カテゴリ:環境
昔、あるところに、賢者がおりました。 その賢者を困らそうと、一人の少年が、 小鳥を手に握って、賢者に問いました。 「この鳥は、生きているか、死んでいるか?」 賢者が「死んでいる」と答えたなら、小鳥をそのまま放し、 「生きている」と答えたなら、小鳥を握り殺そうと考えたのです。 ===== 私は昔から、二者択一が苦手です。 是か非か、善か悪か、敵か味方か、白か黒か… 確かにそれは、単純化には役に立ちますが、 単純化されることによって、斬り捨てられているものが、 私には気になってしかたないのです。 ===== 語学学校のベルギー出身の友人から、 「日本人だったよね。」 と言われて、イルカ漁の映像を見せられました。 正直、衝撃映像でした。 「うーん。しかし、日本では、クジラは食べるけど、イルカは食べないし、 浜に打ち上げられたイルカを、海に返せないで殺した話とかあったけど…。 これは、明らかに違うよねぇ。確かに日本だけど、どこの漁港だろう?」 ===== というわけで、調べてみて、びっくり。 日本では年間20,000頭近くのイルカが捕獲されているそうです。 意外と多い、ですね。(こちら参照) 3/4程度が、岩手県での漁獲であり、主に水産資源として捉えられている、 とのことですから、食べるんだな。私は食べたことあるかな? 見せてもらった映像では「鯨肉」として売られていました。ははぁ。 まぁ、クジラとイルカは、分類上は大きさの違いだけ、ではあるので。 なので、食べたことあるかも。 ----- 今回見せてもらった映像は、静岡県の富戸で1999年に行われた「イルカ漁」が元ネタ。 日本語で写真になっているのはこちら。 どうも、ここで行われている「追い込み漁」という漁法が「残酷だ」と問題視されているらしく、 反対運動のサイトでは、専ら、この漁法が行われている和歌山と静岡が槍玉にあげられ、 解体されるイルカや、海が真っ赤に染まった映像などが、提供されています。 (最も漁獲高の多い、岩手県の映像データは、反対運動のサイトでは見つけられませんでした。) ===== さて、イルカ漁について、多分、キーとなるのは、以下の観点でしょう。 ・イルカ漁の文化性をどう捉えるか (漁の形態/漁獲後の加工/食文化など) ・イルカの漁業に対する悪影響 (害獣駆除としての観点) ・イルカの種としての保存について 突っ込んで調べてはいませんが、クジラ漁でも、他の動物食でも同じ観点で議論できるはず。 ----- 私の見た反対運動のサイトでは、「かわいそう」に訴える手法が使われていましたが、 「他の魚は?」「牛や豚や鶏は?」という疑問に答えられるものではありません。 「イルカは、牛や豚より知能が高いから」というのを理由にする人もいますが、 これも、別の何か危険な思想を孕んでいる気がして、私は賛同できません。 ----- また、賛成派の、 「アメリカは鯨油のためにさんざ捕鯨して、クジラを絶滅に追いやっておいて、何を今更。」 という返しは、私も時々使う論法ですが(苦笑)、問題の本質から外れています。 今回の場合、「ベルギー出身だよね?『ホテル・ルワンダ』観た?」と返してみましょうか。 (ルワンダの民族対立は、ベルギーによる植民地支配政策に原因がある) ね? この言い方だと、問題の本質からずれてることが明らかでしょ? 文化的観点からの意見には、説得力がありますが、これも捉え方次第。 例えば、江戸時代には、牛や豚は基本的に食べなかったわけで 「文化保護の観点から、日本では、牛や豚を食べるのは禁止すべきだ」 とか、あるいは、江戸時代には薬として犬を食べていた、という話をもとに、 「日本人は、もっと犬を食べるべきだ」 なんて言ってみれば、「文化とは何ぞや」を掘り下げる必要が見えるでしょう。 ついでに触れておくと、「犬食文化」について、 「犬を食べるなんて…」 という人がいますが、同じように 「イルカやクジラを食べるなんて…」 と思われているのだ、ということは知っておいた方が良い。 時々「犬食」を馬鹿にしながら「鯨食」を擁護する人がいますが、 「文化」の観点からは、両者に相違はないのです。 ===== さて、じゃぁ、お前自身は、賛成か、反対か、 と聞かれると、難しいところではあります。 しかし、「魚の一種」だと考えれば、種の絶滅につながらない形で、 (つまり、きちんとした漁獲管理が行われるという前提で) 漁獲を行う、ということについては、特に問題はないと思います。 (「イルカもクジラも哺乳類です」との書き込みはご遠慮願います。) それを消費するかどうかは、それぞれの判断で行えは良いだろうと。 (ベジタリアンが肉類を食べないように。) そして、もちろん、それが、過剰な殺戮に至らないことを考慮する必要もあります。 そのためには「食べる」という行為について、他の命に対する感謝を忘れないこと。 ===== なんて書きながら、実は、「賛成か、反対か」「食べるか、食べないか」 以外にも選択肢はあるのです、ということをお話して、筆を置きましょう。 富戸で、現在、イルカ・ウォッチングのエコツアーを行われている イルカ漁を行っていた元漁師さんのお話です。 http://www.all-creatures.org/ha/rengesan.html 「文化」にも、需要があるから供給がある、という側面があります。 イルカ・ウォッチング・ツアーが良い形で軌道に乗れば、 イルカの保護への声も相乗効果で高まっていくことでしょう。 ----- 「賛成」「反対」を声高に叫ぶのではなく、両者が共存できる、 第三の道を模索し、提案していくこと。 「白か、黒か」だけでは、世界は窮屈です。 世界はオセロのゲーム盤ではない。 様々な色に彩られて、だから世界は美しい。 ===== (冒頭の話の続き) 答えを迫る少年に、賢者はこう答えます。 「少年よ。答えは汝の掌の中にある。」 それを聞いて、少年は、そっと小鳥を空に放ちました。 小鳥の命と、少年の心を救って、賢者は優しく微笑んだのでした。 ===== ※ 今回紹介した「お話」は、ソロモン王のエピソードだと思いますが、 加納朋子先生作の『掌の中の小鳥』からイメージを引用しました。 加納朋子先生の、現時点の最高傑作と言っても良い、傑作連作短編集。 読んだあと、ふわりと優しい心に包まれる、珠玉の作品です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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