櫻井康人『十字軍国家』
~筑摩選書、2023年~
著者の櫻井康人先生は東北学院大学歴史学科教授。十字軍や十字軍国家の研究を多く発表されていて、単著としては本ブログでも次の2冊を紹介したことがあります。
・櫻井康人『図説 十字軍』河出書房新社、2019年
・櫻井康人『十字軍国家の研究―エルサレム王国の構造―』名古屋大学出版会、2020年
さて本書は、重厚な『十字軍国家の研究』が、その副題のとおり、十字軍国家の都市社会や農村社会にも着目し、社会構造を分析するのに対して、様々な十字軍国家がたどった歴史を通史的に叙述しています。いわゆる、何年に誰が、どこで、誰と、何をした、という、事件史・政治史・外交史的な叙述が中心で、社会に関する叙述はほぼありません。それは、あとがきにもあるように、本書で目指されたことが「まずは基本的であると考えられる情報を、努めて簡略に提供すること」であることによります。
本書の構成は次のとおりです。
―――
序 十字軍国家とは何か
I ラテン・シリア
第1章 ラテン・シリアの誕生(1097-1099年)
第2章 ラテン・シリアの形成(1098-1118年)
第3章 ラテン・シリアの成長(1118-1146年)
第4章 ラテン・シリアの発展と分断(1146-1192年)
第5章 ラテン・シリアの回復と再分断(1192-1243年)
第6章 ラテン・シリアの混乱と滅亡(1243-1291年)
II キプロス王国
第7章 キプロス王国の形成と発展(1191-1369年)
第8章 キプロス王国の混乱と消滅(1369-1489年)
補章1 ヴェネツィア領キプロス(1489-1573年)
補章2 キリキアのアルメニア王国(1198-1375年)
III ラテン・ギリシア
第9章 ラテン帝国(1204-1261年)
第10章 フランク人支配下のモレア(1)(1204-1311年)
第11章 フランク人支配下のモレア(2)(1311-1460年)
補章3 カタルーニャ傭兵団とアッチャイオーリ家(1311-1462年)
IV 騎士修道会国家
第12章 ドイツ騎士修道会国家(1225-1561年)
第13章 ロドス期の聖ヨハネ修道会国家(1310-1523年)
第14章 マルタ期の聖ヨハネ修道会国家(1523-1798年)
あとがき
主要参考文献
十字軍国家支配者一覧
―――
多少予備知識がないとややとっつきにくいかもしれませんが(今の私には正直とっつきにくく、今回はほぼ流し読みとなってしまいました)、記事の冒頭にも書いたように、通史的に基本的事項が整理されているので、必要に応じて手引き的に参照すると便利だと思います。
(2023.12.17)
・西洋史関連(邦語文献)一覧へ