角山栄『時計の社会史』
~中公新書、1984年~
角山栄氏はイギリス経済史等が専門で、本書のほか、『茶の世界史』(中公新書。のぽねこは未見)も有名です。
本書は、西洋のみならず、中国、日本も含めて、社会・生活との関りから時計の歴史をたどる一冊です。
本書の構成は次のとおりです。
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シンデレラの時計
東洋への機械時計の伝来
「奥の細道」の時計
和時計をつくった人びと
江戸時代の暮らしと時間
ガリヴァの懐中時計―航海と時計
時計への憧れ―消費革命と産業革命
昼間の時間と夜の時間
時計の大衆化―スイス時計とアメリカ時計
機械時計の歴史の終わり―ウォッチの風俗化
あとがき
参考文献
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冒頭は、「シンデレラはどうやって真夜中12時を知ったのか」という魅力的な問いから始まり、機械時計の始まりと発展、メキシコ・インドなどの時間意識を踏まえながらの時間意識の変化などを論じており、印象的な章です
第2章は中国でのヨーロッパ時計の受容(皇帝にとっての高級な玩具としての位置づけ)と、日本にはほとんど輸入されなかった理由を日本の不定時法の観点から読み解きます。
第3~第4章は日本の時間意識と和時計についての議論。現在の東芝の原点となる「田中製作所」を開いた田中久重についての紹介が興味深かったです(96-97頁)。
再び第5章以下はヨーロッパの時計の歴史に移り、時計の発展、労働時間や余暇時間といった時間意識などを論じます。
余談ですが、第1章で紹介される、ローマ数字のIVが時計ではIIIIと表記される理由が、一説によれば、シャルル5世というフランス王が作らせた時計塔のIVを見て、5から1を引くのが気に障りIIIIと書かせた、というエピソードが紹介されます。これは綾辻行人『時計館の殺人』(講談社文庫、1995年)でも紹介されていて(私自身は綾辻作品で先に知ったエピソード)、綾辻さんが本書を参考にしたのがうかがえます。
昼休みに職場で少しずつ読み進めたので、深く読み込めてはいませんが、分かりやすい叙述で、面白いエピソードも多く、興味深い1冊です。
(2023.12.14再読)
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