カテゴリ:環境
「フェア・トレードの付加価値」
===== 鈴木紀先生からは、現在の国際協力の現状について、ざっくりとお話がありました。 現在のODAの規模は、7293億円(2007)であり、ピーク時(1997)の62%。 技術専門・青年海外協力では、10082人が派遣されています。 ----- しかし、皆が皆、国際協力のために海外に出る、というわけにはいかない。 自分たち自身が、今、ここにいて、身近に出来る国際協力として、 フェアトレードを考えましょう、ということでした。 ===== 「フェア・トレード」は直訳すれば「公正な交易」です。 では、公正な交易とは、どういうことか? それは、「搾取」しない交易です。 そして、「ワーキング・プア」を作らない交易です。 つまり、事業の生産コスト、生産者の再生産コストが回収できる交易のことです。 モノを作っても、それが生産コストより安く買い叩かれてしまうと、生産者の生活は楽にならない。 多少、利益が出たところで、翌年の生産のための初期費用(肥料代とか)が準備出来なければ、 あるいは、想定外のコスト(不作だった場合とか)に耐えられる内部保留を持てるようにならなければ、 生活は自転車操業のままで、いつまでも「貧しさ」から抜け出すことが出来ない。 ----- 京セラの稲盛和夫会長は、本の中で「値決めは経営」と言っています。 値段を決めること、生産者として、コストと市場判断から、「儲かる」ラインを見極めること、 これこそが「経営」そのものなのだ、と。 「値段」を適正に判断するためには、「情報」が必要です。 多種の「情報」を整理し、捨象し、的確に判断することで、コストを正しく見積もり、 価格を決定することができる。 しかし、です。 フェア・トレードで考慮される層は、「生産者」であっても、価格の決定力を持たない。 さらに言えば、価格を決定するための情報から阻害されている。 あるいは、輸出のためのインフラ基盤が整ってなければ、そもそも「市場」から阻害され、 市場で決まった価格から、運搬コストを差し引く形で、「価格」が決定されてしまう。 ----- 先生は言います。 フェア・トレードの効果を活かしていくためには、 援助として、港の整備などと組みあわせることが効果的だ、と。 また、「市場」は、(「環境」や「人権」を「外部不経済」として切り捨てても) 「品質」「法遵守」といったことにシビアです。 これらの適正な市場参入のための諸条件をクリアするためには、 知識や教育だけでなく、生産方法や保管方法などの改変といった条件整備も必要です。 フェア・トレードの枠組に乗るためには、さらに厳しい条件を満たすことが必要になります。 しかし、これらの条件を満たし、市場に持っていくということは、 貿易の初心者である生産者にとって、「市場参入」トレーニングにもなるのだ、と。 ===== さて、例えばグリーンマークや、エコ・マークのように、 「フェア・トレード・ラベル」というのがあります。 NGO/NPOによる自主規格、独自基準は別にして、 大きくはFLOとIFATの2種類のラベル認定があります。 FLO:Fairtrade Labelling Organizations International IFAT:International Fair Trade Association 違いはありますが、それぞれ基準を設け、それを遵守させることで、 生産現場に改変を促し、消費者に情報を提供しているわけです。 ----- 「フェア・トレード商品」は割高、というイメージがあります。 これも不思議なことで、輸入業者による中間搾取を排除して、 生産者と消費者を近い形で結んでいるはずなのに、価格が上がる、というのは、 それだけ、「市場価格」と「適正価格」がかけ離れている、ということであり、 「安全」「安心」-「消費者の」かもしれない、「生産者の」かもしれない-が 脅かされている、無視されている、ということなのだと、私は思ってしまうのですが…。 ----- さて、次の「フェア・トレード商品」には3つのメリットがある、と先生は言います。 ・消費者が嬉しい ・生産者が嬉しい ・出会いがある ----- 消費者の嬉しさ、とは、チョコレートを例に取れば、「美味しさ」だ、と。 フェア・トレードの対象となっているカカオ豆は、厳しい生産条件をクリアしているため、 原料の質が高く、安全性が担保されているし、 また、多くスイスで最終加工されていて、商品の品質も高い。 ----- 生産者からしても、技術的な支援を受けられることで、高付加価値生産に転換でき、 安定した買い付けを行ってもらえるので、メリットがある。 ----- フェアトレード商品は割高に感じられるかもしれないが、 商品の購入、顔が見える交易を通じて、友情を育くむという付加価値があり、 それは、金銭に換算できる以上の価値ではないか、と。 ===== 先生が出会った、フェアトレードの仲間たちとして、 エクアドル、メキシコ、ドミニカの生産者の方々のスライドを見せて頂きました。 日本に入っているフェアトレード・チョコレートのほとんどはスイス産です。 これは、スイスのカカオ輸入業者の意識が高いからだと、先生は言います。 カカオは、その性質上、中南米-メキシコ・ドミニカ・エクアドルといった国々で栽培されます。 栽培地の多くは、栽培・保管・輸送までにかかわっていますが、 エクアドルでは、チョコまで製造し、輸出につなげています。 ----- メキシコの例として紹介されたのは、カカオ価格が下落した時、 神父の助言で、有機栽培をはじめ、高付加価値栽培に転換することができた村のお話でした。 そこでは、NGOビオプラネタを通じて、メキシコ国内向けにココアを販売しているそうです。 ----- ドミニカで活躍しているのは、ボリビア系ドイツ人。 国際協力ボランティアとしてドミニカに関わる中で、ドミニカでのカカオ有機栽培を考え、移住。 発酵プロセスのコントロールにより、質を高める技術を武器に、 有機栽培マニュアルを作成し、現地での有機栽培普及に力を注いでいます。 ===== 最後に、フェアトレード発展のために、として、先生が3点挙げられました。 一つ目は、もっとフェアトレード商品を、という消費者の声を高めること。 二つ目は、推進団体から、もっとフェアトレードの情報を、消費者へ届けること。 三つ目は、開発問題、環境問題へのまなざしを持って、フェアな生き方を模索すること。 ----- ドイツには、エコ系のスーパーもありますが、 一般のスーパーでも、「BIO」のコーナーがあって、 そこには、有機栽培の食品、フェアトレード商品が集められていました。 また、ホームステイ先でも、ホストファミリーから、 「これは教会で扱っている、フェアトレード商品のシナモン・シュガーなんだよ。」 とのお話を頂いたこともあります。 ----- 日本では、まだまだ一般化していないように見えるフェアトレード。 でも、たくさんの人達が、普及のために力を尽くしているのです。 総合討論では、そういった方々の紹介も含めて見て行きましょう。 ===== 人間文化研究機構 第7回公開講演会・シンポジウム 国立民族学博物館開館30周年記念 「国際開発協力へのまなざし:実践とフィールドワーク」 【主催】人間文化研究機構 【日時】2007.11/30(金) 18:00-21:00 【場所】IMPホール 【講演1】「世界の国際開発協力の潮流と日本の貢献」 佐藤 寛 氏 (アジア経済研究所・研究支援部長) 【講演2】「フェアトレード:チョコレートを食べて友達を増やそう」 鈴木 紀 氏 (国立民族学博物館・准教授) 【総合討論】「国際開発協力のあり方とフェアトレード」 岸上 伸啓 氏 (国立民族学博物館・教授) 新井 泉 氏 (国際協力銀行・理事) 石原 聡 氏 (世界銀行・社会開発専門官) 大石 芳野 氏 (写真家) 大橋 正明 氏 (恵泉女学園大学・教授) 鈴木 紀 氏 (国立民族学博物館・准教授) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 6, 2008 09:14:11 PM
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