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贅沢な昼寝

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Oct 19, 2008
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カテゴリ:旅の記憶
May,3,2001

先頭を歩くカイルとの距離が開いて来た。月明かりと懐中電灯の光だけで、溶岩のゴツゴツした塊の上を歩くのは、予想以上に骨が折れる。用心しながら足をのせた塊がぐらつき、何度も足をひねりそうになった。

カイルはハワイ生まれの日系三世で、二年前に脱サラして以前からの夢であったガイド業を始めた。山道を歩きながら様々な植物や鳥についてレクチャーしてくれた。ハワイ人の伝統的な習慣も彼から教わった。アシスタントのジェームズはこの旅を影から支えてくれている。早朝四時にテントから寝ぼけた顔で出ると、ジェームズの作った朝食がテーブルに並んでいる。
ロレッタはカイルとジェームズの友達だ。ニューヨークからきた彼女は明るく話し好きで、いつもジェームズと冗談を言い合っている。初めて空港で会った時、白い小さな花を私に手渡してくれた。

ハワイ島に着いてから歩き通しだった。ワイピオ渓谷から更に奥のキャンプ場まで片道14キロ歩き、今日は午前中にキラウエア・イキ火口を横断して周囲の遊歩道を歩いた。火山博物館、プウロア壁画、サーストン溶岩トンネルと、移動に車を利用したが、もう10キロは歩いているだろう。

これから行こうとしているところは私が最も見たい場所だ。今も流れている溶岩が海に流れ込む様をこの目で見ようというのだ。溶岩で道が寸断された行き止まり地点まで車で行き、あとは自分の足で歩いて行く他方法はない。日が沈む前に歩きはじめた。


もうどれくらい歩いただろうか。出発地点では空はまだ明るかったが、今は日が沈んでだいぶ経っている。カイルに追いつかないと道を見失ってしまう。頑丈そうに見える岩のすぐ下が大きな落とし穴ということもあり危険なのだ。
左膝が悲鳴を上げはじめている。時計を見ようにも、歩きながらではバランスを崩してしまう。立ち止まって確かめると既に三時間が経過していた。いったいどれだけ歩いたら見えるのか。

周囲は見渡す限り黒い溶岩で覆われている。海岸線の岩場のように凸凹としていて、一歩一歩確かめながらでないと足場を失う。溶岩は固まる時の速度でその形状が変わるという。表面が平らな直径1mくらいの岩や、球状の表面に細かな突起のある岩、表面が渦巻き状に固まり、見事な造形美を見せているものもある。表面がキラキラと光っているのはガラス質が混じっているからだという。
頑丈なトレッキングシューズの表面は細かな傷だらけだ。茶色の表皮が毛羽立ち白くなっている。ここを三往復もすると、登山靴の底がすり減り取り替えなければならないとカイルが話していた。

出発地点でレンジャーから注意を受けた。
「水は十分に持ったか。
靴はしっかりとしたトレッキング用か。」
裸足にサンダル履きだったジェームズが慌てて車に靴下を取りに行った。彼はサンダルしかなかった。
「海に近づくな。ガスで具合が悪くなる人が多い。
特に日本人とニュージャージー出身者がレスキューされている。」
冗談まじりにいうレンジャーにロレッタが何か冗談を飛ばしたのだが、私には聞き取れなかった。とにかく山の方へ歩き、上から見る事。と、念を押された。


しかし、カイルの進む方角は一向に山へは向かっていない。私の強い希望を叶えるべく、細心の注意を払って海へと向かっているようだ。風向きで時々異臭がする。喉がひりつく刺激臭だ。白い煙が見える。これが匂いの元なのか。かなり近くまで来ている。

暗闇の中に赤い帯が見えて来た。火口から地下を流れている溶岩流の一部が見えているのだ。まるで赤い大蛇が海を目指しているかのようだ。石の隙間から水蒸気が上がっている。手を近づけると熱い。
前のめりになりながら足早になった。前を行くカイルの歩調も早くなっている。気持ちが高ぶって来た。溶岩の亀裂を渡り、実の丈ほどの岩に立ったその時、見えた。
思わず叫んでいた。






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Last updated  Nov 11, 2008 09:20:03 PM
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