小林登志子『古代オリエント全史』
~中公新書、2022年~
以前紹介した小林先生による『古代メソポタミア全史』の続編。前掲書では、周辺地域との関係性も重視しつつ、メソポタミア地方の歴史に特化していました(そのため内容も詳細)が、本書では、同時代のオリエント地方の各地域の歴史を概観してくれていて、それぞれの古代文明の縦の歴史と横のつながりがより分かりやすく提示されているように思います。
本書の構成は次のとおりです。
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はじめに
序 章 古代オリエント史とは
第1章 メソポタミア―古代オリエント史の本流
第2章 シリア―昔も今も大国の草刈り場
第3章 アナトリア―最古の印欧語族の歴史
第4章 エジプト―偉大な傍流
第5章 イラン―新参者アケメネス朝の大統一
終 章 ヘレニズム時代以降のオリエント世界
あとがき
主要参考文献
図版引用文献
索引
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高校時分にこのころの時代を勉強してから、ずっと気になっていたことがあります。古バビロニア王朝(メソポタミア南部)を、アナトリアにおこり鉄製武器の使用で強力だったヒッタイト(本書によればヒッタイト古王国時代のムルシリ1世)が前1595年頃に滅ぼします。この後、なぜヒッタイトはメソポタミア南部を支配しなかったのだろう、という点です。
概説書ではありますが、本書を読むと、古バビロニア王朝が滅びた後、その地を支配したのは「海の国」第一王朝であったこと(「海の国」も強力だったようです)。そしてヒッタイトのムルシリ1世は、本国を長期不在にしていた中、王族たちが反旗を翻しており、無事に帰国した後に暗殺されてしまった、ということです。結局、ヒッタイトは、強力な武器をもって各地を急襲し、支配圏を拡大しようとしていましたが、メソポタミア南部については、同じく強い力をもった「海の国」が競り合ったり、内紛によりうまくいかなかったのだろう、と現時点では理解しました。とりあえず、気になっていたことがなんとなくすっきりしましたが、また機会をみて、ヒッタイトに関する文献は読んでみたいと思います。
思い出からの関連する話ばかりになってしまいましたが、上にも書いたように、紀元前3000年頃から紀元7世紀頃までのオリエントの歴史を、縦糸(各国通史)と横糸(各国間の関係)をうまく紡いで概観してくれていて、とても分かりやすいです。本書冒頭には、各国の流れを比較できる年表が掲載され、また各章冒頭にはその国(地域)の年表と地図が掲げられており、理解の助けになります。
分かりやすく、古代オリエントの歴史を概観できる良書だと思います。
(2023.03.15読了)
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