ある女の話:アヤカ60(再)
今日の日記( 「猿ロック(最終回)」「マイガール」感想と超ぶるーーーー) 「ある女の話:アヤカ60」 何だかボンヤリしてしまって、支度がはかどらない。二日酔いのせいか食欲が無くて、ココアを作って飲んだ。ココアが胃に重い。今朝はコレだけでいいか…。一人だとどうにもダラけてしまう。テレビを観るけど、ニュースが頭に入って来ない。画像がただ流れて行く。あ~、コレじゃマズいな。顔を洗って、化粧水と乳液をつけた。本当に迎えに来るんだろうか?来たら行く?どうする?頭は二日酔いも手伝って、そればかりをグルグル考える。だけど、体が動こうとしない。現実なのは、確かなんだ。迎えに来るのか、連絡が来るのか、わからないだけ。一応、ジーパンとカットソー系のロンTを着た。昨日ほどオシャレすべきか迷う。でも、連絡が来なかったらバカみたいだし。もうお昼なんだな。洗濯を済ませて、食器を洗っていたら電話が鳴った。ドキッとする。「はい。」「俺です。」思っていた通り赤木くんだった。心臓がドキドキし始めた。「うん…。」「来ますか?」胸がキュンと鳴った。彼の声を聞くと気持ちが引き戻される。会いたい。やっぱり会いたい。どうしよう…ここで断ったら、もう次が無いのはわかってる。断るべきなんだってことは、わかってる。「今どこ?」「タカダさんちの脇の道。」ホントに来てくれたんだ…。家を出れば、すぐそこに赤木くんがいる。やっぱり自分の気持ちから逃げたく無いと思った。「もう少し先、駅と反対方向にコンビニがあるの。わかる?」「うん。」「そこで待っててもらっていい?あと30分かかってもいい?」「うん。」電話を切ってから、急いで化粧を済ませた。アクセサリーをつけて、鏡を見て、バッグを持って、上着を着た。決めた。行く。今日一日。今日一日だけ。何もかも忘れて赤木くんといっしょにいたい。逃げたら後悔する。絶対後悔する。ううん、そうじゃない。行ったって後悔する。自分がすることが悪いことだってわかってる。どっちにしたって後悔する。もう気持ちを止められない。会いたい。赤木くんに会いたい。走ってコンビニに着くと、店内に赤木くんがいなかった。帰っちゃったのかもしれない…。溜息をついて、ガムを買って、店を出る。携帯に電話しようか迷ってると、駐車場の車の中に赤木くんがいるのが見えた。自分の中で、ジンワリ嬉しい気持ちとホッとした気持ちが広がった。こっちに気付かないので、窓を叩いた。ふーん、ずいぶん余裕じゃない?赤木くんが気付いて窓を開ける。「車だったんだね。中入っていい?」赤木くんが頷いたので、助手席に乗った。シートベルトをすると、何だか緊張した。今日の赤木くんもTシャツにジーンズだ。ラフな格好が似合ってる。まだ若いんだな…って、すごく思った。いつもと違う彼を見て、何だか知らない男の人の車に乗っちゃったみたいで、ドキドキする。赤木くんが無言で、車を出した。何を話していいんだか、胸が詰まって言葉が浮かばない。赤木くんも何も話そうとしないし。緊張した空気の中、すごくリズムがいい曲がかかっていた。こういうノリ好き。伸びのある声。どこかで聴いたことがあるような…CMでかかってた?誰の曲だろう?「これ誰の曲?」赤木くんが我に返った感じでアタフタしだした。「ごめん、他のにして!わかる?」慌てた様子で手を動かして、ボタンを押すと、テープが出てきて曲が止まってラジオに変わった。「え?何?何?気になる~!いいじゃん、聴かせてよ!」赤木くんが運転してるのをいいことに、私はテープを押し込んだ。また曲がかかる。赤木くんを見ると、真っ赤になってた。あ!「これ、誰?ねえ、もしかして…」「俺…。聴いたことなかったから聴いてた。ライブの時のテープ。MDに落とさなきゃなって思ってたんだけど、車の中入れてて忘れてたんだ。もういいだろ?」やっぱり!スゴイ。上手い。そっか、それで夢中で聴いてたのね。もっと聴きたいのに、赤木くんはサッとEJECTボタンを押してテープを出してしまう。私はその様子が可笑しくて、もっと聴きたいので、またテープを入れる。「ううん。上手だよ。