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2012.07.10
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        普段息子とは滅多に話さない。本当に話さない。

        が、7月8日ちょっときっかけがあって話し始めた。


        「最近仏教の本に興味があって、図書館で時々借りてるんだ」

        「ふ~ん、ま、悪くは無いね」

        「手塚治虫のブッダが12巻そろって家にあるのも、

        なんか偶然じゃないような気がして」

        「そうなの?お母さんもまた読もうかなあ。偶然って面白いよねぇ」

        そんな話しをしていた。


        「あ、図書館で借りた本のことなんだけど、十六歳の娘さんが、

        ある日突然昏睡状態になって、

        それから25年間娘を看病し続けた女性がいて、

        その人がお母さんとよく似てるんだ」


        普段滅多に話さない息子の唐突な話で「ん?」と思った。

        そんなことを言われたのは初めてだった。何が似てるんだろう?

        ノンフィクションの本に書かれている人に似ているだなんて。

        しかも息子から言われるとは...。

        たぶん怪訝な顔をして「へぇ~、そうなの?」と私。


        「お母さんみたいだなあって、本を読んでてすごく思った。

        図書館で何の気なしに、偶然手に取った本なんだけど。

        あ、そのお母さん、ホニャペケを見たんだって」

        「ほお...ああああ...ダメだ。鳥肌が治まらないや。

        その本読んでみたいなあ。ググってみるから検索ワードをいくつか...」

        「うーんと...ああ、思い出せないなあ…」

「うん」


        少しして


        「あ、エドワーダ!それでお母さんはもう亡くなったって。

        テレビでもやったらしいよ。たけしのアンビリバボーだったかな」

        「ふ~ん、エドワードじゃないのね。じゃ、これだけでヒットすると思う...」

        「うん、それが娘さんの名前で、お母さんの名前は二文字だった」


        BINGO!


        娘さんの名は「エドワーダ・オバラ」

        本のタイトルは「眠りながら奇跡を起こす少女」


        ヒットしたページのどこに入ろうか。

        日本人の苗字みたいだねぇと、息子と話しながら迷っていた。


        上から二つ目に「オバラ・ケイさん逝去」とあったので、

        そこへ入ると、ベッドのお嬢さんの手にキスをするお母さんの写真だった。

        パソコンを息子の方へ向けて、その状態で彼と話していた。


        その時突然、目の前が青と白の、ぼや~っとしたストライプのような色になった。

        写真でエドワーダは青い服を着ているのだが、その青とは全く違う青

        とても色鮮やかで、鮮烈な青だった。

        目を開けた状態で見えたビジョンだったのだけど、

        そのビジョンで実際の視界が遮られる感覚になったほど。

        そんな強烈なビジョンを受けるのも久しぶりだった。

 

        なので、一瞬『あれ?なんだこれはっ!』と思った。

        画像を作ってみたが、どうにも難しい。

        本当は青と白の境は、丁度ピンボケ写真のようにもっとぼや~っとしていたし、

        白い部分はもっと不規則なドレープ状だった。

        でもペンタブはないし再現できないので、大体こんな感じということで。

        とにかく白より、青が強烈に印象に残った。

 

        ウルトラマリンブルー


        その色が見える前から、部屋の上のほうに存在は感じ取っていた。

        それと私のやや左胸に、物質的なほどの違和感がし始めた。

        忘れていたほど本当に久しぶりのことだったため、私はかなり面食らっていた。

        『ああああ、ダメだ…まずい…なんとかしなきゃ』

 

        まさか息子が見ている前で依代になるとは思わなかったので、

        できればそれを避けたくて、言葉遣いがおかしくなってしまった。

        結局私の口から出たのは、「今、目の前が青いんです」

        『ナニ言っちゃてんだ、私は!』心の半分で突っ込んでいた。


        もう拒否は出来ないので、私はそう言って眼を閉じるしかなかった。

        彼女の感情が流れ込み、ケイが泣き始めたので。

        「ごめんね、ちょっとお母さん、今ケイが来てるから」

        こうなると、経験上身を任せるしか方法がない。

        キリスト教圏の方はどうも、なだぼうぼうになりやすいので…。


        最初はケイと私の、母親として子を思う悲しみの感情の共鳴だった。

        この胸が自分でない状態を、久しぶりに味わう。

        なぜ私は泣くのか。

        彼女が泣くから。

        私の中でぼうぼうと泣くから。

 

