後藤里菜『沈黙の中世史―感情史から見るヨーロッパ』
~ちくま新書、2024年~
博士論文をもとにした単著『〈叫び〉の中世―キリスト教世界における救い・罪・霊性―』名古屋大学出版会、2021年に続く、後藤先生2冊目の単著です。
本書刊行時点で、後藤先生は青山学院大学文学部史学科准教授。心性史、霊性史、感情史などがご専門で、本書ではこうした問題関心から、前著とは対照的に「沈黙」に注目して中世ヨーロッパを概観する興味深い1冊です。
本書の構成は次のとおりです。
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はじめに
第1章 祈りと沈黙
第2章 統治の声の狭間で
第3章 感情と声、嘆き、そして沈黙
第4章 聖と俗
第5章 聖女の沈黙
第6章 沈黙から雄弁へ
第7章 沈黙を破る女
おわりに
読書案内
あとがき
参考文献
図版出典
索引
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第1章は、修道院での沈黙を扱います。手話の具体例や、沈黙とは対照的な叫びなども紹介されます。
第2章は権力者の沈黙を扱います。具体的には、訴訟、おべっか、涙・嘆きなどのテーマが扱われます。
第3章は主に服喪の嘆きを扱います。このブログでも何度も書いていますが、泣き女について興味があるもののそれを扱う文献に当たれていない中、ここでは古代アテナイの泣き女に言及があり、興味深く読みました。
第4章は紀元千年頃からの、俗人とキリスト教の関わり方の変遷をたどり、民衆運動や、それを受けての托鉢修道会の誕生などを見ます。
第5章は、聖女たちの沈黙と声に着目し、預言者ヒルデガルド・フォン・ビンゲン、半聖半俗の生き方をしたベギン(ベギンについての邦語の基本文献として、上條敏子『ベギン運動の展開とベギンホフの形成-単身女性の西欧中世』刀水書房、2001年と国府田武『ベギン運動とブラバントの霊性』創文社、2001年を参照)たちを扱います。
第6章は再び俗人に着目し、聖職者らを揶揄するファブリオや、おしゃべりな「聖女」(?)たるマージェリー・ケンプが紹介されます。
第7章は宮廷風恋愛について概観した後、『薔薇物語』をめぐる論争とその中心的人物であるクリスティーヌ・ド・ピザンについて論じます。
各章冒頭に、その章に関連する史料からの引用が掲げられていたり、詳細な読書案内が付されていたりと、本のつくりも丁寧です。
(2024.07.31読了)
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