ルイス・J・レッカイ(朝倉文市/函館トラピスチヌ訳)『シトー会修道院』
~平凡社、1989年~
(Louis J. Lekai, The Cistercians: Ideals and Reality, The Kent State University Press, 1977)
『聖ベネディクトゥス戒律』の原点に立ち返ろうと、11世紀後半に設立され、現在もなお存続しているシトー会修道院に関する通史とその生活・文化を描く大著です。邦語の単著としては、いまなおシトー会に関するほぼ唯一の基本的文献です。
シトー会は、修道院の概説書の中ではもちろん触れられています。たとえば杉崎泰一郎『修道院の歴史―聖アントニオスからイエズス会まで―』創元社、2015年を参照。また、本書の訳者である朝倉先生による、
・朝倉文市『修道院-禁欲と観想の中世』講談社現代新書、1995年
も参考になります。
さて、本書の構成は次のとおりです。
―――
第1部 シトー修道会の諸世紀
第1章 11世紀の修道院改革
第2章 モレームからシトーへ
第3章 シトー修道院改革の根本原理
第4章 聖ベルナルドゥスとシトー会の発展
第5章 十字軍と布教活動
第6章 特許状、会憲及び管理行政の発展
第7章 スコラ哲学の挑戦
第8章 繁栄の終焉
第9章 諸改革と宗教改革
第10章 修族の勃興
第11章 規律遵守をめぐる闘い
第12章 シトー会修道士とアンシャン・レジーム
第13章 消滅の間際で
第14章 19世紀の復興―厳律シトー会(トラピスト)
第15章 19世紀の復興―寛律シトー会
第16章 20世紀におけるシトー会士
第2部 シトー会の生活と文化
第17章 霊性と学問
第18章 典礼
第19章 芸術
第20章 経済
第21章 助修士制
第22章 シトー会修道女
第23章 日々の生活と慣習
第24章 修道士と社会
訳者あとがき
シトー会修道院関連資料
シトー会修道院創立関係文書抄訳
用語解説(訳者作成)
統計資料
文献解題
索引
―――
全体で約640頁という大著なので、簡単にメモ。
第1章から第3章までは創設の背景から創設、そして初期の制度について。
第4章はクレルヴォーのベルナルドゥスの役割を強調し、彼のもと、シトー会が急速に発展することを述べます。本章以降、多くの章で、ヨーロッパ各地の状況に言及があるのが、本書の特徴の1つと思われます。(決して一部地域のみの叙述ではありません。)
第5章から第7章は主に12-13世紀の諸相を描きます(第7章は16世紀までの知的状況に言及)。
第8章以降は、中世後期から現代(1970年代)までの通史。主に中世の勉強をしてきているので、中世後期以降の状況を学べるのは貴重でした。
特に関心をもって読んだのは第2部です。上掲の構成のとおり、シトー会士の生活と文化の諸側面が描かれます。それぞれのテーマについて通史的に、また様々な地域の状況について言及されています。
第19章は、写本の頭文字や、建築について。
第20章は、土地の開墾、商業、ワイン醸造など、経済活動の諸側面を描きます。
第23章は一日の生活リズムからはじまり、食事、寝室、病人の施療、埋葬など。
第24章は、シトー会の入会者と寄進(財政的援助)、接待、病人や貧者の世話、司牧、少年・少女の教育、修道会への批判など、シトー会修道会と社会のかかわりの諸側面を紹介します。
訳者作成の用語解説は項目見出しに英語とときにラテン語も示されていて、大変貴重です。
巻末の約40頁及ぶ資料は、シトー会の分布図や各修道院の会員数などの統計情報を示していて、こちらも貴重なデータベースとなっています。
以上、ごく簡単なメモとなりましたが、このあたりで。
学生時分に部分的には読んで勉強していましたが、このたび(ざっとですが)全体を通して読むことができ、あらためて勉強になりました。
(2024.03.08読了)
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