テーマ:今日飲んだお茶(1037)
カテゴリ:茶会記
昔、あるところに、お侍さんがいました。
そのお侍さんが、とても偉いお茶の先生のお茶会に呼ばれました。 お侍さんは、お茶会は初めてで、作法も分かりませんでしたが、 偉い先生に失礼のないよう、一生懸命、お客様を務めました。 先生の所を辞して、お茶を知らないことを恥じたお侍さんは、 それからお茶を習いはじめました。 数年が経ち、お侍さんが、茶道に詳しくなった頃、 再び、偉い先生のお茶会に呼ばれました。 今度は、作法は完璧です。 とても満足な気分でいたお侍さんに、先生は言いました。 「数年前、あなたは、作法を知らないと仰いながらも、 本当に丁寧に、お茶を頂いて下さいました。 しかし、今日のあなたは、作法には適っていましたが、 型に流れてしまって、心がこもっているとは思えませんでした。 とても残念に思います。」 ====== 小学生の頃に、『マンガ茶の湯入門』で読んだ話です。 「お茶って深いなぁ。いつかやってみたいなぁ。」 と思ったのは、これを読んだのが、きっかけだったのかも知れません。 ===== 10月に森鴎外記念館で行われた公開お茶会では、和服に着替えて見学していたところ、 初対面だった士門先生に、いきなり 「お正客をやって。」 と言われて、急遽登板。 ----- 流派の違いで、声掛けのタイミングが微妙に違ったりして、 多少ちぐはぐもしましたが、何とか、こなすことが出来ました。 その時、お話をしていたのが「お茶はおもてなし」ということ。 茶道は、形ではないのです。 ===== フライブルクで、ホストファミリーにお茶を点てさせて頂いた時(こちら)、 「ティーセレモニーというのは、どういう時に行うの?お誕生日?」 と聞かれ、返答に窮しました。 ----- 現代では、「お茶会が開かれる時がお茶会」になってしまっていますけど、 「こんな美味しいお菓子を頂いたから、みんなで食べましょう」とか、 「こんな素敵なお花が咲いたから、みんなで愛でましょう」とかが、 本来の姿なのだと私は思っています。 ----- 私が、度々「お気軽茶会」を開いているのは、それで、 英語の先生のフェアウェルにいかがでしょう(こちら/こちら)とか ダイビングで冷え切った体を、こうやって温めるのもありでしょ(こちら)とか 「もっとお気楽にお茶はいかが?」という提案のつもりでやっています。 ----- とは言え、「型」を破るからには「型」を知る必要があるわけで。 ===== お茶のお稽古が終わった、記念館の部屋をお借りして、お茶を点てさせて頂きました。 先生をお客様に迎えて…気軽に点てるはずが、先生からのお声がかかります。 そう言えば、お稽古をつけて頂くのって久しぶり。 ----- 気が付けば、自分の作法も、「型」に流れ、妙な癖が付いていました。 基本動作である、「袱紗捌き」や「茶杓の扱い」、「柄杓の扱い」など、 もう少し丹田を意識すること、余裕とゆとりをもって扱うこと。 表現は違えど、お稽古頂いている先生から言われていたことばかりです。 恥ずかしながら、「型」に流れていた、としか、言いようがありません。 ----- いくつかは流派の違いもあって、それも新鮮な驚き。 ・「お菓子をどうぞ」の声は、江戸千家では、お菓子を出したタイミングなのに対し、 嵯峨流では、水差しの蓋を取ったタイミングで声をかけます。 ・江戸千家では、お茶を一口頂いたところで、一礼して「大変結構でございます」などの声をかけるのですが、 先生は、お茶碗を手に取った時に挨拶されて、そのまま数口でお茶を飲み干されていました。 ・こちらには炉が切ってないので、お釜なのですが、江戸千家では「お湯の扱いの時に”鏡柄杓”、お茶に注いだら”留め柄杓”」と覚えていたので、そうしたところ、先生は「逆でしょう」とのこと。 私の記憶違いじゃないと思うのですけど…。 ----- お菓子は、ドイツ人の生徒さんが作られた、マジパンの「椿」。 「葉っぱの形が研究不足ね。」 との先生の評でしたけど、なかなかどうして、立派なものです。 甘みが抑えられていて、ちょっとジンジャーかな?そんな香りがして、美味しい。 ----- 自分の分も、引き続き自服(じふく;自分で点てて飲むこと)で頂きました。 ===== あの森鴎外先生が、かって人生の一時期を過ごした空間で、 士門先生が、これまで歩んでこられた人生のお話をお伺いしながら、 お茶を頂く贅沢と不思議。 5年前、ちょっとしたきっかけで、それまでやりたかったお茶をようやく始めたわけですが、 それが、様々な形で「縁」を結んでくれていることが、本当に不思議ですし、有難いことです。 5年前、始めていなければ、5年間という歳月は重ならなかったわけで、 本当にあの時始めていて良かったな、と思います。 帰国したら、5年間お世話になった先生のもとを離れてしまうことになり、 それは、本当に寂しいことなのですが、これからも、お稽古は続けていきたいと思います。 出来れば、年に一度のお茶会と、1/12の初釜は顔を出すようにしたいですけど。 ===== さて、ご馳走様でした。 お片づけ。お片づけ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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