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カテゴリ:現代詩ー愛
ぼくの生体が
突然変異を 来たしたんだ 馴染みのクリーニング屋のご主人は ぼくが入っていっても 一度もぼくの目を見ることもなく カウンターを見たまま レジを見たまま そのまま作業が 淡々と 機械の様に 処理されて ぼくが話しかけても 笑いもせず なにも交わされず そうして あなたとは 口なんか もう 利きたくないんだ と言わんばかり ぼくが いつ このご主人に悪いこと したんだろう 思いつかない ぼくの生体が 突然変異を 来たしたんだ なんだか イライラする 鏡を見た ぼくの目には 冷たい氷が張っている ぼくの唇は 声を出すと 奇妙に歪んで 蔑んでいる ぼくが声を発すると 可聴範囲を超えた 鋭い音が するみたいだ 会う人 会う人 ぼくを避けようとするんだ あるいは 会う人 会う人 ぼくを憎しみの対象にするんだ ぼくの生体が 突然変異を 来たしたんだ この世に 存在する理由が ぼくには 無くなってしまったんだろうか 人々が発する ことばを ぼくは受けつけない まるでアレルギー症状のように 受けつけないんだ 感動することがなくなった 涙が出ない 驚きがない うれしさもない そして 共感がない ただイライラして やり過ごす 息が臭いんだ そう言い訳して 人々に会うことをやめ 話すことをやめ 見ることをやめた ぼくの生体が 突然変異を 来たしたんだ 全身に発疹ができ 痒くなり 熱く火照りだしたんだ イライラする 風景がぼくに 敵意を懐いている 冷たい霙が ぼくの頬を突き刺す 冷たい雨が ぼくの足元を グショグショに濡らす 悪意を懐いて 子供たちがぼくに石を投げつける レストランで食事をしようと 席についても ウエイトレスは 永久にやって来ない 電車に乗ろうとすれば もう最終は行ってしまった タクシーに 乗車拒否され ふと財布の中を覗いたら お札がもう1枚しか残っていない ぼくの生体が 突然変異を 来たしたんだ そう思うことにしょう ぼくには 愛された記憶がある その記憶が ぼくを留めさせるんだ 桜の花の いのちのおもみ 見られることのない 山里の神社の境内に 数百年来枝を広げてきた 桜の木 ぼくにはじめて出合って あなたは満開の花の下に ぼくを迎え入れ 愛 してくれた また 馴染みのあのお店の ご主人は ぼくを見ると うれしそうに話しかけてくれた あるとき 道に迷っていたら 見知らぬあなたに 声をかけられた 決定的な場面で あなたはぼくをフォローしてくれた ぼくは 愛されていたんだ 愛されて 愛されて そうして ぼくは 成長してきたんだ ぼくの生体が 突然変異を 来たしたんだ そう思うことにしょう 世の中 きっと いいことだらけなんだ きっと いつかまた きっと ぼくは愛されるんだ そう思うことにしよう お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/07/16 02:17:42 PM
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