カテゴリ:テレビ
イギリスのテレビは時々、めちゃくちゃ鋭いものを放送する。
中身がかなり濃いし、日本のイマドキの番組のように「CM前にはっと息を飲ませ→CMにはいる→CM前に放送していたところを重ねて放送する」みたいなせこいひきつけ方をしないところが気に入っている。 「My New Face」と題された昨夜の番組は、イギリスの2人の外科医を中心としたドキュメンタリー。 世の中のありとあらゆる人の顔にはそれぞれ美醜もあれば個性もあるが、やはり病気がもとで、避けきれない障害を顔に負ってしまった人がいる。 比較的よく見かけるものには口唇口蓋裂があるが、顔面裂や顔面軟部組織の腫瘍・部分的な欠損・変形、色素異常等、細かく分ければきりがないだろう。 このイギリスの2人の外科医は「Facing the World」つまり、世界に顔を向けて生きよう、という名前のついたプロジェクトを主宰している。 英語のFaceという意味は、顔という限定された意味もあるが、そこから転じて「(問題などに)直面する・直視する」という意味もあり、つまりこのプロジェクト名自体がダブルミーニングである。 プロジェクトを主宰する2人の外科医は時間を見つけては世界の発展途上国を旅している。 医学的レベルが低い上に、自己資金というものがおよそない頭蓋を含む顔面異常の人たちを探し、その異常・奇形の詳細を医学的に調べてロンドンに呼び寄せ、その手術が本当に患者にとってのQuality of Lifeの向上に寄与するなら、という目的で手術を施しているのだ。 先週のいつかの段階でこの番組の予告編を目の端に捉えた私は、その中で一瞬映されたインドネシアのAriantoという青年の顔の映像に衝撃を受け、この番組が放送されるのを待っていた。 昨日、放送された1時間半のドキュメンタリーでつぶさに取材されていたケースは4例。 そのうちの1人がAriantoという、番組の予告編で見た青年。 彼は遺伝性の神経線維腫症を父親から受け継いでしまい、そのための腫瘍が顔に集中して発症してしまっている。(父親は全身のあちこちに小さな腫瘍がたくさんあるのに対し、息子であるAriantoは顔の一箇所の腫瘍だけが尋常でないサイズになってしまったのだ) 顔面の片側だけが、顔の内部に巣食う腫瘍のために、もう片方の顔面の3倍ほどの面積と体積になって垂れ下がっている。 この障害のために彼はすでに右目の視力と聴覚を失い、腫瘍による顔の垂れ下がる重みから来る激しい頭痛に見舞われている。 決して生活が楽ではない家庭に生まれた彼は孤児院暮らしで17歳になったが、ここには他にも彼と同じような奇形に悩まされている子供たちが生活している。 Ariantoは2004年に1回目の手術を受け、その際に1kgもの腫瘍をすでに摘出した。 今回はその次の段階としての顔の再形成・・・義眼や義歯のはめ込みを含め、できる限り本来の顔に近いバランスに形成する手術のためにインドネシアから再度ロンドンを訪れた。 次の1人は12歳のNeyというカンボジアの少年。 彼は実はAriantoほど顔面が肥大化してはいないが、原因が脳ヘルニアにあるため、症状としてはこちらのほうが対策を急がれる重症。 Neyは近所や学校でいじめに遭い続け、道行く人々から文字通り石持て投げられる憂き目に遭い、とうとう学校にも行けなくなった。 そのNeyがロンドンに連れてこられ、この2人の外科医から、最初のアセスメントを受けるが、年齢の割りに体の成長が遅いことが心配される。 やはり手術自体のリスクがかなり高いことから、成長が遅滞しているホルモン異常等のほかの疾病があった場合は、Neyはロンドンにまで来ながらも手術をせずにカンボジアに帰国させられる可能性もある。 彼の手術シーンはすごかった。 顔面をぺろっと剥がし切り、その上、頭蓋を切り取り、ネジも填め込んでいるシーンも手元のカメラではっきり映されていた。 彼は手術後、一瞬、漿液性髄膜炎を起こして発熱する場面もあり、緊張しながら見たが、その後なんとか軽快してホッとした。 