北国からの便り。
ポストに絵葉書が舞い込んだ。見覚えのある字で力強く「元気か?」とだけ書いてあった。もう何年前になるのだろう。急に会社を辞め、店をやるんだといって北の大地に去っていった同僚。当時は「きっとすぐに帰ってくるんだろう」と高をくくっていたが、月日は流れ、小さいながらも自分の店を持ってしまった彼。伴侶にも恵まれ子供にも恵まれたと、風の便りで知った。それから数年後の現在。忘れかけた頃の彼からの便りだった。はがきに記されてあった番号に恐る恐る電話をした。時間があっという間に、若かったあの頃に戻った。年月は経過していたものの、しばらく話しているうちに二人の時間も遡ったような気がした。彼は持ち前のパワーで景気の悪いのをふっとばし、なんでも、2号店とやらを手がけるのだという。他愛もない会話を交わした後、最後に私は「ダメだと思ったらいつでも帰ってこいよ」と意地悪く笑った。電話を切ったあと、何だか急に涙が出そうになった。何故だかわからないが、自然に目頭が熱くなった。たぶん羨ましくて、少し悔しかったのだろう。あるいは彼の苦労を思って、今までよく頑張ったなという嬉し泣きだったのかもしれない。それに引きかえ、私はどうだろう。日々流され、目的もなくただフワフワと漂っている。まるで透明で無色の空気のような生活を送っているようだ。目的とか情熱とか、あるいは自分がどうありたいか。そんなものの一つでもいいから、何か見つけたい。絵葉書の寒そうな雪の写真が、今にも彼の情熱で溶け出しそうだった。私の冷え切った精神も彼のように熱く燃やしたい。涙を拭って背筋を伸ばし、天井を少し見上げた。「よっし」と小さく呟いて、私は自分自身を必死に探そうとした。空中を漂っている自分を必死に捕まえようとした。人気blogランキングへ