カテゴリ:環境
「善意は善行を生まない」
===== 数年前、環境サークルに顔を出した時、一年生から 「mrtkさん、フェアトレードってご存知ですか?」と聞かれました。 いや、ご存知も何も、10年も前の新入生勧誘の時に、 フェアトレードコーヒーとかチョコとかを買ってきて、 その説明とかも含めてやったんだけど… しかし、それから10年経っても、「フェアトレード」が、 それだけ浸透していないと認識されている、ということで、 だとすると、それは、知識を持っているだけで、浸透に寄与してこなかった、 自分自身の責任でもあるのだな、と実感した次第です。 ----- 国立民族学博物館へ「オセアニア大航海展」を観に行ったら、 「国際開発協力へのまなざし:実践とフィールドワーク」のチラシがありました。 フェアトレードについて、文化人類学的視点からの話が聞けるとのこと。 環境問題について、実践からは離れた立場にいるものの、 知識としての最前線は追っておきたい、と思い、参加してきました。 ===== その日は、やたらとダイヤが乱れていたのと、少々道に迷ったため、遅れての入場。 佐藤 寛先生が、国際援助に関する「世代論」を語っていらっしゃるところでした。 つまり、戦後の貧しさから復興していく中で、団塊以上の世代は、 豊かさは自分達の努力に対する「当然の果実」と考えていて、 彼らは、国際援助の問題について、興味関心が低い。 自分達が努力してきた、という自負がある分、貧しい国に対しては、 「努力が足りない」という意識を持ってしまうわけですね。 そして、環境問題についても、エネルギーをいかに浪費しようが、 自分達が得たものを、自分達が使うのは当然、という意識を持っている。 ----- 正直、環境問題をやっていて、話が通じないなぁ、と思うのは、 ここらへん(自分の親世代と、そこよりちょっと若い世代)だったりするので、 この世代論については、なるほど、と腑に落ちました。 ----- そして、一方で、こういった問題について、最近の若者たちの関心は高い、と。 豊かさが当り前にあって、一方で様々な情報に触れる若年屠にとっては、 「途上国の貧しさ」は「ショック」であり、その「ショック」が援助活動の源動力になっているのだ、と。 ----- 現に会場を見回してみると、学生はじめ、その少し上くらいの、若い世代が多い。 女性は年齢が分からないにせよ、各世代が来ている感じはありますが、 男性は、若者でなければ、教授クラスの年の人か、引退したくらいの人がいるくらい。 中間世代が、まともに抜けています。 なんだかなぁ…。 しかし、これは全体的な傾向であって、文句は言いますまい。 ===== 若者たちの熱意があっても、しかし、現場には「ほろ苦さ」がある、と先生は言います。 上手くいかないことや、様々な軋轢、裏切り、人間関係…。 フェアトレードは、「現場のほろ苦さ」を経ずに、支援を行える手段なのだ、と。 ----- 先生によると、チャリティー援助は、2OO年の歴史があるそうです。 植民地とキリスト教教会の関係から始まっているわけですね。 しかし、チャリティーについては、「善意は善行を生まない」ということを念頭に置いて欲しい、と。 先生は、イエメンをフィールドにされているそうですが、 あるイエメンに来た観光客が、「現場」を目の当たりにして、 善意で車イスを贈ろうと、帰国後様々に呼びかけて、車椅子を集め、 送る段になって、先生に相談されたそうです。 しかし、先生はそれを断りました。 その観光客の善意も、努力も、分かりすぎるくらい分かる。 しかしそれでも、その援助を断った理由は、 ・日本製の車椅子は、高性能であるが故に、贈りたい貧しい人には届かず、 金持ち層に取り込まれて、格差を助長するにすぎない。 ・日本製の車椅子は、日本の事情にあったものであり、イエメンで使って快適かどうか分からない。 壊れた場合に部品が手に入るかどうか分からないため、修理か出来ない可能性がある。 ・善意の車イスも、輸送費、関税などのコストを考えると、現金を贈った方が良いかも知れない。 哀しいけれども、「現実」はこういう「ほろ苦さ」を含んでいるのです。 ----- 善意による「高価な援助」は、援助資源をめぐる争いを引き起こし、 あるいは、争いがなかったとしても、格差の固定・助長を引き起こす。 少なくとも、その可能性がある。 ODAの良くない例として、よく槍玉に挙がっていた、「最新鋭の医療機器」も、 修理が出来ない、使いこなせる人材育成まで手が回らない、ということが課題でした。 現地に、現場に応じた援助の方法がある、それに答えを出せるのは、 「経済学」ではなく、「人類学」が出来ることなのではないか、と。 ===== フェアトレードというのは、交易です。 交易は、一方的な関係ではない。 交易を通じて、国際市場に打って出るための知識や体力をつけることも出来る。 だからこそ対等な手段たりうる。 グローバリゼーションは、もしかするとチャンスたりうるかも知れないのです。 そのあたりの議論については、この後の討論を通じて詳しく見ていきましょう。 ===== 人間文化研究機構 第7回公開講演会・シンポジウム 国立民族学博物館開館30周年記念 「国際開発協力へのまなざし:実践とフィールドワーク」 【主催】人間文化研究機構 【日時】2007.11/30(金) 18:00-21:00 【場所】IMPホール 【講演1】「世界の国際開発協力の潮流と日本の貢献」 佐藤 寛 氏 (アジア経済研究所・研究支援部長) 【講演2】「フェアトレード:チョコレートを食べて友達を増やそう」 鈴木 紀 氏 (国立民族学博物館・准教授) 【総合討論】「国際開発協力のあり方とフェアトレード」 岸上 伸啓 氏 (国立民族学博物館・教授) 新井 泉 氏 (国際協力銀行・理事) 石原 聡 氏 (世界銀行・社会開発専門官) 大石 芳野 氏 (写真家) 大橋 正明 氏 (恵泉女学園大学・教授) 鈴木 紀 氏 (国立民族学博物館・准教授) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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