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RED STONE 増殖☆寄生日記

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July 27, 2007
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カテゴリ:小説


 モルビリさんの意見を汲んで次は新興都市ビガプールへ向かうことにした。

 ビガプールは北東に王城のあるとても大きな町だ。東を中心に貴族たちの豪奢な屋敷が立ち並び、町の建物の屋根は赤で統一されている。豊富な水を湛えた水路、各家に植えられた花々、金色の穂をゆらす小麦畑。これまで行ったどの町よりも華やかで美しかった。

 過ごしやすい気候と笑いさざめく温厚そうな住民。流刑地のような寂れた町ダメルや木こりしかいないブレンティルなどとは明らかに違う場所、まるで別世界だ。

 調査するまでもなく、ここでは何も起きていなさそうだ。

「まずはビッグアイで話を聞きましょうか。」



 

ビッグアイ.jpg






 町を西に出たところにあるビッグアイは、小都市とは名ばかりの前線基地だった。緑と水に彩られた美しい町ビガプールの隣にあるとは信じられないくらい荒廃した場所で、そこには多くの傭兵、砂と布張りのテント、そして奇怪な形の塔があるだけだ。

「あ~、お金はたくさん稼げるかもしれないけど、これはあまりにも退屈だよ。こうしているだけで何年間も攻撃されたことなんてないんだからさ。」

 話を聞いた傭兵がぼやいた。ここにも襲撃はなかったようだ。

「見張っていようがサボっていようが、敵の奇襲の前では崩れるだろうよ。ところでどうしてこの廃墟を片付けないで、傭兵ばっかり雇うのだろう?」

「全く基礎も分かってない軍隊だな。キャンプの配置を見たらすぐに分かるよ。適当に契約期間だけ済まして冒険に出ようっと。」

「チェッ、傭兵だと前線基地に宿を用意しやがるなんて。これってあまりに酷くないか?」

 金で雇われた傭兵たちの士気は低く、聞かれるのは待遇や軍や町に対する不満ばかり。こんな荒涼とした場所にずっといれば心が荒むのも仕方がないことのように思われた。




 まったく収穫のないままにビガプールに戻った。

「どうしましょう?ここでも何も起きてないようですし、別の町へ行きましょうか?」

「一応話を聞いてみたらどうだ?これだけ大きな町だ。旅人や流れ者が何か情報を持っているかもしれない。」

 モルビリさんはこの町の調査を薦めた。




ビガプール.jpg







 現ストラウス国王、そしてトルゲレフ家、ミルベル家、ブルボン家、パトリキー家、アリストイ家、パトリキー家の5つ公爵家がある。彼らが上手く政治を行っているのは通りを行きかう人々の幸せそうな顔を見れば明らかだった。

「冒険家にはあまり魅力的じゃないかも知れないが、私ら庶民にとってはこれ以上ないというくらいここは豊かで素晴らしい都市だよ。」

 町の人がいう『豊かさ』と『素晴らしさ』の意味を町の南東にある裏町で理解した。貴族が手ずから流れ者たちに食べ物を配給していたのだ。

「さあ並んでください。昨日小麦畑で一所懸命働いてくださった方に食べ物などを配給しています。」

 貴族の前には流れ者たちの長い列が出来ていた。どの人も施しを受けているとは思えない、満足感げで晴れやかな顔だった。

「今までは何もしないで恵んでもらってばかりだったが、仕事をしてからもらったら新鮮な気持ちだな。」

「明日はお金をくれると言ったから今日も配給をもらって熱心に働かなくちゃね。」

「ウフフフ。他の村の流れ者とは違うぞ。わしらは仕事をして正当な給料をもらうのだから。」

 彼らは食べ物やお金をもらえるから喜んでいるんじゃない。仕事が出来る喜びでいっぱいなのだ。

「ブリッジヘッドにいる友達にも、こちらへ来いと言わなくちゃな。ここは家も用意してくれて、仕事と食べ物、お金までくれるから以前のようにみじめじゃないから良いよ。」

 彼らが取り戻したのは安定した生活、そして誇りだった。

 町の南西部には広大な小麦畑が広がっており、農民が忙しく作業をしていた。

「何年か前にこのビガプールの南東部に小麦畑が出来て、当時は本当に驚きました。一瞬で歩道の石畳が全部消えて肥えた土地が現れたからです。」

「新興王国だからいろんな方面で心細いけど、それでもこんなに豊かな土地があるから安心です。しかし、歩道の石畳で覆われていた土地がこんなに肥えているとは、奇妙ではありますね。」

