シュテフェン・パツォルト(甚野尚志訳)『封建制の多面鏡―「封」と「家臣制」の結合―』
~刀水書房、2023年~
(Steffen Patzold, Das Lehnswesen. München, 2012)
著者のパツォルトはドイツのチュービンゲン大学中世史教授で、原著は学生向けに書かれた概説書です(訳者あとがき、156頁から)。
訳者の甚野先生は早稲田大学文学学術院教授。本ブログでは次の編著を紹介したことがあります。
・甚野尚志・堀越宏一編『中世ヨーロッパを生きる』東京大学出版会、2004年
本書は、封建制の研究史をたどった後、邦語タイトルにうかがえるように、様々な地域性、時代に着目して種々の史料を援用しながら、その多様性を浮き彫りにします。
本書の構成は次のとおりです。
―――
第1章 封建制の研究史
第2章 8、9世紀のフランク王国
第3章 10~12世紀の「封」と「家臣制」
第4章 13~16世紀のドイツにおける「封」と「家臣制」
第5章 結び―ヨーロッパでの多様な封建制の出現
訳者あとがき
注
索引
―――
各章の紹介については、訳者あとがきに明解にまとめられているので、本ブログでは割愛して、簡単にメモしておきます。
本書の要点は、古典的学説にあるような、8~9世紀に封建制が誕生したという見方を退け、11世紀末に誕生したという立場をとります。議論の過程で、古典的学説に痛烈な批判を加えたスーザン・レナルズの見解もしばしば紹介しつつ、一方でレナルズの見方にも批判を加えています。(レナルズの学説については、森本芳樹『比較史の道―ヨーロッパ中世から広い世界へ―』創文社、2004年、第10章で分かりやすく紹介されています。)
第1章で研究史がコンパクトにまとめられているのも嬉しいですが、本書の中で最も重要と思われたのは第3章です。ここでは、各地域(レナルズが国家ごとに論じたために見落としていたフランドルの重要性にも着目)の封建制のありようを丹念に分析したうえで、先述の結論を導き出しており、分量的にも本書の主要部分を占めています。
また、原著には一切注はついていないそうですが、本書には詳細な訳者注が付されています。文献情報に限らず、本文中に引用される史料については、その校訂版の該当ページだけでなく、ラテン語原文とその邦訳が示されていて、大変勉強になります。丁寧で分かりやすいつくりの1冊だと感じました。
法制史、制度史関係の文献はあまり読まずにきてしまっていますが、本書はコンパクトでありながら分かりやすくまとめられていて、封建制についての入門書としても格好の1冊と思われます。今後も適宜参照したい1冊です。
(2023.11.20読了)
・西洋史関連(邦訳書)一覧へ