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カテゴリ:散策・紀行など
猪ノ鼻トンネルはかなり長かった。 外が見えない事に我慢出来なくなって来た頃、ようやくというかいきなりトンネルを抜けた。 そこはトンネルに入る前と違って山の中だった。 ずっと重なり合って聳える山々は火山によって形成された山ではなく、地形運動の褶曲が作り出した大自然の妙である。 馴染みのある群馬県などの火山による山の形と違い、山頂あたりの角度は滑らかで優しい。 しかし谷は驚く程深く険しく、鋭い角度で谷底からスクッと切り立つような厳しさである。 関東ではどこにでも蔓延ってしまって問題になっているクズが被ってしまっているような場所がどこにも見当たらないのが不思議に思えた。 山々には杉や檜や竹が林を成し、多く夏の光に豊かな緑を映えさせていた。 平らな土地の少ない山地でも人々は稲を植え、蕎麦や野菜を栽培し、長い年月人が住み着いてからずっと勤勉に土に親しみ自然を畏敬し大切にしてきたのだろう。 だからこそ生きてこられたのだと思えるくらい登る道の勾配はきつく、谷の水辺に下りる径は険しく厳しい場所なのだ。 線路は四国三郎と呼ばれる吉野川沿いを縫うように、トンネルをくぐったり渓谷を眺めたりしながら続いている。 南風号の窓は新幹線よりもずっと広いので高い山の上から深い谷底まで見渡す事が可能だったのがとても嬉しかった。 阿波池田駅を過ぎると川は有名な大歩危小歩危の渓谷になり、列車は存分にその景色を堪能させてくれながら猛スピードで走り抜ける。 遠心力を利用してのカーブの曲がり方は、外が渓谷の断崖だったりしてスリル満点だった。 この辺りが私の興奮の極地第二回目だったろう。 吉野川の水は碧くて底が深い事を連想させる。 次の日に解った事だけど水深4‐5mもあるそうだ。 しかし川辺にゴミは全く見当たらず水は何所までも澄み、本当に清冽な流れという事を実感した。 そういえば四国に入ってからゴミが落ちていたり積み上げたりしているのを見ていなかったと気がつく。 住む人々の日頃の心がけがそうさせるのか本当に田畑も山も川もゴミで視野を汚される事が無い景色とは実に素晴しいと思う。 大歩危駅にも停車したのだけど、この辺りの写真は次の日にこの辺りを観光バスで周る予定があった為撮らなかった。 唯一この日ここで撮ったのがやなせたかし氏が高知県出身というのに因んで走っているアンパンマン列車の写真だ。 夫はアンパンマンの絵が入っていない事をずっと残念がっていた。 美しい岩肌と清流の渓谷を少し離れると、列車はトンネルからトンネルへと続く所を抜けて行く。 かなりの勾配を登ったり降りたりが続くけれどディーゼルエンジンはへこたれずに頑張った。 エンジンオイルの臭いを車内にまで撒き散らしながらまるで鼻歌でも歌うようにゴトゴト振動をさせてずっと元気だった。 少しずつ陽は傾き西日に力が無くなりかけて来た頃、列車は再び長い長いトンネルへと突入した。 そしてそこを出た時、辺りは真平らの広い田園地帯になっているのに気がついた。 すでに高知県、土佐山田辺りになっていた。 そこからはずっと平坦な田んぼの中をひた走る。 再び見つけた御殿造り風の入母屋作り瓦屋根。 しかしここの破風は白い漆喰ではないし、青い飾り板もついていない。 高知県では殆どの家の破風部分が木の格子状に変わっているのが面白かった。 そしてこの頃から空は急速に暗くなりやがてポツリポツリと雨粒が窓に斜線を描くようになって来た。 実は私の長男はとんでもない雨男である。 小さい頃から何か大きな行事や用事があると必ず大雨になったりする。 今回もあらかじめ天気予報を毎日のように調べては気にしていたのだけど、やっぱりとうとう降らせたなっ!!!! 午後1時には羽田からの飛行機で高知竜馬空港に着いて、須崎市に入っている長男に「この雨男めっ!」とメールを出してやった。 列車が高知市に近付くにつれて雨足はどんどん激しくなり大粒の豪雨のようになってしまった。 もはや景色も雨のせいで白い紗の布を掛けてしまったようで見えるどころではなくなっていた。 やれやれこれじゃきっと長男は結婚式の日にも雨を降らせるだろうなと夫と苦笑いしながら話していた。 長男からの返事は開き直ったものだった。 そして須崎の駅には婚約者のお母さんが運転する車で三人で迎えに出てくれると書いてあり、それまでのんびりと景色に興奮してハイテンションになっていた私はドキンと鼓動が音をたてたのだった。 でもこのハイテンションはもう今更止まらない(爆) 元気に興奮して嬉しさ一杯のこのままの状態でご挨拶してしまおう、と割り切ると気分も落ち着き(?)再び雨を透かして何とか辺りに興味の対象となる物件が無いか目を凝らし始めたのだった。 -続く- お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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