カテゴリ:旅ネタ
何ら説明を要しない絵であると思うが、画材がよくわからない不思議な絵である。オイルペイントにしては盛り上がりすぎているし、発色も顔料や染料みたいにはっきりと明瞭なものではなく、まるで自然の素材をそのまま透明絵具に混ぜ込んででもいるかのように少しぼんやりとして柔らかだ。それに楽隊の背景にあるように木の板に直接絵具を乗せている。背景に色をつけず、そのまま木の肌を見せているのは何故だかよくわからないが、おそらく作者はそのままに木の肌を見せたかったのだろう。 描きかたはどうあれ楽隊が道を行くなんて胸躍る光景ではないか。絵から察するに楽隊が行くのはド田舎の一本道である。ステレオも大画面液晶テレビもホームシアターも此処にはないだろう。そこに楽隊が現れたのだから堪らない。興奮ものである。ガキどもは裸足で外へ飛び出して鍋やら釜やら叩いて群がるし、邑の働き手である青年たちは畑仕事を放って駆けつけて、嫁どもは家事も育児も忘れんと太鼓が刻むビートに身を任せ、爺さまも婆さまも血管が切れそうになるくらい血圧が上昇する。なかには感激興奮叫喚のままに失禁→失神→昇天と至福感に包まれた最期を遂げる高齢者だっているだろう。俺も大きくなったら楽隊に入るって宣言して学校なんか行かなくなるガキも出るし、興奮した青年は鍬を捨てて楽器を手にとり、嫁は旦那以外の子供を産むかもしれない。ほら、なんて素敵な楽隊だろう。彼らは癒しなんか知らない。聞けば誰もが身も心も躍りだす、そんな楽隊だ。 昔はいざ知らず、今の日本の何処にも楽隊が来ない。 テレビは分裂病増幅装置でしかないし、ステレオもDVDもホームシアターも規律され制御され抑圧された音しか出してくれない。音や映像に限ったことではない。日常も文化も政治も、この国にあるのはどこまでも抑圧ばかりだ。狭い島国の見渡す限りの大地に抑圧が広がっている。 それでもいつか、私は水平線の彼方から楽隊が現れるのではないかと期待しているのである。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2008.05.06 11:15:59
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