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カテゴリ:香港映画
1920年代中国、北京。娼婦の子小豆子は、母親に無理やり京劇の学校に入れられる。他の子からいじめられるが、唯一かばってくれたのは年上の石頭だった。華奢で美しい顔立ちの小豆子は女役に決められるが、なかなか上手くいかない。気の遠くなるほどムチ打たれる小豆子だったが、厳しい稽古に耐え、成長し、やがて程蝶衣という名で、石頭は段小樓と言う名で舞台に立つようになる。「覇王別姫」で段小樓は項羽を、程蝶衣は虞姫を演じる名コンビのスター役者となっていくが… まず少年時代の小豆子を演じる子が、本当に女の子のように華奢で美しいので、この子は実際女の子ではないかと思ってしまいました。 京劇の学校でのシーンは、とにかく厳しく、スパルタで、半ば虐待ではないかと思えるくらい痛々しさを感じてしまいます。反吐がでそう。しかし、そのような過酷とも言えそうな稽古が意味を成していくのです。友達と学校を抜け出して実際の舞台を観に行き、その友達が、この素晴らしい舞台で演じる裏で、役者たちがどれだけ涙を流しただろう、と泣くシーンがとても印象的でした。 でも、印象的なシーンは本当にたくさんある映画でした。未見の方の為にあまり多くは言えませんが、○○を切り落とし、友達や多くの人の死、まあ、他にもいろいろ。 大人になってから蝶衣がレスリー・チャンになります。私は京劇の女形の甲高い声もケバケバしい化粧も好みではありません。しかし、化粧したレスリーの顔も、身のこなしも実に美しく、思わず見とれてしまいました。 女役としての虞美人。蝶衣自身も舞台での項羽でなく、小樓自身をずっと愛していて、しかし、もちろんその対象として見てもらえず、おまけに小樓は娼婦の菊仙と結婚してしまう。子供の頃「娼婦の子」といじめられた蝶衣が、菊仙を蔑むという皮肉な運命。しかしながら、蝶衣から見ると敵役の菊仙を演じるコン・リーがいい。もちろんいろんな中国人女性がいるわけだけど、コン・リー演じる気の強いこの菊仙は、わりと私のイメージする中国人女性です。迫力あって、でもどこかもの悲しそうな雰囲気のする。 3時間弱もある作品ですが、蝶衣と小樓の50年間を、中国の歴史の歩みと共に飽きることなく観られました。それは、1920年代から70年代の清朝、日本軍占領時代、国民党、共産党、そして文化大革命へとめまぐるしい変化の時代、その時々の時代に歯向かいながらも迎合していかなければ生きていけなかった様々な人たちの悲しい運命を、見事に描いていたからだと思います。特に文革時代、共産主義政府の政策はかつて国民的スターだった京劇の人気役者を、国民が迫害するまでに至らしめます。この文革というものは、全てそうだったわけですが、そのリアルさはカイコー監督自身の経験からなのでしょうか。思わず背筋がゾッとしてしまうようなシーンでした。 人間の強さ、弱さをいろんな人物を通して描いていますが、そのどれもが誰も持ち合わせていると思うと、仕方ない、と思ったり、ものすごく怖ろしい、と思ったりとても複雑な思いで観てしまいました。 私はレスリー・チャンが活躍していた時代の香港映画を、リアルタイムではそんなに多く観ていませんが、もちろん彼のことは知っていました。しかし、彼がバイセクシャルだった事は彼の自殺によって知りました。詳しい事は何も知りませんが、この作品を観て彼の死がこの作品とリンクしてしまい、観終った時余計悲しくなった気がしたものです。 中国の近代史、京劇という狭い世界、そしてその中の「覇王別姫」と言う作品、そこに兄弟愛、同性愛、夫婦愛、といういろんな愛の形を織り込んで、時代に翻弄され続けた2人の京劇役者と1人の女性の悲しくて、切ない物語です。同時に大きな波に巻かれた時の人間の強さと弱さを多くの人物を通して観る事が出来た、強いインパクトを残す作品となりました。 ※ 余談ですが、夕べたまたまついていたテレビ番組「アンビリーバボー」で、フランスの外交官が、女性になりすました京劇の作家で役者のハニートラップにはまった話をやっていたが、法廷に並んだ外交官と女性になりすました実は男性のその中国人の様子は何とも間抜けと言うか何と言うか・・・分らなかったのかな・・・ 覇王別姫 FAREWELL TO MY CONCUBINE 1993年 香港 監督:チェン・カイコー 脚本:リー・ピクワー 出演:レスリー・チャン、チャン・フォンイー、コン・リー、グォ・ヨウ 他 角川エンタテインメント さらば、わが愛/覇王別姫 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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