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RED STONE 増殖☆寄生日記

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November 16, 2008
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カテゴリ:小説




 すらりと伸びた手足を前後に滑らかに動かし、細身の男二人がまるで競うような早足で山道を降りていた。土を蹴りあげるたびに乾燥した赤茶けた土は朦々と煙を上げる。早春のまだ冷たい風がその細かな土の粒を掬い上げ、荒涼としたあたりの風景をぼかすように溶かしこんでいった。

「なぁ・・・。」

 少し後ろを歩く男が前へ声をかけた。

「ん?」

「ちょっとやりすぎちまったかな。」

 前を行く男が立ち止まり、振り返った。

「何が?」

「プッチニアを起こす方法を見つけてくるって・・・特にあてがあるわけじゃないんだろ?」

 珍しく不安げな表情の比翼に連理は事も無げにこう言い放った。

「仕方ないじゃないか。そうでも言わなきゃ彼女はすぐに殺されてた。」

 連理は長老クーンに2週間の猶予をもらい、レティとハンスに必ずプッチニアを助けると約束して、比翼と共に村を出たのだった。

 炎のモンスターの襲撃により暴徒化した人間たちから赤山を守るため張られたバリアはすでに解かれていた。モンスターたちも平穏を取り戻し、傍を通り抜ける闖入者のエルフたちに攻撃のそぶりも見せず、うららかな日差しに目を細めてゆったりと大地に身を横たえている。

「で、どうする?これから。」

「僕はまずバリアートを調べてみようと思う。」

「え・・・ちょ、やばいって。俺ら、あそこじゃおたずね者だろ?」

「多少の危険は冒しても行く価値があると思う。というか、今のところあの館の焼け跡を探るより他に手がかりなんてないじゃないか。」

「もし、村の人間が襲ってきたらどうすんだよ。」

「プッチニアは嫌がるだろうね、人間と戦ったりしたら。」

「だろ?こっちは手が出せないとなると、いくら素人の攻撃だって・・・。」

「プッチニアは、と言ったろ?」

「ん?」

「見えなきゃ無かった事と一緒だ。」

 連理はぞくりとするほど怜悧な瞳を比翼に向け、唇の両端を少し上げた。

「・・・なるほど。」

 得たりとばかりににやっと比翼が笑った。



 訪れるものの少ない地の果てにある村は、出てきたときとは対照的に静まり返っていた。白い布を張った風車がきいきいと乾いた音を立てながら緩やかに回っている他は、動くものが見当たらない。

「誰もいねぇな。」

「そうだね。」

「いくら今が農繁期じゃないっつっても、晴れた日に外にまったく人が出てないなんて・・・。」

「罠でも別にいいだろ。まとめてかかってきてくれた方が話は早い。むしろ好都合。」

「・・・いつも俺に乱暴だとか言ってるけど、お前の方がよっぽど好戦的だよな。」

 空気は冷たいが暖かな陽光が降り注いでいるのにも関わらず、辺りは静まり返り子供の声ひとつしない。明らかに不自然といえる状況だ。比翼にはあんなことを言ったが、一対一の戦闘スタイルのエルフにとって、あまり大勢で囲まれるとまずいのは確か。農機具は立派な凶器だし、束になってかからってこられるとこちらも多少の傷は覚悟しなければならないだろう。誰にも見つからなければそれにこしたことはない。できるだけ靴音をたてないようにしながら、メディチ家に向かう道をまっすぐに駆け抜けた。



 あの壮麗な館があった場所はわずかに瓦礫を残す程度で、見事な焼け野原になっていた。館の敷地のみが黒く塗りつぶされ、まるで闇がぽっかりと口を開けているようだ。実際ここには魔界と繋がる呪われた実験室があった。ここでいったい幾人の人間や動物が犠牲になったのだろうか、連理は改めてそのおぞましさに寒気を覚えた。

「建物は跡形もないが地下室の方は何か無事なものがあるかもしれない。まずは地下への入り口を探そう。」

「わかった。」

 あれだけの火だ。手がかりは万に一つも残ってはいないだろう。地上部分がこれだけ破壊しつくされているのに火元となった地下が無事であるはずがない。そのくらい分からない二人ではなかったが、何かせずにはいられなかった。

 焼け焦げのついた石壁の塊をどかせようと触れると、持ったところからぐずり熔けるように細かく砕けてさらさらと手から零れ落ちてしまった。よく見るとあたりの瓦礫から煙のようなものが立ち昇っているが、これは表面から少しずつ崩れて砂となったものが風に乗って舞い上がっているらしい。大きな屋敷の割に焼け残ったものが少ないのはそのせいなのか・・・。

 それにしても不思議な火事だった。

 主従契約を消されて失った記憶を取り戻して地下へ戻ると、そこは光の洪水だった。金とオレンジに彩られた炎は活き活きとその身をうねらせ、焼けるはずのない石造りの建物のあらゆるものを飲み込んでは黒くあるいは赤く溶かしていた。それなのになぜかあまり熱を感じず、衣服に燃え移る気配もない。最初は恐る恐る進んだが、大丈夫らしいと分かってからは走って奥の部屋へと向かった。扉を開けると部屋の真ん中にプッチニアが倒れていた。書棚もテーブルの上のフラスコも床も天井もすべて炎に侵食されているのに、結界を張ったかのように彼女の周りだけ炎はなかった。担いで部屋の外を出ると、まるで導いてくれているかのように廊下に燃え盛る炎の輪の中心がすうっと大きく膨らんで道を作り、僕たちを通してくれた。

