊の元メンバーの告白を基にしたノンフィクション『標的(ターゲット)は11人 モサド暗殺チームの記録』(新潮文庫刊)。
ネットを徘徊してわかったことは、本作はノンフィクションであるところの原作を忠実に再現しているのではないらしい。スピルバーグが本作を通して本当に言いたかったことが何なのか、それは見終わった人間の人生背景や予備知識によっても大いに左右されるであろうし、価値観によっても左右される。そんなお話である。よって、映画評やブログを回っても、面白いとか深いという8から9点(10点中)の評価を下す人も居れば、ぜんぜん意味がわからないと一刀両断で2点程度にとどめる人もいる。そんな賛否の分かれる作品であるが、確実に言えることは、これもまた戦争やテロのむなしさを伝えるための作品であることには間違いが無いということである。
政府の密命を受けての暗殺チームリーダとして世界各国を暗躍した主人公のアヴナーが、単にテロリストとしてイスラエルに仇なす人物をつぎつぎ暗殺することと、そのきっかけとなった(イスラエル政府にそういった工作員を世に放つという行為の至らしめた)事件、それが1972年のミュンヘン・オリンピックで起きたパレスチナ・ゲリラによるイスラエル選手殺害事件である。
主演は「ハルク」「トロイ」のエリック・バナ。
1972年9月5日未明、ミュンヘン・オリンピック開催中、武装したパレスチナのテロリスト集団“黒い九月”がイスラエルの選手村を襲撃、最終的に人質となったイスラエル選手団の11名全員が犠牲となる悲劇が起きた。これを受けてイスラエル政府は犠牲者数と同じ11名のパレスチナ幹部の暗殺を決定、諜報機関“モサド”の精鋭5人による暗殺チームを秘密裏に組織する。チームのリーダーに抜擢されたアヴナーは祖国と愛する家族のため、車輌のスペシャリスト、スティーヴ、後処理専門のカール、爆弾製造のロバート、文書偽造を務めるハンスの4人の仲間と共に、ヨーロッパ中に点在するターゲットを確実に仕留めるべく冷酷な任務の遂行にあたるのだが…。

コメント
作品への理解度や好みの程度によって賛否両論が激しい作品である。
私は非常に好きな作品の1つとなった。しかも主演のエリック・バナに対しての役者としての評価も格段に跳ね上がった作品である。
イスラエルという国家は特殊であり、20世紀になって突然数千年前に追放された(出エジプトの歴史をしらべる必要あり)故郷シナイ半島への大量入植を開始、実力行使の移住占領を経て、独立国家を再建してしまった、その間本当に数十年。先住民はパレスチナ難民となり、以来世界を巻き込んだ血みどろの抗争を繰り返している。それこそ、ことの発端は旧約聖書にまで起源をさかのぼる民族と宗教の争いの歴史の過程であり、ある意味人類が継続的している一番長い戦争である。
日本人であり部外者である自分がユダヤの人々のことやパレスチナの人々のことを指して、どちらが悪い、どちらが正しいなどと言うことは到底不可能であり、断片的にしか知りえない狭い限られた知識で彼らの深い恨み、故国と民族への愛を感触として味わうだけである。そしてこのミュンヘンという映画は、一瞬だが日本人からみる世界ではなく、イスラエルの暗殺チームリーダの目線を通して見る、ユダヤ社会があり、ユダヤの人々を見つめる世界が見えてくる。そういう意味では、一見イスラエル寄りとも見えるストーリィだが、主人公のアヴナーが、迷い悩む姿を通して、彼らが自分たちの行為を決して正当化できないでいる、政府の命令を疑問なく実行することは正しい行いなのかという自問自答を繰り返す過程で、作品テーマとも思える、いかなる理由をもってしてもテロ行為は正当化できるものではないのだという、製作者の思いみたいなものが伝わってくる。人を呪わば穴二つという日本のことわざを思い出す。そんな作品だ。

さて、妙な前置きが長くなってしまったが、イデオロギー論を映画評で語っても仕方が無いので、以下は単純に映画としての面白さの部分を語るので、いささか軽薄な表現になるが、容赦願いたい。

