カテゴリ:読書
小難しいミステリー論はさておき、ミステリーを読むことは、
私にとっては最高の娯楽の一つなのです。 おそらく。 「現実」は、やるせない事件と、不合理に満ち満ちているわけですが、 「本格推理小説」においては、最終的に「悪」は暴かれ、「不合理」は秩序の中に回収されます。 私がミステリーに惹かれるのは、だから、やるせなさと不合理に満ちた「現実」に対する 反発であり、逃避である、ということなのでしょう。 ===== 『百器徒然袋-風』 京極夏彦 傍若無人、唯一絶対の名探偵、榎木津礼二郎が 日常の謎から大仕掛を暴き、仕掛けられた罠を容赦なく粉砕し、 売られた喧嘩を仕掛けて返す、痛快娯楽探偵小説集。 ----- 前作は、それでも、哀しむべき「現実」に対しての勧善懲悪という面がありましたが、 今回は、コンゲーム的な騙し合いが中心に据えられているため、 3篇とも、陽気で明るい雰囲気が漂い、読んで楽しい。 ----- 「招き猫」の挙げている肢が問題になる『五徳猫』は、ひこにゃん活躍の今、タイムリーですし、 (「ひこにゃん」のモデルになった白猫の話も、もちろん載っています。) 『雲外鏡』の「魔鏡」の説明は、私が今まで見た中で、一番分かりやすい。 また、『面霊気』では、能面の変遷についてのアプローチ方法が語られます。 ----- うーん。やっぱり京極夏彦先生はすごい。 ===== 『生首に聞いてみろ』 法月綸太郎 2005年「このミス!」1位作品、文庫に登場です。 ----- 彫刻家の遺作から頭部が盗まれるという、 奇妙な事件に関わることになった法月綸太郎。 「犯人」の目的は? そもそも頭部はあったのか? 謎を追いかける探偵をあざ笑うかのように、本物の生首が。 探偵は、もつれた「誤解」の糸を解きほぐすことが出来るのか? ----- そして、全ての謎が解けた時、冒頭に置かれた謎への解答こそが、 物語を紡ぐ糸へと繋がっていきます。 閃き型の天才探偵ではない、苦悩する名探偵法月綸太郎だからこそ、 この物語は、物語としての輝きを、いや増すのです。 ===== 『蛍』 麻耶雄嵩 「戦慄の旋律」の帯は、伊達ではありません。 島田荘司先生の「斜め屋敷」で、狂った論理が、 綾辻行人先生の「時計館」で、狂った時が、 麻耶雄嵩先生の「和音島」で、狂った芸術論が、 物語を紡いだように、この「ファイアフライ館」では、 狂った音楽が、狂った旋律が、物語の主人公なのです。 ----- 跳梁跋扈する殺人鬼の物語と、クローズドサークルの舞台立て。 この二つがクロスする先に、この先鋭的な物語が屹立します。 物語が進むほどに加速していく「違和感」。 その理由もはっきりしないままに、作者の仕掛けたミスリードと、張り巡らされた伏線に、 読み手としての自分が反応していながら、見抜くことは、かないませんでした。 事件の謎以上に、"あまりに大胆であからさまなミスリード"に度肝を抜かれたことを告白しましょう。 そして、あっさりと描かれる、驚愕のラスト。 ----- 読み終わってなお残る違和感、割り切れなさからくる酩酊感は、 「現実」の事件で感じる「割り切れなさ」とは全く違うもので、 そのズレからくる非現実感こそが、私が麻耶雄嵩先生を読む理由。 ===== 『少年探偵・春田龍介』 山本周五郎 「好きな作家を一人だけ」と聞かれたら、私は迷わず山本周五郎先生の名前を挙げます。 もちろん、と言って先生方の名前を挙げ始めるとキリがありませんが、 「一人だけ」なら、山本周五郎先生以外には、考えられません。 笑わせて、泣かせて、しみじみさせて。 そして、その山本周五郎先生は、探偵小説もお書きになっているのです。 作家当て企画で、覆面作家として執筆された『寝ぼけ署長』はじめ、 短編・長編問わず、ミステリ的手法が使われていることもよく指摘されます。 (Whoよりも、HowとかWhyが謎の中心となる場合が多いです。) しかし、戦前の探偵小説群は、「習作」扱いされて、今まで文庫化されてきませんでした。 今回のシリーズは、雑誌の中に埋もれていた作品群に焦点を当てたもの。 いやぁ、編者の末國善己先生のご尽力に、ただただ脱帽です。 ----- 第一回の『少年探偵・春田龍介』は、題名の通り、 少年探偵が、智力の限りをつくして「悪」に立ち向かい活躍する、周五郎版「少年探偵団」。 確かに「少年向け」ではあるのですが、それだけに、自分が子供の頃に読んでいたら、 手に汗を握ったろうな、という読み応えがあります。 特に、『ウラルの東』では、これでもかというほど連続するピンチ、逆転につぐ逆転、 冒頭から登場する悪役、残虐な敵の首領など、冒険、奇想なんでもあり。 「満州」をめぐる時代背景が垣間見えるのも、違った意味での読み応え、でしょう。 ----- とは言え、この本、人には勧めません。 あくまで、この本は、周五郎ファンの、お遊びみたいなものです。 どうせ読むなら、こちらの短編集の方が、断然面白いです。 『寝ぼけ署長』 『つゆのひぬま』 『人情裏長屋』 山本周五郎先生は言います。 「世の中は、つらいこと、苦しいことに満ちている。 だからこそ、せめて小説の中では、楽しい気分になって欲しい。」 ===== 私にとって、読書とは、最高の娯楽なのです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 4, 2007 04:54:36 PM
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