ある女の話:アヤカ25(再)
今日の日記(「コールセンターの恋人(最終回)」「オルトロスの犬」の感想と息子の誕生日☆) 「ある女の話:アヤカ25」 私はずっとタカダくんの目を見ていた。タカダくんもずっと私の目を見ていた。チリンリン冷えた部屋に風鈴の音が冷たく聞こえた。「ずっといっしょにいたら、冷めちゃうかもしれないよ?」自分の声が、自分の声じゃないように聞こえた。「いつか、恋ってやつが終わるものだから…?」私は、「そうだよ」って言いそうになる。でも、タカダくんの言葉はそれを知ってる。私がそれを怖がってるのも知ってる。多分…タカダくんがいきなり立ち上がって冷蔵庫に歩いていった。「飲む?麦茶?」私は、うん。ってうなずく。二人でゴクゴク麦茶を飲んだ。チリンチリン体が冷えた気がした。タカダくんが口を開く。「どうなるか見てみる?」「ん?」「ずっといっしょにいたら、いいとこも悪いとこも見えちゃうと思うよ。」「うん。」「他に目が行くかもしれないけど、でも戻るのはアヤちゃんのとこがいい。」「浮気前提なの?男はそういう動物だから?」私は、あははって笑う。「女だってわからないよ。俺より好きな人できるかもしれない。女は浮気じゃなくて本気になるんじゃない?」どうだろう?私は麦茶を飲む。「俺と結婚しない?」一瞬タカダくんが何を言ったのかわからなかった。わからなくて、タカダくんの顔を見る。タカダくんも私の顔を見てる。「早くない?」「早いね。」タカダくんも麦茶をゴクリと飲む。「でもさ、戻りたいって思った時に、アヤちゃんが他の男のものだと困るんだよね。ずっと俺の側にいてよ。」「それはまたずいぶん自己中心的な…」軽く笑う。でもタカダくんが本気で言ってることはわかる。今だけの感情?でも嬉しいんだけど。タカダくんがクククと笑う。「世界は俺を中心に回ってるから。」「ホントにそう思ってそう~。」「でもアヤちゃんは俺よりもっと好きな人出てくると思うよ。だから結婚なんかで縛っちゃいけないよね。」「そんな淋しいこと言わないで~。」私はおどけてタカダくんにしがみつく。タカダくんが私の髪を撫でる。「タカダくんのがそうなるかもしれないでしょ?」「だから俺はアヤちゃんに戻るんだってば。」「鮭じゃあるまいし。どうして、他に目なんか行かないって言わないのよ。」「そんな、いかにも嘘っぽいこと言いませ~ん。」「一途じゃないなぁ。ヤなやつ。」タカダくんはアハハって笑った。「だってそんな気がするんだよ。他に目が行くことがあっても、アヤちゃんの代わりはどこにもいないって。俺ホントにそう思うんだよね。」「そんなこと言うヤツに、バクチみたいに自分の人生賭けていいのか悩んじゃうよ。」「いつまでも悩んでていいよ~。」それは今すぐ答えを出さなくていいってことだろうか?正直、結婚願望なんか私には無い。でも、ドキドキする。タカダくんは何だかフワフワしてて、そんなこと言いながらもどっか言っちゃいそうな気がして。でも、その言葉を信じてみたいような気もして。私の中でもタカダくんの代えがいると思えないんだよ。それに他に目が行くとも思えない。でも、タカダくんは他に目が行くかもしれないんだ?それは有り得る現実だと思う。私にもあるかもしれないの?不安になることばっかり言う。なのに安心させるようなことも言う。抱き締めるタカダくんの体が、会えない間にどっかに行っちゃいそうな気がして怖い。私の髪を撫でる指が、どっかに行っちゃいそうで怖い。タカダくんの手が頬を撫でて、もう片方の手が私を抱き寄せてキスをする。明日別れたら、次会えるのは冬。このぬくもりを忘れないように、タカダくんの体を抱き締める。次に会う時まで気持ちは変わらない?ホントに?心は不安定なものなんだ。わかってるから怖い。側にいたら動かない?心は動かない?側にずっといて、見てみる?隣で眠るタカダくんの顔を眺める。電車を待つホームは、ゴールデンウィークの時より混んでなかった。故郷で待ってれば、いつかタカダくんは帰ってくるかもしれない。でも待ってられる?別れるのが淋しい。もっといっしょにいたい。ただそれだけ。そんな理由で結婚を決めていいんだろうか?次に会う時まで、同じ気持ちでいてくれる?タカダくんが心配そうに顔を覗きこむ。「どしたの?」「え?何が?」「淋しそうな顔してた。」「え?そう?」私は顔に手を当てた。そんな顔してたんだ…。それからガンバって笑ってみる。「ねえ、タカダくん」「ん?」「大好き。」タカダくんが笑顔になって、私の頬に手を当てる。何も言えなくなって、タカダくんの手の上に自分の手を重ねて、お願いだから、この気持ちのままでいてね。って、思う。手を離すと電車の出発する音がした。電車に乗って、笑顔で手を振る。いつもみたいに。ずっとコレを続ける?それともいつかお互い近くに好きな人をみつけて、いい思い出だったな…って思うようになるんだろうか。そんな未来は思い浮かばない。景色がどんどん流れていく。どうしよう。早くタカダくんに会いたい。あの人、また私に変な魔法をかけた。あの部屋に戻りたくなる呪文。 このままずっとここにいてよ 続きはまた明日前の話を読む目次