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2016.04.10
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カテゴリ:映画(さ)

今回の一言
映画としても凄い!!
音楽作品としても凄い!!

2013 日本
ミステリー

監督
利重剛
Cast
橋本愛
清塚信也
ミッキー・カーチス
柳憂怜
相築あきこ
相楽樹

ストーリー
大富豪の香月玄太郎は、長男の徹也とその嫁の悦子、次男の研三、そして徹也と悦子の娘・遥と大豪邸に幸せに暮らしていた。
ある日、長女の玲子が夫と娘ルシアを連れて帰省する。
玲子とその夫は貧しい国を飛び回り人々を助ける仕事をしており、今回向かう国にルシアを連れて行くのは危険と判断して、香月家にルシアを預けに来たのだった。
遥とルシアはすぐに仲良くなり、玲子から離れて暮らす事を告げられた時も泣き出すルシアの側には遥が居た。
それからしばらくして玲子とその夫は発展途上国の治安の悪さの中、消息を絶ち、ルシアはそのまま香月家で暮らす事になった。
それから数年後、遥とルシアは高校生となったが、相変わらず2人はいつも一緒だった。
ある日の夜。
遥はルシアが暮らす「離れ」でルシアと一緒に寝るつもりで部屋へ向かう。
そこで遥はルシアから、子供の頃から2人が一生懸命続けて来たピアノを諦め、看護学校に通うつもりである事を聞かされる。
そして遥にはピアニストになって、ドビュッシーの「月の光」を私の為に演奏してほしいと伝える。
深い約束をした2人だったが、さらに夜も更けた頃...。
不思議な音に目が覚めた遥は愕然とした。
家がみるみると炎に包まれていたのだった...。





感想
(ネタバレしちゃダメなタイプの作品ですけど、がっつりネタバレします)
風評はあまり高くない作品ですが、私はなかなかの傑作だと思っています!!
低い評価をしてる人達は「被害者意識が強い」とか言ってる人が多いんですよね。
まぁ原作は読んでないのでよくわかりませんが、でも考えてみてください。

ある朝目覚めたら、なぜか自分の事を別人だとみんなが思ってて、鏡を見てみたらその別人の顔になっていて、しかも本当の自分の事なんて誰も気にかけていないと。
ある日突然自分の存在が消されたらどうでしょうか?
違うと言いたいのに声も出ない。
体も動かない。

私なら自分の存在意義を考えそうです。

もしもこのまま別人として振る舞う事がみなの幸せになるのなら、誰も本当の自分の存在を意識していなかったら。
自分自身として生きる事は許されていないんじゃないか?と思いそうです。
だからと言って死にたくはない。
こんな孤独はないんじゃないでしょうか?
生き地獄とでもいいましょうか?
葛藤の中で「違う」とそれでも声を大にして言うのでしょうか?

人は誰でも孤独を嫌います。
だから例えばいじめを止められなかったり、嫌いな人の前でもいい顔したりするんじゃないでしょうか?
1人になるのが怖いから。
クラスの子たちにシカトされ続けたた学生がイジメを苦に自殺なんて最もたるものですね。
もちろん嫌いな人に嫌いな態度を出さない方が物事が円滑に進むとは思いますがね。
そーゆーのを取っ払っても、やっぱり孤独になるのが怖い部分はあると思うんです。

それを「被害者意識が強い」なんてよく言えるな~と思います。

そんな彼女の葛藤がよく表現されていたと思いますし、先生との微妙な距離もとても良かったと思います。

また音楽作品としても良かったと思います。
私はピアノの習っていた事があり、今でもクラシックは時々聞きます。
特にドビュッシーの「アラベスク」「月の光」はいつか弾きたいと子供の頃思っていて、まぁ「アラベスク」の途中でリタイアしたんですが、そんな思い入れもある曲なので尚更楽しかったです。

しかもとても嬉しかったのが清塚信也が「手首で呼吸する」とか「月の光を弾くためにアラベスクを早く弾いたでしょ?そんなのは冒涜だ」と言っていた部分です。
それから楽譜を見ながら「ピアニッシモだけでも気を使うのに、ディミヌエンド、だんだん弱く。しかもモルト、それを物凄くやって。ドビュッシーはここでそうとう繊細な音を出して欲しかったんだろうね。」という部分です。