 聖なる炎を司るロマの神がプッチニアを守ってくれたということなのだろうか。神への冒涜である禁断の実験を行ったフィロウィとそれに関わるものはすべて焼き尽されていたのにも関わらず、実験の成果であるプッチニアが無傷であったという事実はどういう意味を持つのだろう。

「あった!ここじゃねえか?」

 敷地の北東の隅に金属板の熔け残りがあった。慎重にそれを取り除くと、煤で汚れた土のがその部分だけ柔らかく、掘ってみると石壁の破片らしきものが出てくる。

「地下室は焼け落ちて埋まってしまったみたいだね。」

 素手で土をかき出し始めたとき背後に気配を感じた。

「!!!」

 思わず剣を構えて振り向くと、中年の男がびっくりした顔をして立っていた。

「ま・・・待ちなさい、私は敵じゃない!」

 武器は持っていないようだ。年の頃は60過ぎ。農作業で鍛えられたのか年の割に頑健そうな体つきをしているが、素手で僕たちを倒すほどの力はなさそうだ。

 剣を鞘に戻すと男はほっとして息を吐き、こう言った。 

「君たちは前にこの村に来たエルフだろう?ほら、あの女の子と一緒にいた。」

 よく見ると男の顔には見覚えがあった。バリアートに着いて聞き込みをしたときに村の人間が総出でロマを探していること、メディチ家の女主人が危険であることを教えてくれたおじさんだ。彼は信用してもよさそうだ。

「はい。」

「よかった、無事だったんだね!あの女の子はどうしてる?」

「一緒に村を脱出し、今はビスルにいます。」

「そうか、よかった。本当によかった!あの後君たちが捕まったと聞いてね。それからあの火事だろう?もう気が気じゃなくてね。助かって本当に嬉しいよ。」

 おじさんは赤らんだ頬に涙まで浮かべてうんうんと頷いた。

「あの・・・ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんだい?」

「今日この村に来て誰も外に出ている様子がなかったので不思議に思っていたのですが、何かご存じないですか?」

 人のよさそうな笑顔をふっと曇らせ話し始めた。

「この村がメディチ家の雇われ農民が半分を占める、自由都市とは名ばかりの場所だということは前に言ったね。何故そのような独裁をひくことが出来たか、それには理由がある。
 周辺が荒地であることから分かるように、昔ここは作物を育てるのには向かない土地だった。バリアートも元々は小さな村でね。とても貧しくて、村人は始終飢えに苦しんでいた。そこへメディチ家の当主、あの女主人の亡くなった夫だが、その人が何の気まぐれかこの村とあたり一帯の土地を買い占めたんだ。そして開墾に着手するとどういうわけだか一晩で小麦が金の穂を揺らし、ここらは一気に肥沃な土地に生まれ変わった。」

 おそらくフィロウィの仕業だ。『錬金術は黄金を作り出す技術を追求して生まれた一種の自然科学だ』とあいつは言っていた。擬似生命を創れるほどの力をもつのなら、土地を肥やすことなど造作もなかっただろう。

「土地が豊かになって食うに困ることは無くなった。そんな奇跡を成し遂げた当主を村の人間は神とも崇めた。土地は全てメディチ家に買われて村の人間は雇われ農民にいたから嫌でも従わねばならないということもあったが、実際お館さまはとてもお優しい方だった。メディチ家にある程度作物を納めればあとは自由だから自分たちが食べる分を残して余ったものを売り、貯めたお金で土地を買い戻したりできたから、村人は一生懸命働いた。この村がおかしくなり始めたのはお館さまが亡くなり、夫人のセラチアさまが当主となってからだ。土地の値段を吊り上げてなかなか買い戻せないようにし、独裁的にこの村を支配した。
 反感を覚えながらも村人はメディチ家を裏切れなかった。雇われの身ということもあったが、何より彼女がくれる土地を肥やす魔法の薬が必要だったからだ。あれがなければこの村はまた昔の貧困に逆戻りしてしまう。だからどんな命令でも聞くほかなかった。」

 ここまで一気に話した後、おじさんはためいきをついた。

「しかしメディチ家が焼け落ち、もうあの薬を作れないと彼女が話すと、村人は蜘蛛の子を散らすようにこの村を出て行ってしまった。一度豊かな生活をしてしまったらもう貧困に戻ることは出来ないのだろうな。今ここに残っているのは私と、村に愛着のある年寄り数人くらいだよ。」

「『彼女が話すと』って・・・あの女・・・セラチアは生きているのですか?」

「ああ、村人がなんとか助け出してね。今はうちで面倒を看ているよ。」

 セラチアが生きていた!何十年もフィロウィを地下室を提供し、土地を肥やす薬を作らせていた彼女なら何か知っているかもしれない。

「会わせてもらえませんか?どうしても聞きたいことがあるんです。」






つづき

 












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Last updated  August 23, 2009 06:54:30 PM
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