オリジナルなの?聴いてていい?」「事故るから。やめよーよ。オレ、マジ死ぬ…。」面白い人~。ホントに照れてるのが何だかカワイイ。ライブやってるんでしょ?人に聴かせるんだったら、こんなに照れること無いのに。あ、でも知り合いに聴かせるの慣れないって、恥ずかしいってメールで言ってたっけ。「ふーん。残念。わかった。じゃあ、適当に何か…ね。ねえ、でもこれ聴きたいなぁ。借りてもいい?」「行くまでに返してくれる?」「うん。」「じゃあ、持ってっていいよ。」「ありがと~。」ダメって言われても借りるつもりだったけど。私は赤木くんの気が変わらないうちに、テープを出してバッグにしまった。赤木くんが力が抜けたように息を吐いたのがわかった。こんなに照れるくせに、かけてたの忘れる位、緊張してたってこと?彼も私と同じ?そう思うと、なんだか私も気が抜けた。「音楽の好みって、その人が出るよね~。」私はダッシュボードに置いてあった、赤木くんのテープを見てみた。テープなんて懐かしい。車も新しいものじゃないみたいだし、古い物を大切にする人なのかな…私の心を見透かしたのか、赤木くんが言う。「CDも聴けるけど?」「う~ん、最近あまり音楽聴かないからな…。」私は滅多に見れることが無い赤木くんの字を見ながら、コレは昔好きで聴いてたぞ、って思ったテープを入れた。「後で、赤木くんの好きな曲入れて~。」お、コレは懐かしい。自分が好きな曲を赤木くんも聴いてたなんて、ちょっと嬉しかった。「今日は今日で雰囲気が違うんだね。」赤木くんがポツリと言う。あ、こんな感じ嫌いだったかな。ラフ過ぎた?「よく眠れなくて…。ウトウトしたと思って、起きたら昼前だったの。慌てて支度しちゃったから。ごめんね、変?」ホントは起きてたけど…。赤木くんのこと考えてて、ボーっとしてたら、時間が経ってただけなんだけど。「ううん、そういうのも似合ってる。そういうカッコ、好きだよ。」赤木くんが思ってもなかったことを言い出したので、嬉しくなった。もう、上手だなぁ~。ふーん、こんな格好も好きなんだ?ふーん。そっかぁ~。好き?好きねぇ~。「え?何?もう一回言って?」「だから、そういう格好も好きだって…」ふふ。やったぁ~。「何が面白いの~?」「ううん、赤木くんに”好きだよ”って言わせたかったの。」赤木くんが耳まで真っ赤になったのがわかった。昔マノくんが私に使った手だけど、その気持ちがわかった。好きな人に好きって言わせると気分いい。「ほんっとうに嫌なヤツだね、タカダさんは。」「そうだよ。嫌いになった?」「いや、好きだけど…。」また言った~!きゃー、嬉しい!つい顔が笑ってしまう。くっくっく。信号が赤になった。赤木くんがいきなり手を握ってきた。「こうされるのは好き?」目をジッと見てくる。「え…」胸がキュンと鳴った。ヤダヤダ、反則!赤木くんてどうしてこう反則ワザ使うの?自分も顔が赤くなるのがわかって、恥ずかしくて目を背けた。「…うん。」私の方は好きって言わなかったけど、信号が青になっても、赤木くんは手を握ったままだった。ダメ。こういうの弱い。手を握られてるだけでドキドキしてきた。頭の中が真っ白になってしまう。「どこ行く?飯食った?」言われてみれば、ココアしか飲んでない。あれ?そう言えば、赤木くん、今日ずっとタメ語じゃない?だからかな、今日は気安い感じ。私服ってこともあるかもしれないけど。すごく身近に感じる。「ううん、まだ。赤木くんは?」「オレもまだ…。ハラ減らなくて…。ファミレスでも入る?」「うん、私もなんだけど、そうしようか。」何だかすっかり赤木くんのペースだな。今日は何だか年上って言うか、同じ歳って言うか、すっかり主導権握られてる感じ。これが普段の赤木くんなんだ?私は可笑しくなってつい笑ってしまった。「今度は何がおかしいの~?」「だって、さっきから変だな~って思ってたら、赤木くん、いきなりタメ語なんだもの。」「じゃあ、いつも通りに直しましょうか?」「もういいよ~。」二人で笑った。手のぬくもりが伝わってくる。やっぱり好き。今日会えて良かったと思った。続きはまた明日前の話を読む目次