米澤穂信『Iの悲劇』
~文春文庫、2022年~
米澤穂信さんによるノンシリーズの長編です。
誰もいなくなった集落―蓑石に、移住者を呼び込み再生させようとする市長肝入りのプロジェクトが進められていました。
プロジェクトを担う市長直属の組織―甦り課の万願寺さんは、定時を死守する西野課長、採用2年目の観山さんとともに、蓑石への移住者支援に取り組んでいました。
ところが…。パイロットケースとして移住してきた2組は近隣トラブルになり、やがてある事件をきっかけに蓑石を去ってしまいます。さらには、本格移住で移住してきた10組の世帯も、様々なトラブルをきっかけに次々と蓑石を去っていくことに…。
公務員探偵といえば、西澤保彦さんの『腕貫探偵』シリーズを思い浮かべますが、市役所を舞台にしたミステリは本作で初めて読んだような気がします。
さて、主人公は甦り課で主に仕事を進める万願寺さん。なかなか頼りなさそうな上司と部下ですが、2人が意外と切れ者なのも次第に見えてきます。
火事、いなくなった鯉、行方不明の男の子、食中毒事件、開かなくなる部屋と、それぞれの謎解きも面白いですが、ラストですべてがひっくり返る鮮やかさが見事です。
主人公の感慨も印象深いです。
良い読書体験でした。
(2024.02.08読了)
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