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カテゴリ:小説
ようやくロリンの支えなしに動けるようになった頃、色とりどりの花が競うように咲き始め、村は一年で一番美しい初夏の季節を迎えようとしていた。 「プッチニア。」 プッチニアは家を出た所で連理と比翼の二人に声をかけられた。 「あ、連理、比翼。これからチロルさんのところに生まれた仔馬を見に行くの。一緒に行かない?」 「いや、遠慮しておくよ。その前にちょっとだけいいかい。話があるんだ。」 「うん。いいよ、全然急いでないから。」 部屋へ戻ってお茶でも入れようと二人を家に入るよう促すと、 「ここでいいよ。手短に済ませるから。」 「そう?なぁに、話って?」 「プッチニア、もうすっかり元気になったよね。」 「うん。もうどこへ行くのも全然大丈夫だよ!」 「そっか。でね、僕たちそろそろ行こうと思うんだ。」 「行くって・・・どこへ?」 「この村以外のどこか。」 「・・・?どういうこと?」 連理の後ろで腕を組んで立っていた比翼が口を開いた。 「お前さ、このままこの村で暮らすつもりだろ?」 「え・・・うん・・・。」 「でも俺たちはお前の隠居生活に付き合う気はないの。」 いつもぶっきらぼうだけど優しい比翼。でも別人みたいに冷たい顔をしている。 本気だ・・・。本気で言ってるんだ・・・! 「待って、比翼、連理。だって私・・・。」 「主従契約はあのとき解除されてるよな?俺たちはもうお前のペットじゃない。自由だ。だからお前に俺たちを止める権利はない。」 どうして・・・どうして今更そんなこと言うの? 主従契約を解除して記憶を無くしても私をあの火災から助け出し、あらゆる手を尽くして仮死状態から救ってくれた二人。それなのに一体何故? 「待ってよ・・・どうして・・・。」 上手く言葉が出てこない。 行ってほしくない。二人がいなきゃ私・・・。 「じゃあね。プッチニア。元気で。」 微笑みを浮かべて連理が言う。 待って。待ってよ。 こんな別れってないよ。 そりゃ契約は解除したけど、でもそんなのを超えた絆があるって信じてた。 だから助けてくれたんだよね? だから一緒にいてくれたんだよね? それなのにこんなに簡単に出て行くの? 二人は背を向けて村の出入り口へと歩いて行った。思ったことの10分の1も言葉に出来ないまま、ただ泣きながら後ろを付いていく私。 「見送りはここまでいいよ。」 振り返って泣いている私を見た連理は困ったように言った。 「・・・んぅっ・・・あ・・・あり・・・と・・・。」 今まで一緒にいてくれてありがとう。 たくさん助けてくれてありがとう。 お礼だけでもちゃんと言いたかったのに、しゃくり上げながらではなかなかうまくいかない。 にやっと意地の悪い笑みを浮かべ、比翼が何か細長い棒のようなもので私の頭をコンと小突き、耳元で囁いた。 「俺たちが出て行くのは自由だけど、追いかけるのだって自由なんだぜ。」 慌てて視線を上げると、さも可笑しそうに二人が笑っている。 「僕たちこれからどこに行くか分からないけれど、欲しいなら捕まえてごらん。出来るものならだけど・・・ね?」 比翼に渡されたサマナー用の笛が、初夏の強い日差しを浴びて金色にキラキラと輝いていた。 あれから3年半。 フランデル大陸の某所。 茂みの向こうに懐かしい二人の顔が見える。 「や・・・っとっ、見つけた!」 「遅かったな。待ちくたびれたぜ。」 「だって、まさかこんなところにいると思わないじゃない!エルフがいそうなところとか、今まで旅した場所を一所懸命、探してたんだよ!」 「それじゃあ、すぐに見つかって面白くないでしょ。」 「だよな。かくれんぼって見つかりそうにないところに隠れるもんだろ?」 「面白い面白くないの話じゃないよ、もぉ・・・。」 『フランデル大陸全域を範囲にしたかくれんぼ』だなんて冗談きつすぎ! でも私が怒れば怒るほど楽しそうに笑う二人。 ホント、もう・・・相変わらずなんだから。 「お、感心感心。マジでここまで召喚獣だけで来たんだ。」 「だって、この笛、そういうことでしょ?自力でなんとかしろって意味・・・。」 「そそ、ファミリアなんかに浮気してたら二度と戻らねぇよ。な~、連理。」 「うん。強いペットならなんでも無節操に仲間にするんなら、別に僕たちじゃなくてもいいもんね。」 「ところでお前、全っ然成長してないよな。背もそうだけど、特に胸!あれから3年も経ってるんだからちょっとは大きくなってるかと期待したんだけど、まだぺったんこかよ!こりゃ、一生無理だな~。」 「こら比翼!貧乳の人間にぺったんことかまっ平らとかツルペタとか、そういうことは言っちゃダメだろ。」 「じゃ、何て言えばいいんだ?」 「そうだなぁ、ささやかな胸・・・とか?」 「ちょっと・・・もう!あんたたち!」 呆れた・・・、本当に昔のまんまなんだから! からかうような視線をこちらに向け、端正な顔を崩して笑う二人。 新芽のように柔らかい緑色の髪、ペリドットの瞳。 しなやかに伸びた手足を持つ、長身のエルフ。 私は今までこんなに美しい生き物を見たことがない。 血よりも濃い絆で結ばれた私の大切な・・・。 「冗談はこのくらいにして始めようか。プッチニア、契約の言葉は?」 「私、プッチニアは病気の時も、強い敵に襲われて大変な時も、美味しいものを食べたり楽しく遊ぶ時も、他のペットには一切浮気することなく、ずっとずっとあなたたちを大事にすることを誓います。 だから・・・だからこれからも・・・一緒に・・・いてくれますか?」 今度こそずっと一緒にいよう。 いろんな場所を旅して、いろんな物を見て、共に喜び、共に悲しみ・・・。 いつか命の炎が燃え尽きるその時まで。 「どうする?比翼。」 「少々陳腐なセリフだが・・・しょうがねぇ、一緒にいてやるか!」 「じゃあ、契約成立ってことで。これからもよろしく、ご主人様。」 たまらず駈け出して二人の胸に飛び込んだ。
小説はこれで終わりです。
連理・比翼は本にして銀行に眠らせることになりましたが、本当はこうやってテレットエルフの彼らとずっと添い遂げたかった(TωT)
もうあの時のようにガツガツお金を稼ぐ必要はなくなったので、彼らを連れてまたまったりどこかに遊びに行きたいです。 子育てが一段落ついた頃、まだRSのサービスが続いていればいいな~Σ(ノ∀`*)
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