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2023.03.11
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ジョン・H・アーノルド(図師宣忠・赤江雄一訳)『中世史とは何か』
~岩波書店、2022年~
(
John H. Arnord, What is Medieval History?, Cambridge, 2021[Second Edition])

 著者のアーノルドは1969年生まれ。イースト・アングリア大学、ロンドン大学バークベック校を経て、2016年からケンブリッジ大学歴史学部教授(訳者あとがき、209頁より)。
 邦訳に​『歴史』(新広記訳、岩波書店、2003年)​があります。
 訳者の赤江先生と図師先生については、本ブログではそれぞれ次の単著を紹介しています(また、それぞれの記事の中で、主な論文も挙げています)。
・​Yuichi Akae, A Mendicant Sermon Collection from Composition to Reception. The Novum opus dominicale of John Waldeby, OESA, Brepols, 2015
・​図師宣忠『エーコ『薔薇の名前』―迷宮をめぐる<はてしない物語―』慶応義塾大学出版会、2021

 本書の構成は次のとおりです。(各章の副題は訳者によります。各章の本質が明確に示されています。)

―――
第2版への序文
序文と謝辞
地図

第1章 中世を枠付ける―リアルとフィクション
第2章 中世を追跡をする―史料と痕跡
第3章 中世を読み解く―隣接諸学との協働
第4章 中世を議論する―深まる論点
第5章 中世を作り、作り直す―「中世主義」再考

訳者あとがき

中世をより深く知るための読書ガイド
索引
―――

 第1章は、中世が粗野で不快なものに違いないというイメージと、その誤解を解くことから始まります。たとえば、「魔女を火あぶりにしたんですよね?(中世には滅多にありませんでしたし、それはほとんどが17世紀のことなんです)……彼らが野蛮な振る舞いをしていたのは確かなはずです。例えば、局地的な暴力が絶え間なく生じ、気に入らない人々に戦争をしかけ、人々を拷問し、犯罪者を処刑していたのです。違いますか?(これらのどれも、今日には起こっていないとでも?)」(14-15頁から一部抜粋)というやりとりは、ありがちなイメージと反論が分かりやすく示されています。
 その後、19世紀からの歴史学の潮流を概観し、中世史を研究する者ならば意識しておくべき4つの問題(ナショナリズム、19世紀の態度・関心・概念による枠づけ、各国の歴史学の特質、そもそも「中世」は存在したのか)を挙げます。中でも、各国の歴史学の特徴(フランス…構造的な本質を見極めようとするため細部を犠牲にすることをいとわない、イギリス…特定のものやローカルなものに焦点を当て細部や例外の重要性を主張、など;各国の教育、文書館の特徴)に関する部分を興味深く読みました(28-30)
 第2章は、いわゆる史料論に関する議論です。校訂版と文書館にある写本それぞれの特徴、文書の使い方について概観したのち、年代記、証書、図像など、個別具体的な史料の特徴を論じます。ここで興味深かったのは、13-14世紀、イタリアのトスカーナ地方の多くの都市で、罪を犯しながら追っ手を逃れた犯罪者について、「ピットゥーレ・インファマンティ(侮蔑の肖像画)」という、その人物を描いた絵が、名誉を奪う視覚的な罰として公共の場所に掲示されたという事例です(74)
 第3章は、冒頭で、リーズとカラマズーで開催される大規模な中世史学会を紹介したのち、副題のとおり、人類学、統計、考古学、文化論などの隣接諸科学との協働を論じます。
 第4章は、中世史研究の個別テーマとして、儀礼、社会構造、グローバリズム、文化的アイデンティティ、権力の5つを挙げ、それぞれの研究動向を論じます。
 第5章は、中世を研究する意義に関する考察で、こちらも興味深く読みました。
 訳者解説は、特に中世史の位置づけや「中世主義」の意味するものについての理解を深めてくれますし、読書ガイドでは邦訳版オリジナルで関連する日本語文献も掲載されており便利です。
 訳文もとても読みやすく、丁寧につくられた良書だと思います。

(2023.02.08読了)

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Last updated  2023.03.11 16:34:38
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