|
テーマ:おすすめ映画(4068)
カテゴリ:中国映画
≪鬼はやって来る、誰にでも"鬼"の心は潜んでる≫ カンヌ映画祭グランプリ受賞作品で戦時中の中国における日本軍の話、と言うことぐらいしか知らないで観たのですが、観終って何とも心がザワザワとした衝撃を受けました。 第二次世界大戦末期、中国のある村の青年マーの元に"私"と名乗る男がやって来て二つの麻袋を放り出す。その男は「この袋を晦日まで預かってくれ。もし日本軍に渡したりばれたりした村人を残らず殺す」と銃を突きつけ脅し去って行った。一つの袋には日本兵花屋、もう一つの袋には中国人の通訳トンが入っていた。マーは長老や他の村人に慌てて相談するが、結局2人を預かる事にする。 突然麻袋を置いていかれその中には日本兵と通訳。日本兵花屋は最初は「殺せ、早く殺せ!」とわめくのですが、通訳のトンは全く違うように訳します。 村人が名前は?と尋ねたのに対し花屋はメチャクチャ差別用語をまくし立てます。それを聞いた村人は「随分長い名前だなぁ」と言ったり。通訳が助かろうとして上手い事ごまかして訳していたのですが、そのちぐはぐさがとっても面白いです。 何とか2人を隠そうと、日本兵が来た時に慌てふためき精一杯の嘘をつきおどけてサービスする村人の滑稽さや、日本軍の一等兵と二等兵の関係や彼らのアホさ加減など、前半から中盤まではコメディタッチで描かれています。 半年間も自分達の世話をしてくれた村人に感謝の念が起き、軍に戻してくれたら上官にかけあって村に穀物を与えてもらうように言う花屋と通訳を連れ軍に行く村人。そこで見る日本軍の様子。そこから村に帰って楽しい宴。このまま終わってくれるといいのだけど、でも時間がまだたくさん残っている。このままでは終わってくれそうにない嫌な予感は的中し、恐ろしい事件がおきそのままラストの悲劇へと突き進みます。 アジアの国が第二次世界大戦の事を題材にする時決まって描かれる日本兵の残虐さ。確かにこの映画にもその残虐性は見られます。ただ、やみくもに日本軍だけが悪いように描かれているとは思いませんでした。中国人を鷹揚に親切に描いてはいますが、同じく彼らの卑怯な部分も同時に描かれています。 この監督は日本軍の組織や上下関係など実に細やかに研究していると思いました。軍内でのいじめとか体罰は概ねあんなものだったのじゃないかと想像はつきます。 又この村には日本軍の施設があり、村人と日本軍とが上手く折り合いをつけてやっている様子も描かれています。実際そういう部分もあったのではないかとも思えるのですが、そう言った部分もウェン監督は恐れず描いています。中国共産党からはクレームがつくかもしれませんが。 でも、あんなに村人に心を許してた花屋が何故急に?と腑に落ちないのですが。上官に親しそうに話す村人が気に入らなかったのか…? タイトルの"鬼"とは日本軍の事でしょうけど、人間は誰しもちょっとした事で鬼になり得るのではないのでしょうか。その事もこの作品は示唆していると思います。 実際にラストのマー。彼も又"鬼"になったのでした。 それと組織、集団の中の個人。大きな組織の中で一つ間違えば事の良し悪しの判断が鈍り、強い意志がないと人は大きなものにまかれてしまいます。ここでは描かれているわけではありませんが、その後の中国の文革。紅衛兵のやった事も日本軍のやった事と結局変わりはないと思います。 日本軍を描いた、私には納得出来る映画だったからこそ観終わった時の衝撃も大きかったのだと思います。 香川照之と監督であり主演でもあるチアン・ウェン、その他どの出演者もとてもインパクトがありました。 結局"私"とは誰だったのか? 面白い場面も多くあるのですが、禁句である差別用語が多発され最初から最後まで何となく顔をしかめて、落ち着かない気持ちで観たように思います。 怖い映画です。でも、観て良かったと思える作品でした。 鬼子来了! 2000年 中国 監督:チアン・ウェン 脚本:チアン・ウェン、ユウ・フェンウェイ、シー・チェンチュアン、シュー・ピン 原作:ユウ・フェンウェイ 出演:チアン・ウェン、香川照之、チアン・ホンポー、ユエン・ティン、澤田謙也 DVD お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[中国映画] カテゴリの最新記事
|
|