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カテゴリ:ドイツ映画
ある曲が1人の男の人生を変えた。 1984年、壁崩壊前の東ベルリン。国家保安省(シュタージ)の局員ヴィースラー大尉は、反体制の疑いのある劇作家ドライマンと彼の同棲相手の女優クリスタを監視し、反体制分子の証拠を掴むように命じられる。早速ヴィースラーはドライマンの部屋に盗聴器をしかけ、徹底した監視を行う。 ヴィースラーはめちゃくちゃ冷酷な男です。冒頭の囚人の尋問や、シュタージ幹部養成講義における取調べテクニックの伝授のシーンなどからもそれは見て取れます。裏を返せば、国家に忠誠を誓った大変真面目な人間なのです。そんな人が命令に忠実に任務を果たしていくのですが、そんな中でドライマンやクリスタが語る音楽や文学に触れるうちに、ヴィースラーの何かが変わっていくのです。そしてそれは、「善き人のためのソナタ」と言う曲を聴いたことで決定的になります。 映画は彼がドライマン達の秘密を知ってからそれを上部に隠しておき、そしてドライマン達を助ける部分などが大変スリリングで、クリスタの辿る道などサスペンス色も帯びて目を離せません。又ヴィースラーの冷酷そのもののような人間が少しずつ人間味を帯びていく様子が手に取るようにわかります。でも、私達には分っても映画の中の人間に絶対にそれは分ってはいけないのです。その辺りの不安が否応なく画面に惹きつけられる要素です。 私がこの映画を観たいと思ったのは、監督のインタビュー記事を読んだ事がきっかけでした。その記事にはヴィースラーを演じたウルリッヒ・ミューエの事が書いてあったのですが、どういう経緯でそうなったのかは分りませんが、彼は高校卒業後シュタージに監視を受けていたという事なのです。しばらくして演技の勉強を許され劇団に入るのですが、実はその劇団で親友だと思っていた4人の俳優達が彼を監視する為だけに劇団に所属していた事。そして、6年間結婚していた奥さんが彼の情報をシュタージに流していたという事。唖然としました。ですが、そういう事は当時は普通だったという事実。中国の文革時代や、日本も戦争中はそういう密告者とかの話を聞いたことがありますが、そんな周りの者が誰も信じられないような社会に生きなければならなかった人たちの思いを考えると・・・何が怖ろしいって、自分達の行動が逐一把握され、見張る為だけに親友を装い、妻を装い近づく人たち。そんな世の中で明るい気持ちで暮らしていくのは到底無理なように思われます。おそらく旧東ドイツの人たちもそういう状況だった事実はある程度当時予想していたかもしれませんが、周りの人たちまでもが自分を裏切っていた(情報提供者)というのは壁の崩壊後、情報が開示されるようになってから知ったのだと思います。ミューエも友人や妻達の事は1993年頃知ったと記事に載っていました。彼らの驚きや悲しみは私達の想像の範囲を大きく超えているでしょう。 壁崩壊後にドイツ国民は自分達で立ち直らなければならなかった。その為に東ドイツ時代の事を忘れる事を学んだのだとか。話題にする時は笑いの材料としてで、シリアスに描く事を避けていたのだとか。この映画は初めてシュタージの実態を描いた作品だと言われています。だから、是非観たいと思ったのです。 映画では、壁崩壊後のヴィースラーの様子が描かれています。その先は語りませんが、ラストはとても感動的です。1人でも分ってくれていた、それで幸せなのかも。 ただ一つ、ヴィースラーの考えをあれほど変えた音楽だとすれば、劇中でもっと多用されても良かったのでは・・・ DAS LEBEN DER ANDERN / THE LIVES OF OTHERS 2006年 ドイツ 監督/脚本:フロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク 音楽:ガブリエル・ヤレド、ステファン・ムーシャ 出演:ウルリッヒ・ミューエ、セバスチャン・コッホ、マルティナ・ゲデック、ウルリッヒ・トゥクール 他 善き人のためのソナタ スタンダード・エディション(DVD) ◆20%OFF! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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