カテゴリ:環境
【総合討論】<4>「フェアとは何か」
===== 大変難しい質問が、岸上さんから投げかけられました。 すなわち、「フェアとは何か」? ===== トップバッターは、国立民族学博物館の鈴木さんです。 先生は逆に問いかけます。 「フェアじゃない何かとは?」 「通常貿易はアンフェアか?」 と。 ----- 通常貿易は、アンフェアとは言えない。 しかし、アンフェアではないにせよ、 生産者に価格決定権がない、というシステムは、 生産者が買い叩かれる構造になっている。 この構造を打破することがフェアではないか、と。 ===== 国際協力銀行の新井さんは、理論的に問題を分析して見せてくれました。 すなわち、 ・先進国の農業補助などに見られる、貿易の仕組における公平性の欠如 ・生産者同士の条件格差 ・市場アクセスを含めた、情報格差の問題 これらが「フェア」を阻害している要因である、と。 ----- 例えば、農産物の輸入自由化の話に際して、よく議論にのぼる関税障壁は、 せっかくテイクオフしようとしている途上国経済に対する障壁になりえます。 しかし、それは、単なる撤廃すべき障壁なのか、というと、疑問はあります。 ----- 本当は、世界トータルで見ての、経済の落ち着き先というか、 理想的な将来像が描ければ、食糧安全保障の問題も含めて、 世界経済発展の夢を描ければ良いのですが…。 残念ながら、というよりも、当然ながら、夢物語に過ぎません。 ----- だからこそ、国際会議の場で、お互いのエゴをむき出しにしながらでも、 とことん議論を進めるほかはないのでしょう。 その中で、「フェアな競争」を阻害している、これらの要因を緩和していく、 そういう国際協力体制が構築されるなら、少しでも、 「フェア」に近づいていくことになるのだろうと思います。 ===== 世界銀行の石原さんは、対等に価格を設定する自由市場は 「フェア」と言わざるを得ない、と言います。 しかし、自由市場は分配システムとしては優れているが、 公平性を保障するものではない、と。 ----- この発言は、おそらく、他の分配システムを念頭に置いてのものでしょう。 「売り手」と「買い手」が、「神の見えざる手」を借り、価格を決定する自由市場システム。 ----- 残念ながら、見えざる手を持つ「神」は、決して公平ではありません。 試練だか何だか知りませんが、この世は不公平に満ちています。 だからこそ、私達が、私達自身で、公平を目指さなければならないのでしょう。 それはとても難しいことなのだけれども。 ===== 写真家の大石さんからは、厳しい指摘がありました。 現代の、大量流通の時代にあって、フェアトレードそのものが、 そもそも、「公平」を達成する手段になっているのか? という問いかけです。 つまり、フェアトレードが、フェアであることから離れて、 「おめぐみ」になってないか? と。 ----- 言い換えれば、自立を「助長」してないか、 すなわち、自立を助けようとして、自己満足に陥り、 逆に自立の妨げになっていないか、そういう意味でしょう。 ----- それに対し、大橋さんは、考えなければならないのは、 「買う側のフェア」ではなく「作る側のフェア」だと指摘します。 貧富の格差は、南北間にだけでなく、内部にもある。 それは、どこかに構造の欠陥があることを意味している、と。 だからこそ、誰の視点からのフェアか、ということを考え、 それぞれに「フェアネス」を提供する必要があるのだ、と。 ----- 国立民族学博物館の鈴木さんが挙げたのは、 フェアトレードの効果が、消費者に見えていない、 その結果、消費者は、与えられた「フェア」を信じるしかない という点が問題だ、という点でした。 ----- 今、一般的に「フェアトレード商品」と呼ばれているものは、 FLOやIFATが提示する基準を満たした商品なり、 組織の産品なりなわけですが、「消費者」としては、 その基準、基準の認定がフェアであることを信じて、 商品を購入する、ということになります。 ----- ここに潜む問題点については、この後、「テーマのある旅交流会」で ある先生から、「フェアのアンフェア性」について指摘を受けたのですが… そのお話は後日。 ===== 世界銀行の石原さんは、経済学の視点から、 需要と供給による価格決定システム上に、 生産者の生活を保障するものはない、と言い切ります。 問われているのは、「公平さ」なのか「公正さ」なのか、 ということであり、ここに関われる主体は、政治である、と。 しかし、フェアトレードは、消費者がその「公平さ」に 一票を投じられるシステムなのだ、と。 ===== 国際協力銀行の新井さんからは、 「ブランドとしてのフェアトレード」という視点が必要だ、というお話がありました。 ----- これまでの話の中でもありましたが、 フェアトレード産品は、値段が高い分、 安心・安全・高品質が保障されている、とも言えます。 ----- ドイツ・フライブルクの朝市で驚いたのは、 「産地直送」である朝市の商品の方が、 スーパーなどの商品よりも高かったこと。 顔が見える安心、顔が見えるからこその品質の保証。 そして、楽しげな顔見知りとの会話。(そして恐らくは、顔見知りへのおまけ) それらが高い付加価値となって、お客がつくのです。 ----- 単に値段が高いものを、「ブランド」とは呼びません。 「ブランド」というと、少し取り澄ました感じがしますが、 高品質の裏付け、顔が見えるという価値、これらが合わさった先に 「フェアトレードというブランド」があるのだと思います。 ===== 人間文化研究機構 第7回公開講演会・シンポジウム 国立民族学博物館開館30周年記念 「国際開発協力へのまなざし:実践とフィールドワーク」 【主催】人間文化研究機構 【日時】2007.11/30(金) 18:00-21:00 【場所】IMPホール 【講演1】「世界の国際開発協力の潮流と日本の貢献」 佐藤 寛 氏 (アジア経済研究所・研究支援部長) 【講演2】「フェアトレード:チョコレートを食べて友達を増やそう」 鈴木 紀 氏 (国立民族学博物館・准教授) 【総合討論】「国際開発協力のあり方とフェアトレード」 岸上 伸啓 氏 (国立民族学博物館・教授) 新井 泉 氏 (国際協力銀行・理事) 石原 聡 氏 (世界銀行・社会開発専門官) 大石 芳野 氏 (写真家) 大橋 正明 氏 (恵泉女学園大学・教授) 鈴木 紀 氏 (国立民族学博物館・准教授) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 26, 2008 09:33:41 PM
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