カテゴリ:美術
名作と言われて、しかし、読んでない作品って、たくさんあるのですが、
残念なことに、『赤毛のアン』もその一つです。 しかし、原作を読んでなくても感動できる、密度の濃い展覧会でした。 ===== もともとの、アンのストーリーに立脚した企画自体も魅力的なのですが、 この展覧会では、それに加えて、 作者 モンゴメリの魅力 訳者 村岡花子の魅力 舞台 プリンス・エドワード島の魅力 が語られます。 ===== 【モンゴメリの魅力】 1874年、プリンスエドワード島で生まれたモンゴメリの人生は、 決して平担なものではありませんでした ----- 母は生後20ヶ月で亡くなり、父は西部へ行き再婚します。 彼女は、母方の祖父母に引き取られ、厳格に躾られます。 幼い頃から、文学を志し、教師を夢見ますが、 女性が学歴を得ることは、大変難しい時代でもあり、 それを説得するのも、容易ではありませんでした。 父の元から通ったハイスクールには、義母から家事を押し付けられ、 ほとんど行けず、1年足らずで、父の元から戻り、 教員免許を取得、さらに大学へと進学し、小学校教師の職を得ます。 ----- 「老夫婦が孤児院に男の子を申し込んだら、間違えて女の子が送られてきた」 という新聞記事からヒントを得て、彼女は『赤毛のアン』を書き始めます。 1年足らずで書き綴られた作品を出版社に送るも、4社から断わられます。 そして、この作品は、そっと仕舞われてしまったのですが、 しばらくして、再びこの作品を手にとって、面白さを確信した彼女は、 もう一度別の出版社に作品を送ります。 こうした経緯をたどって、作品が日の目を見たのは、1908年のこと。 そう、今年は、「赤毛のアン」出版100周年なのです。 出版された「アン」の評判は、大変良いものでした。 ----- 作家としては成功したモンゴメリでしたが、 その裏で、私生活では苦労をしていました。 祖父の急死を受け、祖母の面倒を見るようになり、 祖母の死の後は、長年住み慣れた家を離れざるを得なくなります。 その時に5年前から婚約していた牧師と結婚するのですが、これが、36歳の時。 その後も、牧師の妻として、地域活動に貢献し、 夫の精神的支えとなり、母として子を育て(死産も経験します) そんな中で、数々の小説が書かれていったのです。 ===== さてさて、展覧会では、小説の中にも登場する犬の置物や、フルーツ籠、 そして、直筆原稿が展示され、モンゴメリの足跡が紹介されます。 ----- 面白かったのは、彼女が作っていたスクラップ帖のコピー展示。 固定台に置かれたのを、自由にめくれるようになっているのですが、 興味や関心、趣味が伺えて興味深い。 モンゴメリって、自分の感じたたくさんの「素敵」を昇華して、 「アン」という物語を綴っていったんだろうなぁ、と。 ===== 【村岡花子の魅力】 訳者 村岡花子の人生も、波瀾に満ちたものでした。 関東大震災では、夫の経営する印刷会社が倒産。 33歳の時には、長男を病気で亡くし、戦争では、多くの友人との別れを体験します。 ----- 東洋英和女学校で学んだ彼女は、カナダ人教師から英語を学びました。 その後、山梨英和女学校で英語教師をし、教文館で本の編集に携わります。 「王様と乞食」の翻訳や、家庭雑誌「青蘭」発行。 また、NHKラジオでの子供向けニュース担当として、 「ラジオのおばさん」として親しまれますが、 これも、太平洋戦争が始まるまでのことでした。 親しかったカナダ人宣教師たちは、戦争が始まる前に、 日本から去っていかざるをえませんでした。 その時に、彼女へと託された本の一冊が、「赤毛のアン」でした。 戦後、彼女の手になる翻訳が、三笠書房より出版されます。 今現在、新潮文庫から出ている文庫版も彼女の訳です。 ----- カナダ人宣教師から贈られたアンの物語は、村岡花子さんの手によって、 日本の子供達への素敵なプレゼントとなったのです。 ===== 展覧会では、彼女の生涯の紹介と、ゆかりの品々が展示されています。 面白かったのは、ラジオの子供ニュースが聞けること。 落ち着いた、ゆっくりとした語り口は、さすが「ラジオのおばさん」だなぁ、と。 ===== 【アンの世界の魅力】 続いて、シリーズ第1作「赤毛のアン」の作品世界が展示されています。 所々のエピソードは、聞いた覚えがあるなぁ… 新潮文庫の新装版の表紙となっている 丁寧で端正な、ガッシュ水彩画の原画が並びます。 再現された物語中の料理。 プリンスエドワード島で演じられているミュージカルのポスターと衣裳。 ----- アンを原作とした、映画とアニメの紹介。 「世界名作劇場」の「赤毛のアン」 おお~。懐かしい! たしかに、そんなのやってた覚えはあります。 ちゃんとは覚えてないですけどね。 当然、当時は、高畑勲さんが監督だとか、 宮崎駿さんが作画スタッフだとか、知りませんでしたけど。 映画版も美しい。 ===== 【プリンスエドワード島の魅力】 当時のプリンス・エドワード島で使われていた生活用品の展示。 洗濯機とか、アイロンとか、ちょっと懐かし面白い感じ。 今の生活に関わる展示として、巨大なキルト作品、刺繍作品。 そして、モニターには、吉村和敏さんが撮られた、 プリンスエドワード島の四季が映されます。 何と言うか、手の届く幸せって、良いなぁ、と。 本当の意味で、豊かだなぁ、と。 ===== いやはや、ものすごく豊かで盛りだくさんな内容で、 お土産物(タイアップグッズ。意外と好きだったり。)も充実していて、大満足でした。 家を探したら、本がある、と思ったんだけど、2巻しか見つからないんだよなぁ。 ちょっと読んでみたら、いや、面白い。とは言え、まだ読み終えてないですけど。 新装版(訳は村岡花子さんのまま)も出たそうだし、 ちょっとちゃんと読んでみますか。 ===== 『赤毛のアン』展 @高島屋大阪店 (難波) 展覧会(出版100周年記念企画)公式サイト:http://www.anne100th.com/ [会期]2008.09/04(木)~2008.09/15(月) [開館]10:00-20:00 [料金] 一般 800円 / 大学・高校生 600円 / 中学生以下無料 東京、名古屋、広島、大阪では終わりましたが、 年明けには福岡、仙台、札幌、そして京都、大分、横浜と まだまだ巡回は続くようですね。 お近くで開催された際には、是非。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
November 23, 2008 02:13:23 AM
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