笑う門に福来る

そろそろ佳境を迎えるNHK大河ドラマ「天地人」。

これがまた実に変わったドラマだ。

主演を妻夫木聡君が演じるまではまぁ良かろう。

そこそこの人気もキャリアもあって、
キャスティングとしての不自然さはない。

しかし、彼が演じるところの直江兼継という人物。
明らかにマイナーである。
学校で学ぶ一般常識レベルでは、まず聞かない名前だ。

というのも、この人は、上杉景勝という越後の
殿様の家臣だった人だ。

そこがまた実にマイナーで、上杉謙信を聞いた事があっても、
その跡取りである上杉景勝を知る者が、どれだけいようか。

それもそのはずで、上杉謙信は武田信玄や織田信長と共に
戦国時代を大いに湧かせたが、
景勝の代になると、
時の趨勢は豊臣秀吉や、徳川家康に決まっており、
殆ど歴史の表舞台に上がる機会はなかった。

そんな人物のたかだか家臣の物語だ。
それこそ今で言えば田舎デパートの取締役の物語に等しい。

そんな物語が面白うはずはない。

と、普通思う。

実際、昨年度の「篤姫」が面白かっただけに、
最初はなかなか付いていくのがつらかった。
とりあえず毎週ビデオに録画するものの、
見ないままどんどんたまり、
一番多い時期には、見ないままのストックが11話分も
溜まっていた時期すらあった。

確かに、最初の頃はあまり面白くなかった。
妻夫木聡はお調子者だけど、弱虫で、
泣いてばかりいる。

エピソードも越後の話が多くて、
正直どうでも良くて…

でも、阿部寛演じる上杉謙信が亡くなり、
その後の相続争いあたりから、だんだん面白くなってきて、

兼継が直江の名前を継いだあたりから、
だんだん頼もしくなってきた。
（最近は髭も生やし、別人のような貫禄がある）

そしていつの間にか、
このドラマは今までにない画期的な作品だと
思うようにまでなって来た。

そしてその秘密は、主人公のマイナーさにあった。

正直なところ、戦国時代から江戸幕府までの流れに関しては、
ある程度わかっている気であった。

群雄割拠の戦国武将の中から、織田信長が一歩抜き出し、
武田信玄や上杉謙信は、寿命が続かず、
豊臣秀吉が天下を取り、
色々あって最後は徳川家康が幕府を開く。

その過程では桶狭間の戦い、川中島の合戦、長篠の戦、
そして天下分け目の関が原。
豊臣家滅亡の大阪夏・冬の陣。

なんだかんだいって、それが流れだ。
そして従来のドラマは、それらの主役に
スポットを当ててきた。

そのときの興味は、その時々の主役が
「どのように演じるのか」という点に向けられ、
お決まりのエピソードも、
「どのように描かれるのか」という興味だった。

しかし、直江兼継という実にマイナーなキャラを
主役にすることによって着眼点が全く変わってきた。

マイナーな人物が主人公になることにより、
従来脇役とされ、それほど深く描かれなかった人物や出来事に
スポットが当てられ、
「知っていたつもり」であるはずの出来事が、
全く違って見えるようになったのだ。

結果見えてきたのは、
その時代を生きてきたそれぞれの人物の
リアルな姿だ。

私が一番心を惹かれたのは、小栗旬演じる石田三成だった。
彼に関して私が知っていたことといえば、
「関が原の合戦における敗軍（西軍）の将」というだけだったけれど、
このドラマを見て、実に興味深い人物だということが初めてわかった。

家柄はあまり高くなかったものの、豊臣秀吉の寵愛を受け、
異例の出世を遂げた男。
正義感に篤く、大変有能でありながら、
酒が呑めず、周りの空気が読めず、気の毒なほど人望がなかった男。

最後の行はそのまま私ではないか。

そんなこんなでもうすぐ終わってしまうこのドラマ。
最後までじっくり味わおうと思う。