映画好きとして、この作品の面白いと思わせた部分は暗殺チームの暖かさというかチームメイトの絆の部分である。チームのメンバーが集まって何度も食事をするシーンがあるが、彼らが共同生活を開始し、たまたまリーダーが腕のいいシェフであることがきっかけでのチームの和み方、表面的な部分では淡々としたよそよそしさがあっても、実際の関係は熱い男気があり、メンバーの絆がミッションをこなしていくうちにどんどん硬く厚く形成されていく様に、リーダーの寡黙でまじめな性格がチームをまとめ、やがては敵か見方かも不明な相手、本来信頼などという概念すら無縁の情報源組織との不思議な信頼関係や人間的絆まで形成していく、そんな人間関係の描写に痺れた。
エリック・バナがこんなに若く瑞々しい感性と情熱を潜ませた役者だとは、本作をみるまで思わなかった。いままで観てきた彼は、どれも老成した役が多かったからかもしれない。出世作ハルクでも悩み苦しんでは居たが、それほどに強い印象がなかったし(ただし、ハルクでは、映画のターゲット層とは無関係にやたらに女性ファン増やしたらしい)、トロイではブラピとオーリーの2大人気イケメンスターの影ですっかり割りを喰った形であったが、それでもエリックを知らないで観た女性の何割かが、オーリーやブラピからエリックに乗り換えたらしい(笑)。
そして満を持してのスピルバーグ作品での主人公である。今回の等身大で悩める男ストイックな男として現れた彼は、まだ結婚してまもなく、初めての子供の誕生に歓喜し、家族を思い涙するやさしさを持つ、受けた命令に忠実であり、まじめにひたすら任務を遂行しようと努力する様には、スパイのキザさもかっこよさも無いが、それでも彼のひたむきな姿は、すてきである。
チームメイトたち(筆頭のダイニエル・クレイグは新ジェームス・ボンド)全員の堅実でしぶとく存在感のある演技が、地味に徹する主人公を埋もれさせることなく、見事なサポートぶりである。さらに、本国政府の人間の中で、唯一最後まで窓口担当となるエフライム役のジェフリー・ラッシュ、彼、海賊役では楽しそうだったが、こういう腹の底が知れない役をやらせると天下一品である。大好きだ。シャインという自閉症の天才ピアニスト役で彼を知ったが、この人は、脇にまわしてもメインにしても独特の存在感がありしかも主役を食わないという、本当に才能のある銘脇役者だと思う。そんなわけで、役者さんだけで十分楽しめる作品でもある。

吹き替えについて触れたい。
とにかく、こんなに吹き替えで、どの出演者もまんべんなく高いレベルで演技を聞かせてくれて、台詞に違和感がなく、むしろ言葉足らずの字幕とは比べ物にならないぐらいの情報量で、しかも役者おのおのの素晴らしい表現力によって、観ていてどきどきしながら作品世界にのめりこめたのは久しぶりである。非常の出来にいい吹き替え作品であると思う。これは私が主人公の森川智之を好きだからというレベルでの話ではなく、エフライムやカールやハンスやルイやパパやイスラエル首相に至るまで、痒いところに手が届くようなすばらしい演技と声の役者さんの登場に、吹き替え製作チームのアカデミーをあげたいと思ったほどである。
そして、主役を吹き替えた森川さん、初エリック・バナであった。
声をどの音域でつくるのか事前に興味があったのだが、結論から言えば演技を重視した形で、もっとも自由度が高い音域、ナチュラルな高さでの彼の最高に良い声での演技であった。だからこそ、何も知らずリラックスしている初期はやわらく穏やかでやや高めに、作戦行動にでてチームを指揮する時には力強く、そして自分の命のみならずメンバーや家族の命も危険になっていく過程で、どんどん声はしわがれ低く苦渋に満ちたものになる。
作品中、彼ほど声の雰囲気が変わる出演者は他に居なかった。演じるエリック・バナ本人の表情や演技に合わせて、声の森川もアヴナーの歩んだ数年の殺戮と苦悩の日々を共にして心も体も変貌していく様を体現していたように思える。妻への電話シーンや終わりのエフライム(佐々木氏)との淡々とながらも腹の探り合いのようなじっとりとした汗をかきそうな、そんなやり取りに見せた感情の見え隠れが凄いと思った。この作品を通して、またまた役者としての森川もステップアップしたように見える。





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Last updated  2006.08.29 23:26:53
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