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カテゴリ:小説
地下に続く扉は背の草木が生い茂った場所にあり、そこにあると思って探さないと気付かないほどだった。扉のすぐ近くにある茅葺の建物の名前は『黄金色の小麦畑亭』。ビガプールにあった旅館と同じ名前だ。
「そうか、この地下道はビガプールとバリアートの姉妹店を結ぶ物置兼連絡通路なんだよ。きっと。」 確信に満ちた顔で連理が言った。 なるほど。滅多に使わないような道具や食料などは二つの店で共有すれば効率がいい。 「でもなんでモルビリさんがこの通路のこと知ってたのかな?」 「モルビリさんは宅配天使だろ?頼まれた荷物を運び込んだことがあるんじゃないかな。そのときに偶然転移装置を見つけたのかもしれない。」 うん。ありうる話だ。 そこに比翼が疑問を投げかけた。 「でもよ、ちょっとおかしくないか?なんで地下道なんて使ったんだ?」 「え?」 「タウンポータル開ける追放天使がわざわざ地下にある転移装置で移動するって変じゃねぇか?」 確かに無断で地下倉庫に出入りしているところを店の人に見つかればまずいことになるはずだ。それなのに何故わざわざここを使ったのだろう?
倉庫を出て村の中心の方へ歩いた。ここに炎のモンスターが現れたのは明らかだった。すでに刈り取った麦穂を結んである畑の焦げた跡が痛々しい。 さっそく住民から聞き取り調査を始めることにした。 「ここ一帯は町と麦畑周辺を除いて全部ゴドム共和国の土地だよ。」 「帝国や王国、共和国からも遠く離れた地理。そして東海の豊かな海洋資源のバリアートは独自的な文化をもつ、どこにも属されてない自由都市です。しかし、住民の半分以上がメディッチ家の雇われ農民なので・・・自由都市とは名ばかりですね。」 バリアートという町は王のごとく君臨するひとつの家に支配された独立国のようなものらしい。 町のはずれの方で農作業を一休みしていたおじさんに事件のことを聞いてみることにした。 「この町がモンスターに襲われたと聞いたのですが・・・。」 「ああ・・・。あれは恐ろしい出来事だったよ。夜寝ていたら、いきなり窓の外が赤く光って昼間みたいに明るくなったんだ。あわてて飛び出すと大きな赤いトカゲのような生き物が口から炎を吐いて、畑や民家に火を・・・。」 赤いトカゲということは・・・サラマンダー?
「4匹だよ。」 「被害はどのくらい出ましたか?」 「畑の方はすでに刈り入れが済んでいたから、実害はそれほどなかったよ。しかし家が3軒全焼して7人死んだ。」 死人まで出たんだ・・・。予想はしていたけれど、改めて被害を受けた街の人に話を聞いて、短い言葉ながらもその悲惨さ、重大さが伝わってきた。 「それでも軽く済んだ方だと思うよ。なにしろちょうどこの街に滞在していた追放天使が、ブリッジヘッドに救援を求める伝令に発って、すぐに力のある冒険者を連れて戻ってきてくれたんだ。彼がいなければこの町はすべて灰になっていたかもしれない・・・。」 追放天使?何かもやもやしたものが心の中でざわめき出す。 「その天使さんのお名前、分かりますか?」 「ええと、なんだったかな?確かモリビル・・・とかなんとか、そんな名前だったよ。」 モルビリさんだ! 事件のときにこの町にいたなんてそんな大事なこと、どうして言ってくれなかったんだろう・・・。
「はい。」 「何故この事件について調べているかは知らんが、早々に立ち去った方がいい。お舘さまからビスルのロマを見つけたら捕まえるようにお達しが出ている。見つけた者は契約から開放された上たっぷりお礼をもらえるとあって、雇われ農民たちは血眼だ。」 ウォルの言ったとおり、この町は危険だった。まだロマやスルタンさんの無実を証明するものがないのに、今捕まったらまずいことになる。 「この町の人の半分はメディチ家の雇われ農民だからくれぐれも気をつけて。私はこの前、雇われ農民から抜け出せたからいいが、町の半分の人間にとってお舘さまの命令は絶対だ。・・・お舘さまはなんていうか・・・恐ろしいひとだから・・・。」 「ありがとうございます。」 お礼を言って駆け出した。 「急いでビガプールに戻ろう!」 黄金の小麦畑亭の方に戻ると、地下倉庫の入り口付近に人だかりが見えた。 「いたぞ!ロマだ!!」 あっという間に手に鋤や鍬持った数十人の農民たちに囲まれてしまった。 「お舘さまの命令だ、おとなしくこっちに来い!!」
比翼が剣を構えて姿勢を低くした。 「仕方ない。強行突破するぞ!」 「だめ、比翼!人間に手を出しちゃ。」 「だったらこのまま捕まれってのか?殺されるかもしれないんだぜっ!」 「でも・・・。」 町の人と諍いを起こすために来たのではない。もしもここで誰かに怪我でもさせたら、ロマが犯人という疑いを更に濃くしてしまうだろう。 「お待ち下さい。」 ふいにウォルが落ち着いた声で話し始めた。 「私たちは今回の事件について調べに来た者です。それなのにいきなり武器を突きつけて脅したりするなんて乱暴だとは思いませんか?」 「何を言ってるんだ!町を襲っておいて・・・。そんなやつらに乱暴もクソもあるか!!」
「そんな証拠がどこにある?」 「調査の途中ですので今無実を証明することは出来ません。けれどこうやって調べているということが、私たちが犯人でないことの証拠にはなりませんか?」 「そんなのは証拠にも何にもならねぇ!この人殺しが!!!」 「そうだ!・・・俺の弟を・・・弟を返せ!!」 怒号が飛び交い、その場が騒然となった。興奮して町の人たちの目が血走っている。何を言っても聞いてくれそうにない。 それでもあくまでウォルは冷静だった。 「お舘さまというのは、メディチ家の誰かのことですか?」 「そうだ、メディチ家の奥様のことだ。」 「その方にお目にかかりたいのですが・・・。」 「あ?ああ・・・、そりゃ、もともとそのお舘さまのところに突き出すつもりだったから、それはいいが・・・。」 「では連れて行ってください。」 毅然とした様子でウォルがそう言うと、気おされたのか住民たちから殺気が消えた。
両脇、前後それぞれ3人ずつにぴったりくっつかれながら、町の中心より少し東にあるメディチ家へと向かった。 「ねえ、ウォル、捕まってどうするつもりなの?」 すぐ隣を歩いているウォルに小声で訊ねた。 「頭に血が上った人間には話をするだけ無駄だよ。それが集団となると尚更始末が悪い。あそこでごちゃごちゃやるよりリーダー一人と話をつけたほうが早い。」 確かにあのままあそこで押し問答していたら、激昂した誰かがこちらに危害を加えてこないとも限らなかった。そうなると連理や比翼も黙ってはいないだろう。最悪の結果になっていたかもしれなかった。
やっぱりウォルに一緒に来てもらってよかった。 頼もしく成長した幼馴染の姿を見て、誇らしいような、くすぐったいような、なんだか不思議な気持ちになった。 ⇒つづき
旦那の実家でコソコソ書いてました。 予想以上に長くなりそうです(´Д`A;)
<可愛い生き物> フランデル大陸をふらふらしていると、ときどき可愛い生き物に出会うことがあります。
☆狼の巣窟入り口前
☆木妖精の庭園
☆アリアン地下遺跡
暑いからやった(`∀´ ) お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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