この「Facing the World」のチャリティは、一般市民の基金によってまかなわれているため、世界中で同じような奇形に悩む人々や、それらの人々の治療に当たっている医師から「この患者を一度診てほしい」という依頼が引きも切らずにやってくる。 その中で、たった2歳のAngeloというフィリピン人の子供の例があった。 このAngeloの奇形は、もともとは最初のAriantoと同じ神経線維腫症が原因ではあるが、神経管が欠損していて脳(いわゆる脳みそ)が頭蓋から抜け落ちている状態であり、今後は徐々に視力も減少していく。 つまり、両親にとっては非常に残酷な結果だが、このAngeloの手術が成功して、顔面だけが改善されたとしても、そのことがAngeloの生活上、今後の将来に明るい展望をもたらす見込みがないという医学的判断に基づき、母親の必死の願いにも関わらず、この子の手術は断られてしまった。 この1人分の枠は、本来の意味で生きる希望と今後の生活の向上が見込める他の誰かに回されるという結果になったのだ。 世界各地から送られてくる候補のケースを精査するのは、この2人の外科医だけではない。 このプロジェクトに賛同する麻酔医・歯科医・形成外科医・脳外科医など、一度に医師が20人くらいと看護師が10人くらい。 すべてボランティアベースでこれらの精査と手術に関わって、たった1人を救う。 番組の最後に、この2人の外科医は、3年前に手術したEyerusalemという女の子が住むエチオピアを訪ねて行く。 手術以来、実に3年ぶりの再会。 Eyerusalemはまれに見る血管奇形のため、生まれた時には無視できるくらい小さかった顔のコブ状の障害が顔の左目の下から左の鼻全体を圧迫し、通常の呼吸にすら危険な影響を及ぼすようになっていたのを、このプロジェクトの一環で手術が行われたのだ。 今、テレビに映って恥ずかしそうに笑うEyerusalemはどちらかというととても可愛い女の子。 かつての写真との比較には驚くべきものがある。 そしてこの「Facing the World」のプロジェクトは昨日以来、何分かごとに寄付額がどんどん増えていっている。 これまでにすでに14人の患者がこのプロジェクトの寄付金で手術を受けており、現在15人目の候補の患者の選定が進んでいる最中だそうだ。 実は私もこのドキュメンタリーに感動して、決して大きな額ではないが今ちょうど寄付したところ。 最後にこの番組のページを紹介しておこう。 イギリスの番組なので全部英語ですが、まずページの最初に、このプロジェクトの中心の2人の外科医の先生の写真(不謹慎だが、2人ともかっこいい!やっていることを見るともっとかっこいいと思うのは、善行の魂が顔にそのまま表れているからでもあると思う) そして文章がだーっと書かれ、いちばん下に行くと、今回の番組で紹介された患者たちのもともとの写真が出ています。 一瞬、自分の目を疑うような写真ですが、決して興味本位で紹介しているわけではないので、ぜひ見て頂きたい。 写真の順番は左からArianto、Angelo、Ney、そして下にEyerusalem それらの個々の写真をクリックすると、手術前の写真、彼らがどのような病気で苦しんでいたのかの説明と、手術後の写真が掲載されています。 ここで紹介されている人たちは手術前でも、その奇形ゆえに虐げられても人から石を投げつけられても、自殺する道は選ばなかった人たちであることも強調したい。 手術を受けた後でも、まだ奇形が完全に消えたわけではないのに、前よりも何倍も明るくなって、これからの自分の人生に未来を見出していこうとしている人たちだ。 こういう番組を見ていると、日本で多少、背が低いだのうざいだの言われて、いじめだなんだと言ってすぐ死にたがる若者にあえて鞭打ちたくなる。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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