織田武雄『地図の歴史―世界篇』
~講談社現代新書、1974年~
先史時代から現代までの、世界での地図の歴史をたどる一冊です。
約50年前の刊行ですが、概観をつかむのには便利で、たとえば最近でも、南雲泰輔「「古代末期」の世界観」大黒俊二/林佳世子(責任編集)『岩波講座 世界歴史03 ローマ帝国と西アジア 前3~7世紀』岩波書店、2021年にも参考文献として掲げられているように、基本的文献といって良いと思います。
本書の構成は次のとおりです。
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はじめに
図版目録
第1章 地図の起源
第2章 ギリシア・ローマ時代の地図
第3章 中世における世界図の退歩
第4章 近代地図のはじまり
第5章 地理的発見時代の地図
第6章 世界図における新大陸
第7章 メルカトルから近・現代地図へ
第8章 中国における地図の発達
むすび
索引
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構成のとおり、第1章は地図の起源として、文字を持たない民族の地図を紹介したのち、古代エジプト、バビロニアの地図を概観します。第2章から第7章まで、主としてヨーロッパを中心とした地図と地理的知識の展開を見て、第8章では中国の地図の歴史を素描します。
概説書なので各章の紹介は省略しますが、2点だけメモしておきます。
まず、第3章はその名も中世における世界図の「退歩」で、たとえば地球球体説が否定され、「中世では地球は球体でなく、平たい大地をなすものとふたたび考えられるようになった」(49頁)との記述もありますが、こうした中世の「退歩」説を批判する文献として、ウィンストン・ブラック(大貫俊夫監訳)『中世ヨーロッパ ファクトとフィクション』平凡社、2021年を挙げておきます(特にその第2章「中世の人々は地球は平らだと思っていた」を参照)。
また、アメリカ大陸の語源が、コロンブスたちがアジアと思い込んでいたアメリカ大陸を「新大陸」だと明らかにしたアメリゴ・ヴェスプッチ8(451-1511)なのは承知していましたが、そう提唱した人物のことは恥ずかしながら気にしたことはありませんでした。本書によれば、地理学者マリティン・ヴァルトゼーミューラ(1470-1518)が、ヴェスプッチの著作への解説にて、「第四の大陸がアメリゴ・ヴェスプッチによって発見され、大陸名は女性名を用いるならわしにしたがって、アメリゴの名にちなんでアメリカと称すべきことを提唱した」(126頁)とのことです。これは勉強になりました。
図版も多く、また索引も付されていて、丁寧なつくりの一冊です。
冒頭に書いたように、50年近く前の本ですが、主にヨーロッパを中心とした地図の流れを把握するのに便利な一冊です。
(2023.09.11読了)
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