        どうして思い出さなかったんだろう、彼女が亡くなってると聞いたその時に。

        私の上腕部分だけの、治まらない鳥肌のその理由を。

        自分が「依り代」の身であるということを。

        ケイは鳥肌が立った時点で私の近くにいたんだ。

        いや、7月8日に自分と娘の話題が私の息子から話されることを、

        あちらの世界で知っていたはずだから、もしかしたらもっと前からいた

        かもしれない。

        私が見えるタイプだったら、違っていたのかもしれないが。

        依り代となると、そう言ったタイプの能力とはまた違うのかなとも思う。


        前回の胸に強い圧迫感があるほどのことは、どれくらい前のことだろう。

        もう覚えてない程だ。

        というもの、実はもう2年半近く前かなあ。

        息子の希望で、私はマスターや他の存在と、声を出して話すことをやめていた。

        正直それは、私にとっては苦痛であり、苦悩だった。


        彼はそれなりに私が話す存在に、私が生きる希望を見出していることは

        理解しているようだった。

        しかし、私の声しか聞こえない彼にとっては、私の言動はどうしても奇異なので、

        それが苦悩になっていたというわけだ。

        母親が一人で笑ったり怒ったリ泣いたりしているわけだから、

        それは当然のことだ。

        ネットを見ながら存在と宗教や精神世界の話になることも多かったし、

        理解したかどうかは別として、この存在がどういうものかはざっと話してあった。

 

        私は肉体を持った人間なので、熱が入ればどうしたって声を出して

        会話したくなる。

        もちろん、外では極力そんなことはしないが、

        普通に人と会話しているのとなんら変わりがないので、

        ぼそっと出来るだけ小さい声で言う。

        なので、声に出さないと自然に話す機会が減る。

        話せないわけじゃなく、話している時間が短くなった。

        すると、存在を感じる感覚も、なんとなく弱まっていくような気になる。


        そんな状況だったものだから、この日息子のこの話は非常に意外だった。

        その唐突な場面にいろいろ面食らい、息子は私の左に座ってるしで

        相当困惑した。


        そんなわけでケイが来た時の感覚は、久し振りのことだった。

        で、ケイもそんな私と息子の状況は理解しているはずなのだけど、

        それ以上に高揚というか興奮しているのを彼女も抑えている。

        それが私の胸のちょっとイタ苦しいような圧迫感になったのかもしれない。


        「今、目の前が青いんです」と言った時は、もうケイが入っていたかもしれない。

        なので「ごめんね、ちょっとお母さん。今ケイが来てるから」と、

        息子に謝るしかなかったのだ。


        その直後、なんだかもうぼろぼろぼろぼろ涙が出てくるわ、

        堪えても堪えても嗚咽は漏れるわ。

        こういう状態の時は私の心が共鳴している時と、

        全く身体を貸しているような状態の時がある。

        後者の時は私は泣きたくないけれど、

        貸してる相手が(勝手に)泣いているという状態なので、

        もう泣き止むのを待つしかない状況。

        肉体が勝手に泣いているのに、私の心は『うんうん、泣きなよ。

        待ってるからさ』と至極冷静という、

        おそらく同じシャーマン以外、誰にもわかってもらえない感覚だ。


        で、ここまでの状態になるのは全員ではないけどキリスト教圏の人で、

        日本人はたいていの場合、私がどうぞと許可をしなければ体にまで入らない。

        当然のことながら、よほどの必要がない限り許可しないが。

        キリスト教圏の人だって、本当はわきまえているんだけれど、

        人によってどうしても興奮が抑えられないという気持ちが伝わってきて、

        入ってしまうのだから仕方がない。

 

        それで、これも思えば少し不思議なんだけど、

        ケイが泣いていると、突然窓の外からキャッキャと、

        2歳くらいの小さな女の子の笑い声が聞えてきた。

        声だけで女の子とわかった。

        それを聞くとケイは益々泣いた。


        「今外で女の子が笑ってるでしょ。

        ケイがエドワーダの小さい頃を思い出すって泣いてるんだ」

        嗚咽が漏れるほど泣いているのに、私は息子にそれを普通に説明する。

        彼にとっては泣いているのは私なのであるが、

        私にとっては泣いているのはケイで、説明は私なのだ。

        「ごめんね、これはお母さんの仕事みたいなものなので」

        気になったので再び彼に謝る。


        またキャッキャと鈴を転がすように楽しそうな女の子の声が続く。

        わからないんだ。その女の子の声しか聞こえない。大人がいるはずなのに。

        窓の下のはずなんだけど、窓のすぐ向こう側。

        うちは2階なんだけど、やけに窓のすぐそばで聞える。

        するとまたひとしきり泣くケイ…。


        「ケイがね、いい息子さんねって言ってるよ」

        無言でうなづく息子。


        ケイとの会話をいつやめたのか覚えていない。

        息子とまた話していた。

        「何か見えた?」

        「うん、草原、原っぱみたいな、草が生えてる庭のような。

        エドワーダが小さい頃そんな場所があったのかも」


        「お腹すいた?」

        本当に久し振りで、お昼を外で食べようと話していた。

        何年ぶりだろう。

        雨上がりの町を、「全くここの空は狭いんだから」なんて話しながら、

        ファミレスへと歩いていったのだった。

        (ああ、今日もぞろ目時間ばかり見ているな)


        帰りに図書館へ寄ってこの本を借りることにした。

 

なぜ私は泣くのか 2

 

★ shaman - innocence ★

 






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最終更新日  2018.03.01 05:37:25
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