モリネル砂漠から吹き込んでくる砂を含んだ風が衣服や髪にからみつく。地面から照り返してくる太陽の強い光の矢が、衣服から出た部分をじりじりと焼き焦がすように突き刺さる。息を吸うと喉を焦がすような熱い空気が侵入し、脳を蕩かしてしまいそうだ。
同じ砂漠の町でもアリアンでは生い茂る木々やオアシスの水面が旅人の心を癒してくれたが、ここには何もない。寂れた石造りの建物と遺跡、砂ぼこりがここ荒廃都市ダメルにある全てだった。
「暑いね、ここ。」
にわかに汗ばんだ衣服に不快感を感じながら言った。暑いからマントを取りたいけれど、取るとよけいに肌を焦がすこの熱線・・・。はやく別のところに行きたい。
「うん。でもここ・・・ダメルなんだろ?本当にダメルに来れたんだ。本で読んだ事がある、地下に遺跡があるトコだろ?」
ウォルは暑さも砂ぼこりも全く意に介さず、目をキラキラさせて興奮していた。古代ロマンというものに夢中みたい。
「とりあえず、どこか建物の中に入ってそこの人に話を聞かない?」
「あ、あそこに人がいる!考古学者っぽいな。行ってくる!」
早く日陰に入りろうという私の提案を無視して、あっという間に駆け出していってしまった。
「彼・・・、歴史好きなの?」
タウンポータルを開いてくれた宅配天使のモルビリさんがぼそっと言った。彼もこの暑さに辟易しているらしく、すでに手近な建物の影へと移動していた。
「昔から、遺跡とか古代文明とかに興味持っていましたから・・・。特にダメルは憧れの場所だったみたいです。」
「なるほどね・・・。やれやれ、たぶんここでは何も情報が得られないと思うよ。砂と石造りの建物ばかりの場所に炎のモンスターを送り込んだところで、たいした被害は出ないはずだからね。しかもこんな地の果てだ。住民の数も少ない。」
ため息をつきながらモルビリさんがつぶやいた。
確かにここに炎を吐くモンスターが攻め込んできたところで、燃やせるものは何もなさそうだ。炎のモンスターたちが何らかの意図を持って街を襲撃をしているのだとしたら、ここほど甲斐のない場所もないだろう。
「一応誰かに話を聞いてきます。モルビリさん、ちょっと待っててもらえますか?」
「ああ、ここの日陰で休んでるよ。多分何も聞けないと思うけどね。」
なんか悪いなぁ・・・。彼には何の得もないのにこんなところに付き合ってもらって。
とにかく早く用事を済ませてもう少し気候のいい街へ飛ぼう。
最初に入った建物で、男の人が入ってきた私を凝視し、ふいっと目をそらした。
怪しかったので話を聞くと、私を追っ手と勘違いしたらしい。
「この村には俺のように追放者と逃亡者たちが多いから気をつけな。人が一人や二人消えたとしても、全く不思議じゃない所なんだぜ。」
訪れる人のほとんどいない荒廃した街は、人目を避ける必要のある人間に好都合な場所であるらしい。そういえば町の端の方でも盗賊らしき人たちが辺りを窺っていた。
何人かに話を聞いては見たが、そういう類の人ばかり。とにかくここで何もなかったことだけは分かった。
カラカラに喉が渇いたので水を買って皮の水筒に入れてもらい、モルビリさんの元まで戻った。
「どうだった?」
「ここでは何も起こってないみたいです。」
水の入った皮袋を渡すと、モルビリさんはあっという間に半分ほど飲み、息を吐いた
「まあ、そうだろうね。」
「ここは普通の街で生きられない人たちが来るところみたいで・・・。失踪事件ならあるみたいですが、それは別に関係ないですよね。」
「失踪事件なんてどの街でも珍しくはないよ。ところで、彼はどこ行ったのかな?」
残りの水を受け取り、口に含む。生温かくて美味しくはなかったけれど、乾いた喉には最良の癒しだった。
「戻ってきませんね・・・。」
1時間ほど待っただろうか、ウォルが息せき切って戻ってきた。
「どう、何か話を聞けた?」
「待って、ちょっと、水を先にくれ。」
渡した水を一気に飲み干し、一息ついてから彼が聞いたことを話始めた。
彼が会った人間は考古学者助手で、教授が地下遺跡に一人で潜ったことについて心配して探していたらしい。その助手にずっとダメルの歴史や遺跡について聞いていたとのこと。
「すごかったよ!実際に遺跡を調査している人から話を聞けるなんてさ。ここに来れて本当によかった。」
「そっか。良かったね。」
『ねえ、本来の目的、忘れてない?』
そう思ったが、あまりにうれしそうな様子に注意する気を無くしてしまう。考えてみればウォルが村を出るのは初めてなんだ。興奮してはしゃいでしまうのも仕方がないのかもしれない。
「そろそろ次の街に行かないか?そろそろ日が暮れる。ここには宿もないみたいだからな。」
モルビリさんがあきれた表情で言った。
夕暮れを前に荒廃都市ダメルから一番近くて大きな街、アリアンに飛んだ。
キラキラ光るオアシスを見た瞬間ほっと気が緩んだ。
人間の住む場所に一番必要なものは水だ。特にこんなに暑い場所では水のある風景というものがどれだけ人の心に安らぎをあたえることだろう。広大な砂漠の中にポツリと、なみなみとした水をたたえたこの場所は宝石のように貴重で美しい。
マントについた砂を払い落とし、オアシスの水で手と顔を洗ってやっと人心地がついた。ダメルで体中から奪われた水分とエネルギーが、一気に充填されたような気がした。
アリアン旅館の一室を借りて荷物を降ろし、久しぶりに街を散策してみることにした。モルビリさんは昼間の暑さが堪えたのか早くも床につき、ウォルは旅館で出会った有名な生物学者のマイトさんと楽しそうに話しこんでいる。
太陽は姿を消したが、地平線をくっきりと際立たせるオレンジの光が旅人たちに西の方角を教えてくれている。紫に染められた雲の細い帯は星々を映し出す漆黒のスクリーンに徐々に追い立てられ、砂漠に夜の帳が下りようとしていた。
⇒つづき
かなりお久しぶりの小説です。
あんまり人気がないのですが、ぼちぼちと不定期で更新予定ヾ(。・ω・。)ノ
お待ちかねだった人も、アフォネタの方が好きという人も、よろしくお付き合いくださいませ(ノ´∀`*)
初めて読む方は⇒ これまでのおはなし を読んでみてください(>▽<)♪
<イベント二日目>
ゲット3、プレゼント0でしたε-(´∀`*)ホッ