海に咲く花 8
「こんな小さな時から、丸く収めることを教えるのかい?キミは、ゆうクンのお母さんに何て言われて、何て言ったんだい?」 父さんは、落ち着いているけど、母さんはカッカしている。「文句を、ごちゃごちゃ言われたから、謝っといたわよ!後までうるさいの、ごめんだわ!」「ごちゃごちゃ言われたって、どういうことを言われたんだい?キミが謝っといたと言う事は、塁だけが悪いということなのかい?」「もう、いいわよ。思い出したくも無いわよ。こんな小っちゃいことで。大げさなのよっ」「塁にとっては、小っちゃいことでも、大げさなことでもないぜ。今が大事だろ?ぼくは、塁に今のうちに考え方の基本を教えておきたいんだよ。こっちが一方的に悪いわけじゃないのに、ちゃんと話し合いもせずに、こっちだけが謝るなんてそんな卑屈なことじゃなくて、さ」「でも、世の中に出たら、悪くなくたって謝らなくちゃいけないことって、わんさか、あるじゃない。そんなきれいごとばかりじゃないわ」「そうだよ。あるよ。ぼくだって、会社でぼくが悪くなくたって、謝ることあるよ。潔く謝れることもあるけど、本当に、屈辱的な時だってある。思わず席を蹴って立ちたいことだってあった。でも、その屈辱が自分を成長させてきたと思ってるよ。学習するからなんだよ。感情的な怒りの内容を、理性と思考で分析して、克服してきたつもりだよ。酒で紛らわすようなことは、なるべくしたくなかった。でも、どうしても、そうしてしまうこともあったな、白状するとね」 母さんは、静かにうなずきながら聞いている。父さんは、また話し始めた。「塁が、一方的に謝ることと、ぼくが一方的に謝ることは、まるで、まるで違うことだ。塁は、ゆうクンと利害関係がないんだから、対等に話し合ってもらいたいと思う。生きる力、避けずに話し合う力、主張する力、人の話を聞く力をつけることの方が、大事だとぼくは考えているんだよ。子どものケンカに,親が出てきて親が謝って終わり、というんじゃなくてね。もっと、子どもにかかわって、きちんと教えてやりたいんだよ。じっくりと、考えられる子になってほしいんだ、塁には、ね。自分が悪い時には、当然謝らなくちゃいけないけどね。塁は、激しい子だから、特に今が大事だと思うんだ。その、激しさを正しいことのために使って欲しいと思う。どうだい?」 母さんは、父さんの顔をじっと見てうなずいている。 ―あの時、ぼくは本当に幸せの中にいたと、思う。ずっと続いて欲しかった!―「そんな訳で、ゆうクンの家に、塁と二人で行って来たいけど、いいかい?それとも、キミも行くかい?」「私は遠慮しとく。お父さん、頑張って。塁のためよね?」 父さんは笑いながら、「そうだね。キミのためでもあるし、ぼくのためでもあるな」「えっ?そうね、そうよね。行ってらっしゃい」 母さんは、あっさりしすぎだ「塁、行こうか」 ぼくは、本当は、嫌だった。でも、もう母さんまで、父さんの難しい話にのってしまったので、行くしかなかった。「そうだ、そうだ。植木べらを忘れてたな」 父さんは、ゆうクンの家にケンカをしに行くつもりなのだろうか。植木べらなんか、どうして必要なのだろう。 つづく