クラシックは曲のスピードから音の強さから何から何まで楽譜に書き込まれているので、その通りに弾きます。
うちの旦那には「そんなの面白くない」とか「そんなんじゃ誰が弾いても一緒だ」とか言われて「なら一度でも楽譜通りに完璧に弾けてから言えよ!」と喧嘩になるのですが。笑
それがそもそも難しい!!
しかも歌謡曲の様に歌詞がないので、一体作者が何を感じてこの曲を作ったのか?と思惑に暮れるわけです。
そんな中で何故ここで弱く弾くのか?
何故ここは強く弾くのか?
そんな事を考えながら弾くわけですが、技術云々を置いておいてもいつまで経っても完璧がないんですよね~。
まぁ私はクラシックの世界に片つま先をチビっと突っ込んだくらいのレベルなので、あくまでもそんなレベルの私が思う事ですが。
だから面白いんです、クラシック。
追求の先に追求があって。
ちなみに好きなピアニストとかは居ないので、この人はこうだから好きだとかこの人はこうだから素晴らしいとかはよくわかりません。
そもそも旦那の言う様に「楽譜通りに弾いてるのだから誰が弾いても一緒」のはずがそうじゃないから、有名なピアニストという人が存在するわけですし。
面白い世界ですね~、クラシック。

長くなりましたが、そんなクラシックの世界の片鱗を清塚信也が語ってくれてるんですよ。
手首で呼吸するなんて、ピアノやってないと言えない台詞だよな~とか思いますし。
清塚信也は今作でかなりピアノシーンで口出しした、というと聞こえが悪いですが、制作に参加した様なので、その辺の気合の入れ具合がかなり音楽作品として良い方向に向かったのではないでしょうか?

それと岬先生とのキスのくだりはかなり気に入っています。
彼のあの発言で、彼女は救われたと。
やっと本当の自分の存在意義を認めてもらえた瞬間です。

しかしミステリー作品としてはツッコミどころもありました。
そもそも骨格違うのに医者は気付かないのか?とか、治療する前に歯の形とかでその人物が誰か調べないのか?とか。
いくら母親の発言でも、それを鵜呑みにするかね?と。
それから子供の頃の遥とルシアは確かに似ていますが、高校生の遥とルシアは残念ながら似ていません。
体型も身長も骨格も似てません。
そこもうちょっとなんとかならないかね?と。
それから火傷の後遺症についてはよく分かりませんが、あそこまで声や指が本当に元通りになるものなのかもわかりません。
まぁそこツッコむと元も子もないんですが。

いずれにしても彼女の葛藤がよく描けていたし、音楽作品としても素晴らしいし、かなり面白かったです。
クラシック好きにもオススメですが、クラシックに興味がなくとも十分楽しめると思います。
オススメです。

my評価8点(10点満点中)





概要
原作は日本人小説家、中山七里の同名小説。
今作は中山七里の「岬洋介シリーズ」の第1作目であり、他に2作品の単行本文庫本と短編の2作品がある。
第8回「このミステリーが凄い!」大賞を受賞。
今作の他に2016年にスペシャルドラマとしてTV放送もされた。
また岬洋介役を演じた清塚信也は本物のピアニストであり、輝かしい経歴を持っている。
これまでにも数々のドラマ作品や映画作品のピアノ演奏吹き替えを担当し、今作で俳優デビューとなった。
今作では俳優としてでだけでなく、ピアノ指導シーンでの台詞や細部の演技などの部分について脚本作りにも参加し、「手首で呼吸する」などといった本物のピアニストならではの表現も多数採用された。
また玄太郎がヨーロッパで買ったという設定のグランドピアノもその設定に相応しいピアノ探しに参加し、演奏シーンでは監督の利重ではなく、清塚がOKを出すまで撮影が続けられた。
利重もまた、通常は事前に演奏した音源に合わせて弾くふりをして撮影するところを撮影と録音を同時にやる事にこだわり、リストの「第4番マゼッパ」を清塚が弾くシーンでは演奏から台詞のやり取りまでのすべてを1カットで撮影した為、何度も撮り直しとなり、子供の頃から1日12時間ピアノの練習をしてきた清塚が舌を巻くほどに壮絶な現場となった。
主演の橋本愛はほぼピアノの経験がなく、映画同様に清塚が橋本愛のピアノ指導も務めた。


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Last updated  2016.04.10 11:22:29
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