「ここに来てよ、農業の仕事を始めてから何年になったっけなぁ。本当に不思議なことはよ、害虫がただの一匹も見たことがないということだよ。こんなに肥えた土地がなぁ、なんで最近になってから開発されたのか分からんよ。」

 突如として石畳が消えて現れた肥沃な土地。しかも害虫から守られている。不思議な話だが、今回の事件とは関係がなさそうだ。

 広い町だったので調査が終わったときには日が暮れようとしていた。

 この町で一晩の宿を求めようと町の北にあるピガプール黄金色の小麦畑亭に行くと、

「申し訳ございません。当ホテルは一般冒険家でいらっしゃる御方には、お部屋をご用意しておりません。」

 と断られてしまった。冒険家お断りのホテルは初めてだ。

 諦めて出ようとしたとき、後ろから誰か声をかけてきた。

「あら、あなたはロマじゃありませんか?」

 振り返ると風変わりな服装をした男女が立っていた。

「こんにちは。私たちもロマの一族。ロマ文化を広めようと、あちこちを訪ねゆくロマジカルバンドです。よかったら私たち一行の仲間としてチェックインされたらいかがです?」

 疲れていた私たちにとってそれは願ってもない話だった。彼らの衣装を借りて変装し、ロマジカルバンドの一員として部屋をとることができた。

「ありがとうございます。助かりました。」

「いえいえ、いいのですよ。同胞のお役に立てて嬉しいですわ。」

 火に焼けた肌に形の良い白い歯をのぞかせて微笑んだ。

「日が落ちたら広場で演奏するんです。もしよかったら見に来ませんか?」

 モルビリさんは疲れているからと部屋へ。私たちは荷物を降ろしてから演奏を聴きに行くことにした。




 日が落ちた後もビガプールは街灯で十分明るかったが、彼らは広場の中央に大きなかがり火を焚いた。

「炎はロマの神ですからね。踊りと歌は神に捧げるものなので、必ず火を囲みます。」

 ゆらゆらと風に手をそよがせる炎に誘われるように広場には街の人が集まり出し、ロマたちの演奏が始まった。

 男たちが長方形の箱形に弦が水平に張られた特殊な民族楽器を小さなハンマーで叩たいたり、バチで掻き鳴らすと広場のざわめきが一瞬で収まった。カスタネットが軽妙なリズムを刻み、女性がかすれたような低めの声で歌い始めると、楽器を持たないロマたちが軽やかなステップで踊りだした。

「知らない言葉だわ。」

「ロマニー語だろう、たぶん。」

 炎を見つめながらウォルがぼそりと言った。

「ロマニー語?」

「大昔、ロマは一つの国家を築いていて、その国の言葉をロマニー語といったんだ。しかしその国が滅びるとともにロマニー語は失われてしまった。」

「どうして滅んでしまったの?」

「さあな。文献が残されてないから詳しいことは分からない。そのときからロマは亡国の民となり、あちこちの国を流離うことになった。純血を重んじ、独自の宗教を捨てないロマはどの国にも溶け込むことができず、迫害された。だから俺たちの先祖は、自分たちだけの土地を捜し求めてモンスターのひしめく険しい山を越え、辺境のビスルに村を拓いたというわけさ。」

「・・・知らなかった。」

「ああ、こういうことは村の学校じゃ習わないからな。ビーストテイマーやサマナーの勉強には関係ないし。俺も本で読んで初めて知ったんだ。」

 体の奥の何かを呼び覚ますような原始のリズム。我慢できなくなったのか観客の中から見よう見まねで踊りに参加する人が出てきた。

 こんな話を聞いた後だからだろうか。ステップも音も思わず体を動かしてしまいたくなるほど楽しげなのに、情熱的な声で奏でられる歌が何故か哀しく響いた。

「俺たちも踊ろうか。こんな機会滅多に無いんだからさ。」

 ウォルが手を引いて輪の中に連れ出す。

 適当に弾んでいればそれなりに見えるというくらい、輪の中の踊りに秩序だったものは無かった。歌いたいように歌い、踊りたいように踊る。炎に照らされた人々の顔は上気し、振り付けも何も関係なく音に合わせて狂ったようにぐるぐると回っている。その様は何故か群れ泳ぐ回遊魚のように見えた。

 体を動かすと心の中に巣食ったもやもしたしたものが振り払えるような気がして、幼い子供が乱暴に振り回したマリオネットのようにメチャクチャに手足を動かした。

 疲れて糸が切れるそのときまで。






つづき

 

 

 

 ロマという民族の設定について考えてみました⇒謎の民族:ロマ

 「たかがゲームに考えすぎ」って言わないでね(A´▽`;)アセプキプキ






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Last updated  August 22, 2009 04:41:24 PM
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